プラスとマイナス
 
 
 最近は冬が近づいてきたせいか、日が暮れるのも早くなっていた。
 ナルトと自来也の修行は相変わらず続いていたけれど、最近ではナルトの体が冷えてはいけないのでと、自来也は早めに修行を切り上げていた。
「さて。もう帰るかの」
「ええ〜!最近エロ仙人ってば付き合い悪いってばよ」
 ナルトが風邪などを引かないように気を遣っているのにそんなことを言われてしまっては、自来也もむっときてしまう。
「修行に付き合いも何もあるかってーの!さ、帰るぞ」
 無理やりナルトの手を取ると、すぐに引きずって家に帰らせる。
「じゃ、しょーがないから今日は仙人の家に泊まってこっと!」
 けれど、ナルトは無理やり自分の家とは反対方向の自来也の家へと歩こうとしてしまう。
「駄目だっての!」
「何で〜!?修行以外でも弟子とコミュニケートする必要あるってばよ」
 可愛らしく言うナルトに、自来也は内心鼻血を吹きかけていたが、表面では何とか冷静に対応する。
「十分しとるだろうが」
 二人は恋人同士だったが、まだ大人な仲に二人はなってはいなかった。
 自来也がさすがに手を出すまではまだ早いと思ってのことだったのだ。
 だから、家に泊めるだなんて自分の理性が保てるか心配だったので拒否したのだった。
 それなのに、ナルトはまだ納得がいってないようだ。
「してないっ!とにかく今日は仙人の家に泊まるったら泊まるんだってば!」
 自来也にしがみつくようにして抱きつくと、ナルトはそう叫んで、絶対に離れなさそうだった。
 しかし、自来也もここでさがってはいられない。
 一つため息をつくと、思い切ってこう言った。
「お前はどうも甘えたがる癖があるようだが、お前もいっぱしの忍。わしはお前の師でもあるんだから、甘えは許さんぞ」
 そう言って、自来也はしばらくナルトを見ないようにしていた。
 だけど、ナルトから何も言ってこなくて、ついに心配になってナルトの方を見た。
 ナルトは自来也が自分を見たことに気が付いたのかはよく分からないが、ちょうどそこで俯きながら話し出した。
「そんなこと分かってるってば・・・。じゃ、オレってばもう帰るから」
 この光景をいつか見たような気がする。
 自来也はそう思いながら、昔同じようなことを言ってナルトを悲しませてしまったことを思い出した。
 あの時も同じように無理をして笑っていた。
 寂しそうなナルトの後姿を見ているうちに、自来也はいつの間にか無意識に走り出していた。
「おい、ナルト!」
 振り向いた顔はあきらめきった顔で。
 自来也はそんなナルトの表情を見て後悔した。
 
 いつも肝心なところで甘えないで・・・。
 わしだってひどいことを言ってしまったが、何でそこで簡単に引き下がるってんだ。
 甘えるなと口で言いつつ、本当は甘えて欲しいんだって分かれっつーの!
 ・・・まあそれでわしは今晩我慢できるのかってのはまた別の話になるが・・・。
 わがままいうかもしれんが、わしだけには頼って欲しいんだ。
 
「仙人?何か言いかけてたけど、結局何なの」
 ナルトがひょこっと顔を覗き込んできて、慌てて自来也はナルトの腕を引っ張った。
「なんだってば急に」
 ぐいぐい引っ張られてわけの分からないナルトは、抵抗しながらそう聞いた。
「いいから、帰るぞ」
 けれど、自来也の引っ張っていく方向は、ナルトの家ではなく自来也の家だった。
「そっちは仙人の家じゃ・・・」
「うっさいの〜!だから帰るといっとるだろうが。人のせっかくの好意を無にする気か?」
 自来也は年甲斐もなく照れている自分が恥ずかしくて、ナルトの逆方向をみてぶっきらぼうにそう言う。
 そんな自来也がナルトには新鮮で嬉しくて、つい自来也にしがみついた。
「こらっ!そんなにしがみつかれちゃ帰るに帰れんだろうが」
 ナルトは自来也の言っていることを聞いてるんだか、聞いてないんだか、笑ったまま自来也にしがみついていた。
 自来也としては、やっとナルトが笑ってくれてほっとしていた。
 
