BLドリーム3
 レンアイIQ

君。これ運んでくれる?」
「うん、いーよー」
 ただいま午前七時。今は朝だというのに何故か空気はどんよりしている。
 曇り空のせいか、普段こんな時間に起きないのに無理に起こされてまだ寝ぼけたままの人間のせいかは分からない。
 は頼まれたドリンクを運ぶはずが自分で飲み始める。
「うん、うまい」
 そう言ってベンチに座ると、すぐにこっくりこっくり船を漕ぎはじめてしまう。
「もう、くんったら勝手に飲んじゃだめでしょ〜?」
「うん、ごめん」
 あやめは「しょうがないわねえ」と言っての寝癖のついた頭を撫でる。
「うわぁ、君の髪の毛さらさらねえ。羨ましいな」
「そうお〜?」
 寝ぼけたままのはされるがままだ。
「おい、マネージャー!ドリンク!」
 三上が練習を終えてもいないのにベンチにやってきてそう言った。
「ちょっと三上君。まだ練習は終わってないでしょ?」
「うるせえな。おい、!早くよこせよ」
「ほ〜い」
 と、言ってはさっき自分が飲んでいたドリンクを三上に渡してしまった。
君!それさっきあなたが間違えて飲んだやつでしょ!」
「え!?」
 はそれで目が覚めたらしい。
 けれど既に三上はの前でドリンクを飲んでしまっていた。
「ってことは間接キスだな」
 ニヤリと笑いながら三上はをからかうと、はボッと音と煙をたてて真っ赤になってしまう。
「ば、ばかか!朝っぱらから変なこと言うんじゃねえよ!」
 精一杯は応戦してみるが、やはり三上には勝てないようになっているらしい。
「変なこと?お前が変に意識しすぎてるだけだろ。顔赤いし、間接キスがそんなに恥ずかしいかねえ」
「お、俺はこう見えても純情なんだよ!」
「へー。部屋にあんなにエロほ・・・」
「わ〜!!」
 はあやめに聞かれてはまずいので、慌てて三上の口を塞ぐ。
「ドリンク新しいのに替えてやるからさっさと練習に戻れよ!」
 はそう言いながら三上の持っていたドリンクを取ろうとしたが、三上は離さなかった。
「いいよ。お前の飲んだやつを貰っといてやるよ」
 が何か言い返す前に、三上は去っていってしまった。
「へえ、君って三上君と仲いいのね」
「全然良くないよ!いつもケンカしてるし」
 あやめはふ〜んと言ってまたマネージャーの仕事にもどっていった。
 
 ・・・なんかあやめちゃん信じてなさげ?
 でも本当に仲良いわけじゃないし。たぶん・・・。

 はマネージャーの仕事も忘れて物思いに耽る。

 そういえばさっきあやめちゃんに頭撫でられてたら三上のやつ邪魔(?)してきたよな。
 それってつまり三上って・・・
 あやめちゃんのことが好きってことなのか?

 そう思った途端、今までに味わった事のないような寂しさを感じた。
 は知らず知らずのうちに自分を抱くように腕を組む。


 その日のは珍しくどの授業も寝なかったが、ずっとボーっとしていた。
 三上がそんなを見てからかうことにした。
「おい、珍しく寝なかったな。うかない顔してるけど何かあったのか?」
「・・・別に」
「一丁前に恋煩いとかじゃねえのか?」
「なっ!そんなわけないだろ!!」
 は顔を真っ赤にして言ったので図星だとすぐに分かる。
「誰だよ。このクラスの奴か〜?」
「ち、違う!俺はただあやめちゃんが・・・」
 三上と付き合っているのかどうか気になってるんだ、と言いたかったがチャイムがちょうど鳴り出す。
「あ、もう部活の時間だ。じゃあ遅刻するなよ」
 言ったらからかわれそうだったので、三上から逃げるようには走りだす。
「おい、・・・」
 三上が呼び止めたが、は聞こえないフリをしてそのまま去ってしまった。

 あやめってあのマネージャーのことだよな。
 あいつマネージャーのことが好きなのか?

