BLドリーム2
レンアイIQ
三上が自分の気持ちに素直になろうと決めたその日の夜。
またの部屋に藤代、笠井、渋沢が遊びにきた。
今日は三上も遊びに参加することにした。
「あ〜あ。結局無駄な努力だったかも。そもそも俺が急にマジメになって女の子にモテるなんて無理だったんだよ」
はみんなが部屋に入ってくるなり急にゴチた。
みんなにマジメになれば女の子にモテるからがんばれと励まされたが、15年間伊達に出来そこない人生を歩んできただけあって、そう簡単にはマジメになれない。
結局、今日は昨日の生活の繰り返しをしただけだったのだ。
「そんな一日やそこらですぐ治るわけないだろが。なんでそんなにモテたいかねえ」
相変わらずに憎まれ口を叩いている自分を棚に上げて三上は言った。
「俺は今まで生きてきた中で女の子にモテた事なんてないんだよ。モテたいのは当たり前だろ」
「そういうもんかぁ?」
「そうだよ」
渋沢も藤代も笠井もそんな二人の様子に唖然とする。
「二人とも・・・、いつの間にそんなに仲良くなったんだ?」
藤代も笠井も二人の急激(?)な変化についていけずにボーっとしていたので、渋沢が代表して聞いた。
たしか学校にいたときもケンカをしていなかったが、寮でみっちりとケンカをするのかと渋沢は思ったのだ。
「別に仲良くなってねえだろ」
「俺的には三上の悪口に慣れただけだけどな」
「そ、そうか。まあケンカしなくなって良かったよ」
確かにそれはそうだと思い、藤代も笠井もうなずく。
はみんなに迷惑かけてたんだと分かり、ちょっと反省した。
すぐに俺が怒ってたから三上とケンカになりやすかったんだな。まぁ、ケンカをふっかけてくる三上が悪いんだけどな。でも、もうちっとだけ辛抱強くなんなきゃな。
三上だけじゃなくて、他の奴も一癖有りそうだし。
そういうも十分一癖あるのだが、それは都合よく頭から離れている。
「ああ、俺風呂入ってくる。みんなそこら辺のもの勝手に漁っていいから」
はそう言うと部屋のバスルームへ行き、今日の体育で流した汗を落としに行った。
早速面白そうなゲームを見つけて藤代は笠井を巻き込んで遊び始める。
「そういえばはまた体育でミスってたな」
「あいつ運動神経なさすぎなんだよ。ドッヂボールで外野にボールが届かないで敵にパスするやつなんて男ではじめて聞いたぞ」
「・・・確かに。その後顔面にヒットしていたな」
「もろにな。しかも顔はセーフだからそこにいなきゃいけないって知って、あいつ半泣きだったな」
その時のの様子を思い浮かべて三上は思わず笑えてしまう。
「でも避けるのは天才的だったな。結局に当たった球は顔面の一発だけだったし。あの俊敏さをサッカーに生かせられないかな」
「無理だろ。やつがサッカー部に入りたくないって言ってるし」
それを言わせたのは俺なんだけど。と三上は心の中で思っていたら、顔に出ていたのか渋沢に、
「でも今のだったら入ってくれるさ。三上のこと嫌いじゃないって言っていたし」
半ば励まされるように言われた。
一方、ゲームをしていた二人は、
「ねえ誠二。先輩からビデオ借りたの?」
「いや・・・。結局やめたんだ。なんか中学生の俺が見てもいいのかなあって思うととても見れなくて」
「なんだ。借りてないの?誠二だからちゃっかり借りてるとばかり思ったよ」
「どういう意味だよ!でもゲームは借りたぞ」
「やっぱりちゃっかりしてるんじゃないか」
ため息をつきながら笠井は藤代を見る。見ている間に笠井の持ちキャラが藤代の持ちキャラに必殺技をかけられてノックダウンしてしまう。
「俺の勝ち〜!これも面白いなぁ。後で先輩と勝負しよーっとv」
「誠二は本当に先輩に懐いてるよね」
