二人暮らし
 
 
 どうしたって自分を認めてくれる人なんかいない。
 オレが「ナルト」を演じてる時だって、人は「ナルト」を認めない。
 かと言ってオレをさらけ出しても、結局は同じことだった。
 
 
「いや〜、やっぱ才能があるね」
 ナルトは誰もいないところで修行をするのが日課だった。
 途中カカシの気配が感じられても、敢えて逃げないでそのまま修行に取り組んだ。
 ナルトの手裏剣さばきは見事なもので、カカシはナルトを見つけるや否やそう声をかけた。
「なんか用かよ」
 カカシには三代目が自分の正体をばらしたせいで、本当の自分を知られている。
 担当上忍が知っていないとなにかとやりにくいだろうという三代目の判断だったが、ナルトにとっては余計なお世話だった。
「ちょっとどうしてるかなって気になってさ」
「気にする必要もないだろ。用が済んだらどっか行けよ」
 普段のナルトからは考えられないような言葉が出てきても、カカシはもう慣れてしまったのか、そんなに気にしていないようだった。
「うん。ちょっと前までは違和感があったけれど、こっちのナルトのほうがなんだかしっくりくるね」
 ま、表のナルトも可愛くて好きだけど。なんて言葉を添えてみても、ナルトは冷めた表情でカカシを見るだけだった。
 
 こいつは何でこんなところにわざわざ来たんだろう。
 別に用事がないならさっさとどこかへ行けばいいのに・・・。
 
 そう思っても、表には出さないで黙々と修行に励むふりをする。
 ヒュ・・・
 ドカ!
「うん、やっぱいいね〜」
 ヒュ・・・
 ドカ!
「これもやっぱ才能かね」
 ヒュ・・・
 ドガ!!
「って、ちょっと!?」
 ナルトはずっと木を的にして練習をしていたけれど、急にカカシを的にして狙ってきた。
「・・・うざい」
 辛うじてよけられて、ナルトは実に悔しそうな顔をしていた。
 けど、カカシとしては洒落にならなかった。
「うざいって、ひどいなぁ〜!本当のことを言ってるだけなのにさ」
「それがさっきからムカつくんだよ」
 ナルトはそう言うなり、またカカシに向かって手裏剣を投げつけた。
 何とかよけたカカシだったが、もう一つ手裏剣があったのに気がつくのが遅れて、髪の毛の先を少しだけ切った。
「な、なんで・・・」
 冷や汗をかきながらもなんとか質問する。
「・・・才能才能言うけど、オレだってこうして努力してるから今のオレがあるんだよ。才能一つで片付けられたら普段のオレと変わらずに人に認められてないのと同じだ」
 ナルトは最初の言葉だけ言おうとしたのに、口が勝手に動いて余計なことまで言ってしまった。
 これじゃあ自分がカカシに認められていないと拗ねているみたいだ。
 変な風にカカシが勘違いしないように恨みを込めて睨みつけようとした。
 ・・・が、すでに遅かった。
「んかっ可愛い・・・!!」
 
 何だその「ん」は。っつーか「可愛い」って誰に言ってんだこいつは。
 
 ナルトがそんなことを考えていても、言葉に出したとしてもカカシは気にしちゃいなかった。
「!!ちょ、放せ変態!」
 ナルトが気がついたときにはすでにきつく抱きしめられてしまっていた。
 あまりの早業にナルトは悔しくも反応できなかった。
「そうかそうか〜。そんなに俺に認めて欲しかったんだ」
「アホか!!あんたなんかに認められようなんて微塵も思ってないわい!」
 ナルトは何とかしてカカシの手から逃げようとするが、力の差で逃げるのは無理だった。
「またまた〜。照れちゃって、かわ・・・」
 いい。と、言うつもりだったけれど、ナルトの拳がカカシのわき腹を見事にヒットして、それ以上はしゃべれなかった。
「黙れ、このボケが」
 かなりの殺気を込めて言ったけれど、カカシはすぐに体と心の痛みに立ち直ると、少しまじめな顔をして話し出した。
「でも俺はちゃんとナルトのことを見てるよ。努力してなきゃ、わざわざこんなところへ来て修行なんてしないしさ」
 抱きしめられ慣れていないナルトは、カカシの声が自分の体へと響いていく感覚がなじめずにもぞもぞしてしまう。
「火影になって里のやつら全員に認めさせるってのも本当でしょ?それはどっちのナルトも同じ夢だよね」
 何となく気恥ずかしくて表のナルトみたいに大っぴらに言えないけれど、ナルトは頷いた。
「じゃあ努力するのは当然だよ。どんなに天才でも努力しなきゃ、実力はついてかないしさ。ちゃんと俺は分かってるつもりだよ」
 にこっと笑いかけられて、ナルトは対応に困ってしまった。
「なんなら俺が修行みてあげるよ」
 けれど、その言葉にすかさず反対する。
「あんたにみてもらったって役不足だ」
「だろうね」
「!?」
 まさかそんなにすんなりと答えが返ってくるなんて思ってもみなかったので、ナルトは驚いてしまう。
 それに「じゃあやっぱりやめとくよ」なんて後から言われると思って、内心少し焦っていた。
 そんなナルトの困惑を知ってか知らずか、カカシはまた笑顔で言った。
「けど俺はそばにいるよ。ナルトが嫌だって言っても無理やりついてくから。邪魔者でもお荷物でも何でもいいよ」
「・・・なんでそんなにしてまでオレにこだわるんだよ」
 表のナルトにも本当のナルトにも、一緒にいたいなんて言う人は今まで一人もいなかった。
 だからどうしたらいいのか困っていた。
 