 そう思ったとたん、三上はいつの間にか体が動いての後を追いかけていた。
「おい!ちょっと待てよ」
「み、三上!?」
 いきなり三上がものすごい勢いで追いかけてきたので、は驚いて反射的に逃げてしまう。
「何で逃げるんだよ!」
「俺もよくわかんねえよ!」
「だったら逃げるなよ!」
 三上が走りながらそう言ってもは逃げたままだ。
「そんなこと言っても・・・」
 は息が切れてきて辛そうなのに一向に立ち止まる気配が無い。
 必死に走って三上はようやくに追いつく。
「逃げるなって言ってんだろ!!」
 どんっと音を立てて三上はを壁に押さえつける。
「いたっ、離せよ!」
「お前・・・本当は誰が好きなんだ」
「三上には関係ないだろ」
 しばらく二人は見つめ合っていたが、三上が話を切り出す。
「・・・お前ってあのマネージャーのことが好きなのか」
 三上が今までにないくらいに真剣な顔をして、今一番に聞きたいことを口にした。
 そんな三上の真剣な表情を見たはドキッとするが、あやめのために真剣な顔をしているのだと思い、気が沈んでしまう。

 やっぱり三上とあやめちゃんは付き合ってるんだ。
 いや、そうじゃなくても三上はあやめちゃんのことが好きなんだろう。
 こんな真剣な顔をするなんて、俺があやめちゃんのことを好きだと勘違いして警戒してるんだろうな。
 ・・・違うのに。
 俺はあやめちゃんじゃなくて三上のことが・・・。

 そこまで思ってははっとした。
 
 俺今なんて思ったんだ?
 あやめちゃんじゃなくて三上のことが・・・?

 そこまで思ったら三上の前だということも忘れては赤面してしまう。
 三上はなかなか話さないに痺れを切らせて、無理やり自分に注意を向けさせることにした。
 の腕を突然掴むと、
「それでお前は誰が好きなんだよ」
 の顔を覗き込むようにして言った。
 それでもは顔を隠したがるので、三上はの顎を掴んで顔を上げさせてから意地悪く言ってやる。
「まさか俺とか?」
 言われたとたんはさらに顔を真っ赤にしてしまった。
 三上はそんなをまじまじと見ていたので、は恥ずかしくて三上の腕を思いっきり振り払うとそのまま逃げてしまった。
 三上はの消えていった廊下の曲がり角の辺りを見てボーっとしていた。
 が、急に得意のデビルスマイルを浮かべると、
「・・・本当に俺か?」
 疑問系であるが口調はかなり確信をもって言った。

「なんだかやけに嬉しそうじゃないか。はずっとうかない顔してるっていうのに」
 部活の休憩の時間に、渋沢がずっとにやにやしっぱなしの三上にいいかげんに飽きてそう言った。
 三上は今からをからかってやろうと思っていたので、渋沢には適当に何か言ってのもとへ行こうとした。
「まさかと何かあったのか?」
 相変わらず鋭いやつだ。と思ったが三上は、
「別に何もねえよ」
 という一言だけ言ってのいるベンチに行く。

 今のところは、だけどな。

 渋沢は三上がそう言うのなら何も無いのだろうと思うことにした。
 三上が言うだけにかなり怪しいが、自分が口を出す筋合いは無いと考えたからだ。
 それでも何となくに同情してしまうのは何故だろうと、理由は何となくわかっているのだが渋沢はそう思わずにはいられなかった。