「もちろん!先輩ってなんかいいんだよね〜。かわいいし、抱き心地良さそうだし」
「・・・。誠二。忠告しとくけど、それ三上先輩の前で言っちゃ駄目だよ」
「?なんで」
「殺されるから」
なんだか当然のことを答えるように、至極当たり前に笠井は言う。
藤代はよく分からない寒気がしたので、笠井の言い付けを守ることにした。
この手の寒気がした時はおとなしくしているのが一番いいと、藤代は何度も身をもって体験しているので分かるのだ。
「っつーか、俺聞いちゃったんだけど」
「み、三上先輩!!」
いつの間にか三上は二人の後ろで腕を組んで立っていた。
「笠井は何で俺が藤代をぶっ殺すなんて言い切れるんだよ」
その三上の言葉で、もしかしたら自分は助かるのかもしれないと藤代は思った。
が、
「まあぶっ殺す準備はいつでもできてるけどな」
やっぱり助からない運命にあるらしい。
「僕は確信のないことは言い切らないタチですよ」
「だからなんでそう、確信持ってるんだよ」
「三上先輩も分かってるんじゃないんですか?」
やたら自信たっぷりに笠井は言い放つので、三上はたじろぐ。
別に俺は自分の気持ちに素直になろうと思っただけで、あのアホ野郎のことが好きなわけじゃない。たぶん・・・。
大体俺はノーマルだ。ホモになんかなってたまるかよ。
まだ素直になりきれていない自分には気づかないフリをして、笠井に何か言い返そうとした。
その時、
「は〜、すっきりした。体育はなんだか無駄に体力使った気がするし」
と言ってがシャワーを終えて出てきた。
そのまま三上の隣に腰を降ろす。
そんなは意識してないことが三上には嬉しくて、なんだか三上は恥ずかしいような虚しいような気持ちになる。
が腰を降ろした時に石鹸のいい香りがしてきて、三上らしくもなくドキドキしてしまう。
何なんだよ俺。これじゃあめちゃくちゃ恋してるみたいじゃねえか。
天下の三上様が情けねえ。こんななんの取り柄もない、しかも野郎にだと。
「先輩♪俺と一緒にゲームやりましょ!」
「いいけど抱きつくなよ。今は夏真っ只中でただでさえ熱いんだからな」
「じゃあ冬は抱きついていいんですね♪」
「そうだな。じゃまにならない程度ならいいカイロになるかも」
がそこまで言ったところで三上は邪魔に入る。
「あほ!そういうときは徹底的に断るんだよ。じゃないと付きまとわれるぞ」
「そうだぞ。藤代は調子に乗りやすいから、嫌だったらちゃんと断っといた方がいいぞ」
と、渋沢も三上の味方をする。
「別に抱きつかれるの嫌じゃないからいいよ。じゃあゲームするか」
そう言っては藤代に抱きつかれたままゲームをし始める。
渋沢も笠井も「藤代は死んだな」と思った。
助けてやれよと突っ込みたくなるが、笠井はちゃんと忠告したし今さっき怖い目に遭ったばかりなのにもう忘れているので、二人とも少しはひどい目にでもあって反省するべきだと思ったのだ。
「おい誠二、ゲームやるんだから離れろよ。お前俺に抱きついてどうやってコントローラー動かすんだよ」
「こうやってv」
言うなり藤代は後ろからに抱き付いて腕をまわし、その両手でコントローラーを持つ。
この格好はどう見てもカップルがいちゃいちゃしながらゲームを楽しんでいるようにしか見えない。
さらに藤代は知らず知らずのうちに自分に追い討ちをかける。
「ん〜。先輩ってやっぱり抱き心地いいや!石鹸の香りするし」
と言って、ぎゅうっと抱きしめた。
ああ、もうこれで藤代とは永遠におさらばだなと二人は思ったが、三上は藤代に攻撃をしてこない。
むかつく・・・。何で藤代のアホがあいつに抱きついてるのを見て俺がむかつかなきゃいけないんだ。
それが一番むかつく。
これじゃあ嫉妬してるみたいじゃないか。
冗談じゃない。