 どうしたら本当のことが聞けるのか。
 どうしたら自分はいいのか。
 
「何でって、好きだからに決まってんでしょうが」
 
「・・・あ、その顔は信じてないね」
 
 
 当たり前だ。
 急にそんなこと言われたって信じられるわけがないだろ。
 生まれてこのかた一回も、誰一人としてそんなことを言われたことがなかったんだ。
 信じろってほうが無理だ。
 
 
「じゃあ、ナルトが俺の言ったことを信じるまでずっと一緒にいるかな」
「・・・は?」
「うん、決めた!さっそく一緒に暮らすか〜」
 ナルトがカカシの言っていることについていけないのに、カカシは気にしてない。
 ナルトの腕を掴むと、ナルトの家へと歩いていく。
「おい、急にふざけたことをぬかすな!何でいきなりそんなことになるんだよ」
「んなこと言って嬉しそうだよ、ナルト?」
「な!!」
 顔を覗き込まれて、ナルトは無意識に顔が赤くなってしまった。
 なんだかとっても悔しくて、カカシに殴りかかるけれど、冷静さを欠いたナルトの攻撃はすんなりとよけられてしまう。
「まだまだ修行が足りないんじゃない?やっぱ俺が一緒に見てあげよっか?」
「このっ・・・!」
 また殴りかかろうとするが、今度は手を取られて動きを止められてしまう。
 それどころか手を引っ張られて、重心がぐらついた。
「っ!」
 そこをすかさずカカシが支えたけれど、それだけじゃなかった。
 めいっぱい開いたナルトの目に映るのは、カカシのどアップ。
 くちびるには柔らかい感触があって・・・。
「何するんだってばよ!!」
 あまりに驚いたせいか、混乱してナルトは表の口調になっていた。
「何ってキスだけど?」
 そんなナルトを気にしないで、カカシは飄々と言ってのけた。
 ダイレクトなその言葉に、ナルトは真っ赤になってしまった。
「何で・・・」
「好きなんだから当たり前でしょ」
 好きだからってしていいもんじゃないだろ!と突っ込みたかったけれど、それを言ったら、カカシの言ったことを認めたみたいで恥ずかしくて言えなかった。
 無言で睨んでやるけど、効きはしなかった。
「いや、本当にナルトのことが好きだよ?ちゃんとそこんとこ分かってよ?」
 まるで自分が聞き分けのない子供のように言われて、ナルトはつい言ってしまった。
「分かってるよ!」
 言ったあとに後悔したけれど、当然遅かった。
「良かった〜。じゃあさっそく今から二人暮しでもはじめよう!」
 さっきからそのつもりでいたのに、改めてそう言って、嬉しそうにナルトの手を引いていった。
「何でまたそんな急に、わけの分からんことを・・・!」
「もっとお互いを分かり合うためには手っ取り早く二人暮しが一番だよ。これからはずっと二人だね」
 嬉しそうに言われて、ナルトはつい良心がうずいて何も言い返せなかった。
 
 心のどこかで、自分もちゃっかり喜んでいるのを知っていたのかもしれない。
 
 
 
 
 
 
 
終わり
 
 


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