 はマネージャーのあやめとなにやら楽しそうに話をしていた。
 三上が近寄るとあやめが気付いて声をかける。
「どうしたの三上君。タオル?ドリンク?」
 あやめの台詞がなんだか所帯じみているように聞こえて、は知らない間にむかむかしてくる。
「いや、に用があるんだよ」
「俺はない!!」
 むかむかしたままはベンチから立ってどこかへ行こうとする。
「待てよ、どこ行くんだよ」
「トイレだよ!ついてくんなっ」
 そう言ってはさっさとトイレに向かう。
 後から三上もついて来て、
「じゃあ俺も行く」
 と言いながらの後をついていく。
「来るなよ!」
「俺もちょうどトイレに行きたくなったんだよな」
「うそこけ!!」
 は三上を見向きもせずに真っ直ぐトイレに向かう。
 もう三上を完全に無視することにしたらしく、三上がついて来ても構わずにトイレに入る。
 じょぼじょぼ。
「へえ〜」
 が用を足していたら、隣から三上がのブツを覗き込んでいた。
 見られた恥ずかしさに居たたまれなくなり、やはりは三上の相手をしてしまう。
「お前トイレに何しに来たんだよ!さっさとションベンしろよな!!」
「ああ、俺のそんなに見たいのか」
「違うわい!!」
 はそう言うと三上から逃げるようにトイレから出ようとする。
「待てよ。話があるって言っただろ」
 いきなり三上に腕を掴まれて、はバランスを崩して体がぐらついてしまう。
 咄嗟に三上はを抱きこむように支えてやる。
「は、離せよ!」
 いきなり抱き付かれたような格好に恥ずかしくなって、は慌てて三上の腕から逃れようとする。
「暴れるなよ!ちょっとぐらい俺の話を聞いてくれたっていいだろうが」
「・・・じゃあちょっとだけ聞いてやるよ」
 このままではずっと三上に離してもらえないだろうと思って、はまだ抱きつかれたままだったが、妥協して三上の話を聞くことにした。
 まっすぐ三上の顔を見つめるを間近で見て、やっぱりこいつは俺のものにするべきだよな。なんて考えていた。
「それじゃあいきなり聞くけどお前の好きな奴って誰なんだよ」
「・・・またそれかよ」
 はため息をつきながらそう言った。
 続けて、
「何でそんなに聞きたがるんだよ。別にお前には関係の無いことだろ」
 と、にとっては最もなことを言う。
 三上はといえば少し苛立っていた。

 こいついいかげんアホじゃねえのか。
 何でってお前のことが気になるから聞くに決まってんのに、普通こんなことを聞くか?
 本当にこんな鈍い奴は初めてだぜ。

「お前って鈍すぎないか?」
「うるさいな!そう思うんなら俺が分かるように気を遣え!」
 何だかそれは癪に障るので、三上は意地悪をすることにした。
「嫌だね。せいぜい苦労して理由を見つけるんだな」
「んな!!」
 三上が話したいと言って来たのに、今更話さないなんてとしては納得がいかない。
 が絶句している間に三上はトイレから出て行ってしまう。
 が、トイレの出口のところで一回立ち止まると、
「そうだ、俺はマネージャーなんか好きじゃないからな。安心しろよ」
 ついでに、せいぜい無い脳みそ使ってがんばって考えるんだな。などと言って今度こそトイレから去っていった。
 いつの間にか三上が自分の好きな人を訪ねる理由探しになっていることに気がついて、はハテナマークを浮かべてその場に佇んでいた。