三上はなんとか湧き上がる感情を抑えようとしていた。
三上にとって一番気に食わないのはに抱きついている藤代ではなくて、その藤代にやきもちを焼いている自分だった。
どうにか怒りを鎮めてなかったことにしようと努力する。
そうしている間も藤代はにじゃれついている。
素直になろうと決めた三上だが、こんなみっともない自分はどうしても認めたくないのだ。
だが藤代はいつまでたってもから離れないので、三上はそんなことを考えるのをやめて藤代の後頭部を英和辞典の角でぶったたいた。
「がはっ!!」
その台詞を最後に、藤代は起き上がらなくなってしまった。
「ん?何で誠二がぶっ倒れてんの?」
「ああ。藤代の頭に蜂がいてな。危なかったから俺が退治してやったんだよ」
「へ〜!三上やさしいんじゃん!」
本当は蜂なんかいなかったのだが、はまともに信じて三上を見直す。
「だから俺はやさしいんだよ」
ふふん。と、とても得意そうに三上が言っているそばで渋沢と笠井は藤代が無事に成仏するのを祈るばかりだ。
「助かったのはいいけど誠二の奴気絶しちゃったな」
と、言っては自分のベッドへ藤代を寝させてやる。
「んなやつにそんなことしてやらなくてもいいんだよ」
「でもかわいそうだろ。みんなが帰るときに俺が誠二たちの部屋に運んでってやるから」
最初は三上に向けて、最後は笠井に向けて言う。
「そんな悪いですよ。誠二なんて引っ叩いて起こせばいいんですよ」
「そう?」
としては誰に対してもヤラレキャラの藤代に少し同情していたので、本当にそんなことをしてもいいのかなあと思う。
「いいんだよ藤代は。打たれ強いからちょっとしたことじゃあへこまねえし」
「そういう問題でもなさそうだけど・・・。まあ大丈夫ならいいか」
そう言ってはそのまま藤代を寝させた。
また三上の隣に戻ったところで渋沢がに声をかける。
「それでどの部活に入るか決めたのか?」
「まだなんだよ。どの部活でもいいんだけれどあんまりサボれるところなさそうだし」
「うちの部活に入る気はないのか?」
「だって厳しそうじゃん。俺なんか入ったら絶対三軍だし。下手したら雑用としか思われないかもしれないし」
「だったらいっそのことマネージャーとして入ればいいじゃねえか」
も渋沢もそんな三上のセリフにはっとする。
渋沢はその手があったかと思い、はまさか三上がそんなことを言うとは思わなかったからだ。
三上は前にがサッカー部に入るのを反対していたので、まさかそんなセリフが三上から出るとは思わなかったのだ。
「三上って俺に部活入ってほしくないって言ってなかったか?」
「あれは別に本気で言ったわけじゃない。それにお前といるとおもしろいしな」
「そ、そうか?」
はそう言われて悪い気はしなかった。しかもあんまり人に褒められたことがないので、それに近いことを言われて照れくさかった。
「そうだ。アホなことよくやるから見てるとおもしろい」
「なんだよそれー!」
喜んで損をした気分になったので、抗議しながら三上を足蹴にしてみた。
「いてーな。俺様を足蹴にするんじゃねえよ」
と、言って三上は何処となく嬉しそうに、自分を蹴っているの脚を掴んでを転がした。
「いだっ!頭ぶったじゃねえか!うわ、のしかかってくんなよ。重い!」
「うるせえ。謝らないとずっとこのままだぞ」
渋沢と笠井から見たらどうしても三上がに襲い掛かっているようにしか見えない。
止めようと思うのだが二人の邪魔をしてしまうようで動けない。
かといって、目の前では(二人はじゃれているだけだろうが)かなり妖しい状況に見える。
「どけってばー!」
「じゃあ早く俺様に謝るんだな」
く〜!なんか三上には謝りたくないかも。しかも耳元でぼそぼそ言うなっての。こそばゆいじゃねえか!
