ロンドン最初の日


         

 Yokoは、もう2年ほど、ロンドンで一人暮らしをしていた。英語学校で勉強しているので、私はあちこち案内してもらおうなんて、思ってはいなかった。 でもやはり知人がいるということは、心強い。彼女のフラットは3畳あるかないかだそうで、「泊めてあげたいけど、とっても無理」。 
 もちろん、旅は一人で動くのが私のモットー。泊めてもらおうなど、ユメユメ思っていなかった。

 さて、飛行機は無事ヒースロー空港へ到着。見渡した途端「ゲッ、何もかも英語だ」 そんなことあたりまえなんだけど、これが正直な第一印象。
 ひろーい空港を迷いながら、地下鉄の駅へ。地下の通路の長かったこと。早朝の5時にもかかわらず人の多いこと。
 私は、初めの2日だけ、日本からホテルを予約してあった。地下鉄、アールズコートの近くで、1泊£45(約9000円)。

 では、私がそのホテルにすぐにたどり着けたか。
 ノン。

 実は、降りる駅を一つまちがえてしまって、10人以上に尋ねることになった。こんなことアホらしくて、書く以外、誰にも言えやしないの。読んでくださってありがとう。
 重いスーツケースをガラガラと引いて、汗をかきかき、ロンドンの石畳の道をひたすら歩きながら、それでも私は、迷っている自分を半分おもしろがってもいた。おまけにヨレヨレになって、ヤットコサそのホテルにたどりついて受付に行くと、
「満室ですので、その向こうのホテルにうつってください」
        (まったく、ダブルブッキングしたのだな)
 
 このときの私の顔を、
 マンガにしたら、
 うらめしそうな表情、
 ため息一つほえっ
 はいて。

 そのホテルは、道一つはさんで、でも300メートル以上あった。
でも、このホテルの方が一泊料金は2倍以上(もちろん、差額を支払う必要なんてありませんでした)という、割にいいホテルだったので、
 「よっしゃ、ゆるそうじゃないの」

 さて、ホテルに着いたことを Yokoに電話しようとしたが、何度かけてもつながらない。受け付けの人にたずねると「多分、向こうの電話が故障しているのでしょう」だと。
 え〜、Yokoは朝から私の電話をずっと待っててくれてんだよ。でも、まぁしかたない、こうなりゃあきらめよう。なんとかなるさ。
身支度して朝食をとり、外へ出ることにする。

 手元の地図を見ながら、アルバートホールや、ケンジントン宮殿などホテルの近くを歩く。公園のベンチに座っていた女性に、そばへかけていいかとたずねるとにっこり 「Sure」、 
 彼女はアメリカのニュージャージーから友達と休暇で来たそうだ。アンティークが大好きなの、と買ったばかりの古いレースの布の日傘を見せてくれた。
 「18世紀か、19世紀の貴婦人が、使ったのよ、きっと」と彼女。

 「弟さんを白血病で亡くしたアメリカの友人がね、こう言ってくれたの。
  
 Life is short, so make the most of your time.
(人生は短いわ、だからあなたの時間を最大限、有効に過ごしなさいね)って。そのことばが背を押してくれて、えいってこの旅に来たのよ」
と言うと、彼女は、
 「ええ、それにこういう言い方もあるわよ。
   Life is too short to drink bad wine.
(人生は、短いんだから、まずいワインなんて飲んでいられないわ。おいしいワインを飲まなくちゃ)」


 私たちは顔を見合わせて笑った。家族はねこちゃんだけだとか。写真を撮らせて、と言うと
 「ダメダメ、私なんて。こぉんなに太ってるから、あなたのカメラが壊れちゃうわ」 
 ふ〜ん、英語でもそういうのね。ちょっと愉快。彼女は私のカメラで、私を写してくれた。なんだか住所をたずねたいような気がしたけど、写真を撮ってあげたわけでもないし・・・。1時間半も楽しくおしゃべりして、心を残しながら別れた。少し歩いて、振り返ると彼女も見送ってくれていて、二人で手を挙げた。

 私はいつも旅に出ると、ウェストポーチに小さなノートを入れてあって、何でもかんでもメモすることにしていた。なにしろ私はチョー忘れっぽい。
 友達になった人とは、住所をメモしあって手紙の交換をしたりするのも楽しみの一つだった。

 この人に住所をメモしてもらわなくて、ちょっとだけ後悔したけど、そうしなくてよかったじゃん、ということになったのも事実。

 さて、その夜、シャワーを浴びてテレビを見ながら、明日の予定を考えていたら、部屋の電話が鳴った。Yokoだった。このホテルのフロントまで来ているという。
 「朝からずうっと待ってたけど、ちっとも電話がならないので、管理人に聞いたらどうもこわれてるらしいのね」とか何とか言いながら。
 よかったぁ。2年ぶりくらいの再会だ。

 やっと、Yoko の娘さんからことづかったものや、頼まれていた野菜の種などを渡せた。

 来る前に何を日本から持って来てほしい?とたずねたら、一ヶ月平均5000円(£25)で暮らしているというYokoは、「できれば野菜の種を少し」と答えた。フラットの裏庭に蒔いて育てて、自炊のグリーンにするのだそう。                         
 


                 なんと堅実な。



行ったところB&B