 でもさっきあやめちゃんのこと好きじゃないって言ったよな。
 
 それを考えると、今までずしりとした重みを背負っていたのがとれた感じだった。

 ・・・でも安心しろってどういうことだよ。
 別に何も心配なんかしてない!・・・はずだ。

 けれど今日一日でやっと心が晴れたような感覚は、そう簡単には無いことにはできない。


 が三上のことで悩んでいるうちに、もうすぐ中間テストが始まる時期になった。
「おい、。飯食うぞ」
 三上と渋沢がいつもの様にの席にやってきて、購買で買った弁当を取り出す。
 最近は三上のことを警戒しているのだが、昼食の時間だけはご飯を食べることに専念しているので素直に返事をする。
「うん。早く食おうぜ〜」
 ごそごそと弁当を取り出して早速は食べ始める。
「んん〜、うまい」
「そういえば、もうすぐ中間テストだが大丈夫なのか?」
 周りではもう参考書を取り出して、ご飯を食べながら勉強しているクラスメートがいるのに、少しもから緊迫したムードが感じられない。
 そんなは保護者役の多い渋沢にとって心配でならないのだろう。
「あ〜、大丈夫っしょ。中学は赤点無いから留年する心配もないしさ」
「だけど卒業してから困るんじゃないのか」
「そん時は適当に勉強するからいいよ」
「でもいい高校に入っとかないと最後は就職に苦労するぞ」
「大丈夫だって」
 どんなに渋沢が言っても、は相変わらず危機を感じないようだ。
「・・・つーか、何でお前みたいなアホがここに転入できたんだよ」
「アホは余分じゃないのか?」
 はアホ呼ばわりされて訂正したが、
「確かに。なんでがここに転入できたんだ?」
 渋沢が三上の疑問にかぶせるように言うので、はちょっといじけてしまった。
 そんなを無視して、三上はさらにに問い掛ける。
「で、何でここに来れたんだよ。うちの学校の転入試験って難しいって有名なんだぞ」
「・・・俺の母ちゃんがどうしてもここに入れってうるさかったんだよ」
 渋々とはそう言った。
「?どうしてだ?私立は金がかかるのにわざわざ入れたがるなんて」
 渋沢がもっともな疑問を口にした。
「俺このとおり何にもやる気の無い奴だろ?だから文武両道のレベルの高い中学に入れば、必死になってやる気が起きるんじゃないかっていう理由」
「だからってそんな簡単にここに入れるかって!」
「俺一人っ子だったし、金には割と余裕があったんだと。俺のために引っ越したわけじゃないけど、ちょうどいいからってことでここに転入したんだよ」
 はこれで満足しただろうと思って、お茶をずずっと飲む。
「待て、それは分かったけど肝心の、お前の頭でここには入れるかって質問にはまるで答えてないぞ!」
 三上は乗り出してに聞く。
 間近に三上の顔があるのでは少しドキドキしながらも、
「・・・じゃあ、信じてくれるか?」
 と言った。
 珍しく控えめに、しかも上目づかいに聞かれたので三上は表には出さなかったがドキッとする。
 ごまかすようにに言う。
「いいから言えよ。言わなきゃ信じるも何もないだろが」
「・・・俺さ、なんか実は頭いいんだって」
「「・・・はぁ?」」
 三上と渋沢がそろえてそう言ったので、は傷ついたみたいだ。
「や、やっぱりお前らも信じないんじゃねえか!!いいよ、どうせバカで!俺も自分のこと頭いいとはお世辞にも思ってないんだから」
「ちょ、ちょっと待てよ。急に言われてビビっただけだってば!だからもっと詳しく分かりやすいように話せよ」
 三上のその言葉で少し機嫌をよくしたはまた話し出す。
「うん。何で頭いいかっていうと、よく小学生のときに知能テストとかやったろ?それの結果がなんだか良かったらしくてさ。それでお宅のお子さんは素晴らしいですとかなんとか言われたんだと」
「・・・へえ」
「・・・そうなのか・・・」
 三上も渋沢も反応が薄かった。
 がまたそんな二人を見ていじけそうになった時、急に校内放送が鳴り出した。
「〜組の君。至急職員室に来てください。繰り返します、三年・・・」
 その放送が終わった途端、クラス中がに集中して注目した。
 他のクラスメート達がをからかって、「今度は何をやらかしたんだよ」などと言っている。
「やばっ!小テストの落書きのことか?」
 そう言っては昼食が済んでいたので、急いで教室から出て行った。
 が去った後に、三上が渋沢に問う。
「・・・さっきのが言ってたこと信じるか?」
「三上は信じるのか?」
「無理だろ」
 きっぱりそう言ったので渋沢はに同情したが、渋沢も三上と同様の言ったことを信じてなかった。