・・・でも近くで見るとさらにいい顔してるよな、こいつ。こういう顔が女の子にモテるわけか。いいなあ・・・、むかつくけど俺こんなにかっこよくないもんな。
そんなことを思いながらはじっと三上を見ていたので、三上はどきりとする。
な、なんでそんなに俺の顔見てんだよ。しかも至近距離だし。
三上は段々と自分の心臓の鼓動が激しくなってきているのに気が付いて、自分の心臓の音がに聞こえてしまってるんじゃないかと思えてきた。
はまだ三上の顔をじっと見ている。
の瞳の中に自分の顔が映っているのに気が付いて、三上は妙な高揚感をおぼえた。
いいかげん見つめあいすぎな二人に、渋沢と笠井は示し合わせたように大きな咳払いをした。
「ん?俺なにしてたっけ」
はそう言って三上から抜け出した。
三上はボーっとしていたので、なんの文句も言わないままを逃がした。
「三上先輩と一分くらいじぃ〜っと見つめ合っていましたよ」
「そうだっけ?」
「ああ、まるで恋人同士のようにな」
笠井、渋沢とに少し責めるような感じで言う。
「恋人って。それは男同士じゃ無理あるだろ」
「でも今の二人の感じはそんな性別の差なんて乗り越えてそうに見えましたよ」
「あほかい。笠井の目は節穴か?ったく、もう俺寝るぞ」
「照れくさくなって逃げるのか?」
今度は渋沢が言う。
さすがにはキレた。
「お、ま、え、ら、いいかげんにしろや」
がごごごごいわせているうちもまだ三上はボーっと惚けていた。
藤代は結局その晩廊下で一晩を過ごした。
青空に太陽の光を反射させて眩しいくらいに白い入道雲が浮かんでいた。
朝から太陽が真上にあるような暑さが続き、授業を受けている生徒は思わずだらけてしまう。
もっとも、どんな気候もものともせずに怠けるつわものがいたが。
「起きろ、。次は移動教室だぞ」
相変わらず一限から五限までしっかり寝ていたので、がそんなことは知らないと思い、渋沢は親切に起こしてやる。
「ん。ナミは?」
渋沢と一緒にいた三上がぴくりと反応する。
前もは授業中にナミという子といちゃついているような寝言を言っていたのだ。
自分でモテない男だと言っていたのに、じゃあナミという子はとどういう関係なのか三上は前から気になっていたのだ。
「ナミって誰だよ」
「ん〜?ナミか?ナミは俺の可愛いペットだよ。猫のナミちゃん♪」
いっきに力が抜けた。
そんな三上を横で見ていたが、渋沢はとにかく早く移動しないと遅刻になってしまうのでを立たせる。
「さ、行くぞ。遅刻したら大変だからな」
今日最後の授業は保健体育だった。
「お前、この授業一番得意なんじゃねえのか?」
はかなりのスケベ少年だ。だから三上がこう思うのも無理ない。
「・・・悪いのかよ。どうせエロでバカな出来そこない野郎だよ」
「んなこと思ってない」
小さな声で言ったのでは聞き取れない。
「ん?今なんか言ったか」
「別に何も言ってねえよ」
「そうかぁ?ならいいけど」
絶対に何か言ったと分かったが、三上がそういうならしつこく聞くべきではないと思い、はこれ以上聞かなかった。
ごまかしたってことは俺に聞かれたくなかったってことだもんな。
しつこく聞いたりしたらいけないよな。
しつこく聞けば三上に嫌われると思うと、は何故だかとても淋しい気持ちになった。
自分に聞かれたくないなんてどんなことを言ったのか気になったが、三上に嫌われるのはとても淋しいし、絶対に嫌われたくなかった。
ちょっと前までは自分が嫌っていたのにこの変化はどうしたことだろうか。
まぁいっか。ただの気のせいかもしれないし。
放課後、はなんとなくサッカー部の練習を見に行った。
「ふ〜ん。かなりの大所帯だな。前の学校なんか専門のグラウンドなんてなかったのに」
うろうろしていたらサッカーボールが転がっていた。
「誰か取り忘れてら」
そう言うとはボールを蹴ってみる。
「っと、なかなかむずいかも」
ボールを蹴りながら監督らしき人のいるベンチにのろのろと歩いていく。
「いただき!」
「うを!」
がさっと音がしたと思ったらいきなりボールを取られた。