 そんな憐れなはというと、担任に説教を食らっていた。
「お前な!いいかげんこんな点ばかり取っていたら、留年するぞ!」
「ええ!?中学は義務教育だから留年はないんじゃあ・・・」
「うちの中学は名門の私立なんだ。そんな名門の中学でこんなしょうも無い点ばかり取ってもらうようじゃ、留年か他の中学に行ってもらうしかないんだ」
「げげっ!」
 そんなことははじめて聞いたので、はようやく焦り始めた。
「だから、どの教科も平均点以上取らないと強制的に転校させるからな!」
「ええ〜!!んなバカな!そんなことが許されるわけないでしょ!」
 はかなり焦っていたので思わず担任の胸倉を掴んだ。
 それにむっとした担任は、
「許される!しかも調べたところお前はかなりIQが高いそうじゃないか。そんなお前なら楽勝だろう」
 そう言ってを突き放す。
「せいぜいがんばってくれよ!」
 猫みたいに首の後ろを掴まれて職員室からぽいっと捨てられてしまった。
「うう・・・。いくらなんでも授業聞いてないんだから分かるわけないだろ〜」
 今度は犬のように耳と尻尾を垂らして、とぼとぼと教室に帰っていった。
 教室に入ると、渋沢がさっそく何があったかに聞いてきた。
「ああ、ちょっと大変なことになっちゃったみたい」
「まさか小テストの成績が悪すぎるから、どの教科も平均点以上取れって言われたとか?」
 三上がにやにやしながら言う。
 癪に障ったが、それよりもは驚いてしまう。
「な、何で分かったんだよ!」
「やっぱりな。じゃあ本当にお前が頭いいのかこれで証明できるじゃねえか。よかったな」
 どの教科も全然聞いていなかったのに平均点以上取るのは自信が無かったので、三上か渋沢に教えてもらおうとしていたが、その言葉で頼れなくなってしまう。
 渋沢は不安そうにを見ていたが、助け船は出してくれなかった。
 やはり渋沢もが本当に頭がいいのか気になるので、を助けようとはしてくれない。
「くそ〜、どいつもこいつも信じてくれやしない。・・・こうなったら俺はやってやる!」
 そう言うとはさっそく机に向かう。
「へえ、なんだかやる気出したみたいじゃねえか」
「だけど、全然授業を聞いてないに平均点以上出すのは無理があるな」
 渋沢の言ったことは確かにそうだと思ったが、別に平均点以上取れなくてもたいした問題にはならないと思って、単に三上は面白がっていた。
「無理でも楽しきゃあいいさ」
 そういって三上はの方を見たが、いきなりがくっと肩を落としてしまう。
「とか言いながらさっそく寝てやがる!!」
「・・・まだ授業も始まってないのに。これじゃあ完璧に無理だぞ」
 二人ともそろってため息をつくが、完全に眠りの世界に入っているには当然聞こえていなかった。

 結局午後の授業はいつもと同じように寝てしまい、はかなり焦っていた。
「むむむ、やばいなこりゃあ。全然授業聞いてなかった。でも部活はちゃんと出なきゃいけないし・・・」
 うんうん唸りながらも、一応部活に向かっては歩き出す。
「あ〜、けれどマジで部活どころじゃないんだよなあ・・・」
 ぼやきながら歩いていたら、急に何者かに抱きつかれた。
先輩!一緒に部活まで歩いていきましょうよ!」
「藤代・・・」
 藤代の能天気そうな顔を見ていると、何だか普段彼を蹴り飛ばしている三上の気持ちがなんとなく分かるような気がしてきた。
「ささっ!行きましょー」
 強引にの腕を引きながら引きずっていく。
 だがはもがいて藤代の腕を放すと、
「俺やっぱ中間テストまで部活行かない」
 と、言ってそのまま帰ってしまった。
「?どうしたんだろ先輩」
 藤代はぼ〜っとを見送っていたが、もうすぐで部活に遅刻しそうな時間だと分かると急いでその場から去る。