しかもあまりに驚いたので、その反動ではこけてしまった。
「うわっ!大丈夫っすか、先輩!」
「藤代、お前練習はどうしたんだよ。あ、さんきゅ」
を立たせてやりながらボールを取った藤代は、
「練習してたら先輩を見かけたんで、こっそり抜けてきたんすよ」
と、呑気に言った。
「あっそう・・・」
真面目に練習しろよな。とは言ってやりたかったが、自分はとても言えるような奴じゃないなと思い直した。
「で、やっぱりマネージャーになってくれるんすね!監督はあそこにいるから俺、案内します!」
「ちょ、待てよ。俺はただ・・・」
そう言っているうちにも藤代はをずるずる引っ張りながら、ベンチにいる監督のところまで連れて行ってしまった。
「監督!この人がさっき言ってた先輩です。マネージャーになってくれるらしいです」
「ほう、君か。ここのマネージャーは大変だが、ちゃんとやっていける自信はあるかね」
「そんなのあるわけ・・・」
「!まさか本当にマネージャーになってくれるなんて。大変だが頑張ってくれよ」
「いい!?だから俺は・・・!」
「何だよ。やる気なかったからお前てっきりここには来ないかと思ったけど、マネージャーやるのか。いいんじゃねえ?」
渋沢、三上とが何か言う前に現れてはマネージャーになる方向へ持っていかれてしまう。
藤代も渋沢も三上もすでにがマネージャーになるものだと思っているらしい。
しかも藤代も渋沢も嬉しそうだ。
何よりあんまり笑顔を見せない三上が嬉しそうにを歓迎したので、の決心がぐらつく。
「先輩。マネージャーになってくれるんですか?」
笠井もいつの間にか駆けつけてきて嬉しそうに言った。
「う・・・、いや、そのぅ・・・」
「この子が新しいマネージャー?」
突然なかなかの美少女が現れた。
「うを!めちゃスーパーゴージャス!!」
「?私はサッカー部の女子マネージャーの松本あやめよ。よろしく。男の子のマネージャーが欲しかったの。助かるわ」
「俺は!よろしく!あやめちゃんのためにがんばるよ」
「って最近転校してきた噂の問題児?」
「あ、俺もうそんなに有名人?まいっちゃうなぁ〜」
はあやめというマネージャーの登場で、もうマネージャーをやる気満々だ。
「ふ〜ん。でも君ってけっこう可愛い顔してるよね。私狙っちゃおうかな」
周りに聞こえないように後半の言葉だけの耳元で言うと、は完全に舞い上がってしまった。
「ええ〜!そ、それじゃあ早速今晩お邪魔し・・・」
ようかな。と、いいたかったのを三上がをぶったたいて止めた。
「アホか、お前は!」
やっとは我に返ったようだ。
みんなそんなとあやめのやりとりにぼけーっと見ていたようだ。監督は一人で咳払いをしていたが。
「三上君嫌ねえ、やきもち妬かないでよ」
そういいながらあやめはさり気なく三上に擦り寄ってきたが、三上もさり気なくあやめから離れた。
あやめの言葉を聞いたはムカムカしていた。
何だよあいつら!付き合ってんのかぁ?俺があやめちゃん狙ってたのに、三上の奴横取りしやがって〜!
・・・でもまてよ。俺が転校する前から二人が付き合ってたんなら俺がとやかく言う筋合いはないんだよな。
そこまで考えたら急には寂しい気持ちになってしまった。
急に寂しくなるなんて、は自覚がないので訳がわからない。
しかしこのままではどうしようもないので、とにかく無かったことにしてしまう。
「じゃあ今から部員を集めて自己紹介するから、そのあとは松本君の指示に従って動いてくれ」
「あ、はい・・・」
ガラにもなくがボーっとしていたので、三上は何があったのか聞こうと思ったが、もう部員が集まってきてしまったので諦めた。
結局部活の間中は松本に付きっきりだったので、三上がに話し掛けられたのはの部屋に遊びに行ったときだった。
「あれ、三上。どうしたんだ?」
「バカ代や笠井は遊びに来てないのか」
「うん。今日は遠慮しとくって言ってた。まあ入れよ」
そう言っては三上を部屋に入れる。
なんか三上と部屋に二人っきりなんてはじめてかも。
って俺は何言ってるんだよ!そんなのほかの三人だって同じじゃねえか!