 は寮に帰るとさっそく教科書を取り出しはじめる。
「ええと、あと八日後にテストだから・・・。一教科三時間勉強するとして・・・、なんだ結構時間余るんじゃん!」
 安心したは財布をポケットに入れて部屋から出る。
「だったら今日はせっかく部活休んだんだし、いつものエロ本でも買いに行こうっと!」
 だが外に出る通り道にサッカー部の練習場があるので、見つからないように気をつけて行く。
「もうさっそく練習してるや」
 の目に映ったのは三上だった。
 武蔵野森サッカー部の司令塔だけあって練習でもかなり活躍していた。

 あいつ性格は悪いけど本当にサッカーは一生懸命だよな。
 女の子が騒ぐのも何だか分かる気がする。

 一生懸命プレイしている三上は男のから見ても惚れ惚れしてしまう。
 はさぼっているのも忘れて三上のことを見ていた。
 一方三上はそんなのことには気づかずに練習に集中している。

 ・・・もし期末テストで平均点以上取れなかったら、この学校から転校しなきゃいけない。
 そうなったらもう三上とも会えなくなるんだろうな。

 そこまでしんみりと考えてはっとする。

 な、なんで三上と会えなくなるからってしんみりしなきゃいけないんだよ!
 どうせなら渋沢とか竹巳とかあやめちゃんとかのことでしんみりしろってんだ。
 最近の俺は変すぎる!
 ・・・でも転校はとにかく嫌だからな。
 しょうがない、ちょっとまじめになるか。

 藤代と会えなくなるのは淋しくないのか謎だが、はまた勉強にやる気を出したようだ。
「そうと決まったら参考書でも買いに行くか!」
 そう言ってエロ本ではなく参考書を買いに本屋へ向かう。


「んんっと。俺社会が一番苦手だからな、これにするか」
 本屋についてすぐに適当に参考書を手に取ろうとしたが、
「「あ・・・」」
 の決めた参考書に同じように手を置いている少年がいた。
「ごめんなさい!これ、どうぞ」
 少年はそう言うとその本をに差し出す。
「え!いいよ。俺他の本探すしさ」
 そう言っては少年に差し出された本を押し返す。
「何してんのやカザ。そういうときは譲り合いじゃなしに普通取り合いやろ。ここ以外に本屋があるのか俺は知らんで」
「シゲさん!いいんですよ、どうせもう僕たちはテストが終わったんだし」
「ほんまにお人よしやなあ。分かったでカザ、お前譲っといてその代わりにデートでもしろって口説く気やろ」
「ええ!そんな、僕はそんなつもりじゃあ・・・」
 しばらく二人の少年の会話を聞いていたが、そこまできては口をはさむ。
「っていうか俺男だけど」
「「え!!」」
 二人とも声をそろえて驚いたのではちょっとむっとしたが、小さい少年に改めて本を譲ることにした。
「まあいいからこれは君が買いなよ。何だか遠くまで来たようだしさ。俺はこの近くに住んでるからどこでもすぐに買いに行けるし」
「何で僕たちが遠くから来たって知ってるんですか?」
 ちょっと驚いたように小さい少年はに聞いた。
「だってここ以外に本屋があるか分からないって言ったじゃん。それってここの土地のこと知らないって言ってるようなもんだよ。ここら辺はもう本屋ないよ」
 はエロ本をよく買うので、もうここら辺の本屋情報はばっちりらしい。
 大きい少年の方はなるほど〜と言って感心しているようだ。
「まあいいから遠慮しないで買いなよ」
 はにかっと笑ってその場を離れようとしたが、大きい少年に止められる。
「そうや、ついでに尋ねたいことがあるんやけど武蔵野森中学って何処らへんにあるかしっとるか?」
「それなら俺の通ってる中学だけど」
「ならあんさんも寮で暮らしてるんか?だったら学校まで案内してくれへんか、帰るついでに」
 大きい少年はあつかましかったが藤代ほど気に障らなかったし、小さい少年は申し訳なさそうな顔をして見ていたのでの母性本能をくすぐらせた。
 男のに母性本能があるのかは分からないが、とりあえず二人を連れて学校に案内することにした。
 に譲ってもらって買えた本を抱えて、小さい少年はに話しかける。
「僕、桜上水中学の二年生の風祭将です。本を譲ってもらったうえに学校を案内してもらって本当にすみません」
「いいよ、俺は三年の。武蔵野森には最近転入してきたばっかなんだ」
「へえ。俺はカザと同じクラスの佐藤茂樹や!よろしゅうな」
「うん、もちろん。ところで二人はなんでうちの中学を見に来たんだ?」
 大きい方の少年シゲはその言葉にぎくっとしたが、小さい方の少年将は気にせずに喋ってしまう。
「僕たちサッカー部を代表して武蔵野森のサッカー部を偵察に行くんです!」
「阿呆!それを言ったら案内してくれるわけないやろが!」
 はそんな二人のやりとりが漫才みたいでつい笑ってしまう。
「心配しなくてもちゃんと案内するよ。俺サッカー部のマネージャーだけどあいつら充分強そうだから何とも無いだろ」
 そんなの言葉を聞いてシゲは「せやけど勝つのは俺らや!!」と言って燃えていた。
 どうやらさっきのの言葉が挑発だと思ったらしい。
 シゲの隣で将はため息をついてしまう。
 大体さっきから何も述べなかったが、将は元武蔵野森の生徒だ。
 もちろん行きかたも知っているはずなのに、シゲはそれを分かっててわざとに案内してもらったのだ。

「じゃ、ここの角を曲がったところにすぐあるから」
 はそう言ってサッカー部員に見つからないようにそそくさと去ろうとした。
「本当に本も譲ってもらったうえに、案内までしてもらってありがとう!!」
「さんきゅーな、また会えたらな〜」
 将もシゲもそんなのことは気にしないでそれぞれお礼を言って別れた。
 わりとあっさりを帰した二人だが、シゲはまたに会いたいようで将に「また行こうや」とうるさかったらしい。

「あ〜あ、これから勉強か」
 でも今からしっかり勉強しとかなきゃいけないよな!
 俺いっつも先に延ばして最後には何にも手がつかない状態だからな。
 今回はいつもと違ってかなり大変なテストだもんな!

 は自分に渇をいれて無理やりやる気を起こす。

 サッカー部のテスト前最後の練習が終わったらしく、がやがやとドアからにぎやかな話し声が聞こえてきた。
 は構わず数学の問題に取り組んでいたが、すぐにノックの音が聞こえたと思ったら、返事もしないのに三上が入ってきた。
「何だよ、元気そうじゃねえか。藤代が高熱出して倒れたから休ませろってお前から伝言してきたから心配して来てやったのに」
「・・・それは嬉しいけど、返事してないのにいきなり入るなよ」
 藤代はどうやらが高熱を出したという、すぐにばれそうな嘘をついてしまったらしい。
「ああ、エロ本とかビデオとか見てたら大変だもんなぁ」
 そう言って三上はが何をしていたのか気になったらしく、の手元を覗き込む。
「もう、からかいに来たんならさっさと帰れよ!俺はまじめに忙しいの!!」
「へえ、本当に勉強してるのか。お前らしくないじゃん、こんなにまじめに勉強に取り組むなんてよ」
 お前らしくないってそんなに俺のこと知ってんのかよ!とつっこみたかったが、よけい邪魔をされそうだったので、
「とにかく!お前もテスト週間はいったんだしまじめに勉強しろよ」
 と、反抗しておいた。
「俺はお前みたいに授業中寝てないから、そんなにまじめに勉強しなくても余裕で平均点以上とれるんだよ」
 三上はふふんと言ってかなり偉そうだったので、はよけいむかむかしてくる。
「悪かったな!もうどっかいけよ!!」
「ここの問題間違えてるぜ」
 が怒っているのなど気にせずに三上は間違ったところを指差す。
「ええ!?この式じゃ駄目なのか?」
 素直に聞き返してしまってはしまったと思うが、もう遅い。
 三上はおせっかいにも正しい式を書きだす。
「お前が書いた式でも解けないことはないけど、この問題はこの式で解けって先公が言ってたんだよ」
「こんな式俺は習ってないぞ!」
 ぱこんと三上はの頭をノートで叩く。
「あほ、昨日習ったばっかの式だっつーの」
 叩かれてアホ呼ばわりされたのではむくれている。
「いってーな!俺は俺なりの考え方があるんだよ」
「・・・まぁ、確かにお前の考えた式のほうが解きやすいかもな」
 三上はの考えた式を見ながら感心する。
 解きやすいうえに、理数系が得意の三上から見るととてもおもしろい式だった。
「うん、この式のが俺は好きだな。やっぱお前頭いいのかもな」
 そう言って三上はの頭を撫でてやる。