なんか今日の俺はおかしい。
いや、かなりおかしい。
何で三上みたいなむかつく、しかもヤローなんかのことをこんなに意識してるんだ。
「!?」
「やっぱり今日のお前おかしいぞ」
気が付いたらいきなり目の前に三上の顔があったのではドキッとした。
しかも自分が変に三上のことを意識しているのがばれたのかと思い、は慌てて
「ど、どこがだよ!ど、どこもおかしくないだろ!!」
と、いうように言い訳したが、必要以上にどもっていたのでどうしたってばれてしまう。
「つーか、既にどもりまくってるところがもうおかしいし。何があったんだよ」
どうやら三上のことを意識しているのはばれていないようだ。
安心したは少し冷静になったので、気を取り直して三上に聞き返す。
「別に何にもないよ。三上こそ何の用だよ」
「俺はお前の様子が変だったから、わざわざ気にしてやって来てやったんだよ」
は三上に心配されたのを知って、なんだか照れくさくなってしまったので「あ、そう」と言ってそっぽを向いてしまった。
三上はそんなの様子に気がつくと、わざとの顔を覗き込んで見る。
「何お前、もしかして照れてんのか?」
「んなっ!何でだよ!」
「俺に心配されて嬉しくって、でも恥ずかしくって照れました〜。みたいな」
「あほか!そんな乙女チックな奴だと思ってるのかよ」
は図星を指されて慌ててしまったので顔が自然と赤くなる。
「とか言いながら顔赤いぞ。へ〜そうか、お前俺に心配されて嬉しいのか」
三上は勝ち誇った顔をしてもっとの顔を見てやろうと、さらにの顔を覗き込む。
「み、見るなよ!」
は三上に覗き込まれてさらに顔を真っ赤にしてしまう。
お、俺なんでこんなにドキドキしてるんだよ。
やっぱり今日の俺はおかしい!
いつもは三上のことなんか全然気にしてなかったのに、何でこんなにいちいち気になってるんだろう。
は自分のことで精一杯だったので、三上に見られているのに気が付かない。
「で?どうかしたのかよ。俺でよけりゃ相談に乗るぜ。お礼はたっぷりさせてもらうけどな」
そう言って三上はお得意のデビルスマイルをしてみせた。
は途端にいやな予感がしたので、
「いや、いい!」
早めに断っておいた。
「つめてえな。別に誰にもいわねえんだから教えろよ」
「そういう問題じゃない。もう心配してくれなくていいから出てってくれよ!」
悩みの種の張本人に、まさか悩みを打ち明けるなんてできるはずもない。
はそう言うと、三上をぐいぐい押して部屋から出そうとする。
「ふ〜ん。じゃあもう心配なんかしてやらねえよ」
「えっ?」
まさか三上がそんなことを言うなんて思いもしなかったので、は次の言葉が出てこない。
三上はそんなを見て内心ほくそ笑んでいた。
こいつがこんな淋しそうな顔するなんてな。
は自覚してないが、今とても淋しそうに三上を見つめている。
こんな表情のははじめて見たので、三上はもっと意地悪をして色々なを見て見たいと思う。
「お前まさか俺にいてほしいのか?そんな淋しそうな顔して見てきて」
「淋しそうな顔なんてしてないだろ!」
「してる。お前実は俺に惚れてんじゃねえの?」
三上がそう言ったとたんドアが激しく閉まった。
は恥ずかしくて三上を部屋から押し出したのだ。
ドアの向こうでがめいっぱいどもりながら否定する。
「そ、そそそんなわけないだろが!あ、あほ三上!も、もうさっさと部屋にか、帰りやがれってんだこんちくしょう!」
「せっかく心配してきてやったのに普通追い出すか?」
「う、うるせーよ!バーカバーカ!」
「ふん、強がりやがって。淋しくなったらいつでも来いよな。俺様が一緒に寝てやるぜ」
「バ、バカか!へんなこと言うな!変態かお前は!!」
ドアの向こうで激しい物音と共にの声が聞こえてくる。
は動揺しすぎて何か蹴ってしまったらしい。
もっとからかいたくなったので半分本気で言ってやる。
「俺はお前相手だったらかまわねえぜ」
また激しい物音が聞こえてきた。
「あほか!もうどっか行けよー!」