 は褒められて頭も撫でられて嬉しいような気に食わないような、複雑な気持ちだった。
「ん?なんか嬉しそうじゃねえか。そんなに俺にかまってもらいたかったのか?」
 デビスマで言いながらの顔を覗き込むと、やはり顔が赤かった。
「ばかじゃねえの!!嬉しいわけないだろ!」
 は顔を背けたが、耳まで赤かったのでばればれだ。
「でも耳赤いぜ?」
 そう言いながら三上はわざとの赤くなっている耳を撫でる。
「うひゃっ!何だよ急に!やめろよな」
 思わずは声を漏らしてしまい、かなり恥ずかしそうに三上を押しやる。
「それで、お前分かったか?俺が何でお前の好きな奴のこと聞きたがるのか」
 急に話題を変えられたので、は素直に答える。
「あ、忘れてた・・・」
「てめー、忘れるとはいい度胸してるじゃねえか」
 凄みをきかせて三上が顔を近づけたので、は慌ててしまう。
 かなり緊張したので急いでまくしたてる。
「じゃあもう教えてくれたっていいだろ!俺今テスト勉強で忙しいんだし」
「教えたらテスト勉強どころじゃなくなるだろ」
 三上がまた意地悪そうに意地の悪いデビスマを浮かべて言った。
「え?それって・・・?」
「だから、そんなの決まってんだろ。俺はお前のこ・・・」
せんぱ〜いv」
 がちゃっとドアの開く音と共に部屋に入ってきたのは、何とも憐れな藤代少年だった。
 何故こうも図ったようなタイミングでちょうどよく現れたりしてしまうのだろうか。
 二度も肝心なところを邪魔されては、三上じゃなくても疑ってしまうのは無理もない。
「今日はどうして部活休んで・・・って三上先輩!?ふ、二人とも何して・・・」
 かなり二人とも接近していて、しかもの顔がほのかに赤いのに気が付いて、やっと藤代は自分がまずいところに来てしまったということに気が付いた。
 ・・・が、もう遅い。
「藤代・・・てめえは一度ならず二度までも・・・ゆるさねえ!」
 言うや否や、三上は藤代にいつもの数倍威力のある蹴りをくらわす。
 藤代がその一撃で気絶すると、三上はの部屋から引きずって外に放り投げた。
 一息ついてまたの部屋に戻ろうとしたら、ドアが閉まっていた。
「おい開けろよ、まだ話は終わってねえぞ」
「俺の中では終わったからもういい!また明日な」
 これ以上三上と一緒にいると、どきどきして自分のまだよくわかりきっていない気持ちまで読まれそうだったので、怖くなったは三上を締め出した。
 三上は焦る気はなかったので、大人しく自分の部屋に帰ることにした。
 でもその前に、
「おやすみ、また明日な」
 と言っておいた。
 もうドアにはいないと思ったから返事に期待しないで、その場から去ろうとした。
 その時、
「おやすみ」
 小さい声だったが、三上にはしっかり聞き取れた。
 まさか返事が返ってくるとは思わなくてつい顔がほころんでしまう。
 も照れながら喜んでいるのだろうか、自信があるが確信がないのでわからない。
 けど、いつか早いうちにこの気持ちを分かち合えたらなと三上は思う。









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