「・・・あのな。今の冗談だと思うだろうが俺は」
「三上せんぱーい!助けてくださーい!!」
三上が自分の気持ちを素直に認めてに告げようとしたまさにその時、憐れな少年藤代が全速力で駆けてきた。
「竹巳の奴、無理やり俺ににんじんケーキを食べさせようとするんですよ!匿ってほしいっす〜!」
「あれ、藤代じゃん。またにんじん騒ぎかよ」
が少し赤い顔をしてドアから顔を出す。
憐れ少年藤代はもうの前で何回もにんじん騒ぎを起こしていたのだ。
「先輩!俺を少しの間匿ってくれませんか!?」
はため息をつきながら藤代を通しやすいようにドアを大きく開く。
「・・・もう今日だけだぞ」
自分も好き嫌いはある方なので、同情して匿ってやる気になったらしい。
「ありがとう!!さすが先輩っすねvvv」
そういって藤代は三上のまん前で三上の存在も忘れてをぎゅっと抱きしめる。
その時に藤代の肩越しからが三上を見つめていたのを、三上も藤代も気がついていなかった。
そのままは藤代に抱きつかれたまま部屋に入っていってしまった。
「あれ三上、どうしたんだの部屋の前で立って。のところに行くんじゃなかったのか?」
渋沢は大浴場に行っていたらしく、手には着替えを持ち肩にはタオルを掛けていた。
これでビールなんて持っていたらどこにでもいる銭湯の常連さんだ。
銭湯の常連さんは同室者のただらなぬ殺気に気がついた。
「み、三上?どうしたんだ。かなり殺気を感じるんだが」
「・・・」
三上は渋沢の質問には答えずにそのまま自分の部屋に入ってしまった。
慌てて渋沢も入ると、三上は壁に耳をひっつけていた。
「藤代・・・あいつに何かしたらぶっ殺す」
かなりの殺気を出しながら三上はの部屋の様子を窺っているようだ。
ちょっとでもに何かあれば藤代の命はないであろう。
「み、三上。俺が藤代に釘を刺しに行こうか?」
三上があまりに危険な状態だったので、渋沢は見かねてそう言った。
「甘い。縄で縛り付けてこい」
しかしご立腹の三上は藤代を処刑する気満々だ。
「三上が藤代に直接文句を言いに行ったらどうだ?」
「俺はいつも文句を言ってるから、にうっとおしがられるかもしれないだろうが」
「へえ。そんなにに嫌われるのが嫌なのか」
「当たり前だろ」
渋沢はまさか三上がそんなに素直な反応をするとは思わなくて、驚いた顔のまま固まってしまった。
「当たり前って・・・。それは一体どういう意味なんだ?に友達として好かれたいってことだよな?」
なんだかとても嫌な予感を感じつつ、渋沢は確認してしまう。
「いいや、それ以上だ。あいつに手ぇ出したらただじゃおかねえからな」
不敵な笑み、もといデビスマで三上は渋沢に釘を刺しておく。
「ま、そういうわけで一番危険なバカ代にもそう言っといてくれよな」
一番危険なのは目の前のお前だろ。と言いたかったが、渋沢はなんだか少しパニック状態だったので、大人しく藤代のいるの部屋へ向かうことにした。
それにしても・・・。まさか俺の恐れてたことが本当になってしまうなんて。
三上は手強いぞ。
渋沢は心の中でに同情をしてしまう。
渋沢が部屋に出て行くと、三上はベッドに横になる。
飼い主が釘を刺しに行ったからとりあえず今日は心配することは無いだろう。
天井を見上げながら三上はのことを考えていた。
ホモなんてまっぴらゴメンだと思ってたけど、今日一日で気持ちに嘘はつけないことが分かった。
どうしたってのことが気になってしまう。
あの時藤代に邪魔されなかったら全部に言ってたんだろう。
もしそうなってたらは何て答えたんだろうな。
その時のを思い出す。
照れていたように見える。
藤代が来て部屋から顔を出したときに顔が赤かった。
「・・・絶対に落としてやるからな」
三上は不適に笑ってそう言った。
自信はある。
チャンスだっていくらでもある。
「待ってろよ」
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