 結局こいつには甘いのぅ・・・。
 
 苦笑している自来也が不思議で、ナルトは首を傾げていた。
 自来也はそんなナルトに気がついていたけれどあえて何も言わずにナルトを自分の家へと連れて行った。
 二人は手を繋いで家へと向かっていたので、自然と里の人間に注目を浴びてしまう。
 自来也はそのことに気がついていたけれど、特に何も感じずに普段どおり歩いていた。
「・・・仙人」
 けれどナルトは気まずいらしく、おずおずとそう言うと、手をもぞもぞと動かして離そうとした。
 自来也だってあまり人にじろじろ見られるのは好きじゃなかった。
 なのにどういうわけか、自来也はナルトの手を離そうとしなかった。
「仙人ってば、みんな見てるから」
 こそこそナルトが自来也に話しかけるけれど、自来也は聞いてないフリをしてそのまま歩き続けてしまう。
「仙人!」
 ついにナルトが大きな声で名前を呼ぶと、やっと自来也は返事をする。
「・・・なんだ?」
 でも、それだけだ。
 そんな自来也に業を煮やしたナルトは、思い切って自分が思っていたことを言った。
「なんだ?って・・・!オレと手握ってたらみんなに見られるってばよ!」
「それがどうした」
 あくまで短い自来也の返事に、ナルトはその倍以上言い返す。
「だから、そんな変な目で見られるんなら手ぇ離したほうがいいって言ってるんだってばよ!」
 自分の言ってることを理解してほしくて、ナルトは一生懸命自来也に訴えかけるが、自来也はそんなナルトを見ながら「可愛いな」ぐらいしか考えていなかった。
「仙人!」
 それでも手を離さない自来也に、ナルトはいよいよ怒りはじめた。
「・・・何だ、ナルトはわしとそんなに噂を立てられるのが嫌なのか」
「違うってば!ただ、そんなの仙人が嫌だと思ったから・・・」
 自来也はナルトがそう言うと予想していた。
 ナルトは「九尾」だと言われている自分なんかが自来也と噂されるのが嫌なんだと言うことも、自来也は簡単に想像できた。
 そうして実際ナルトは自来也の想像どおりのことを言った。
 
 やっぱりわしに遠慮するのか。
 
 自来也はできれば自分の予想が外れたらいいのにと思っていた。
 けれど、やはり甘えることができないナルトは、自来也の予想通りのことを言ってくれたのだった。
 ため息をついたら、ナルトはびくっとする。
 そんなナルトに、自来也は優しく言った。
「わしは嫌じゃない。つーか、ナルトは嫌なのかぁ。それがなによりわしは傷ついたかの〜」
 自来也のその台詞に、ナルトは俯いていた顔をがばっと上げた。
「違うってば!オレだって本当は嬉しいけど、でも仙人のこと考えると迷惑じゃないかって思って・・・」
 最後のほうは言っているうちに自信をなくしてしまったのだろう。
 言葉が言い切らないうちに途切れてしまって、ナルトはまた俯いた。
 自来也は俯いているナルトの頭にそっと手を置くと、いつになく優しい声で話しはじめた。
「迷惑だなんて思うことが何よりわしにとって迷惑だっての」
「?」
 ナルトは自来也の言いたいことが分からなかったみたいで、少し顔をあげて自来也を見た。
「わしだって、ナルトと同じで嬉しいんだ。それを変な遠慮されてしまっては気分が下がるっての。大体わしがナルトと噂されて迷惑がるなんて勝手に思われちゃ、わしが傷つくだろうが」
 優しい言い方だったけれど、ナルトはしょげてしまってすぐに「ごめんなさい」と謝った。
「アホ。本当にわかっとるのか?」
「?」
 またナルトは首をかしげて自来也を見やった。
「わしはさっきからお前と対等でいたいといっとるんだ」
「!」
 驚くナルトをそのままに、自来也は手を引っ張ってまた歩きはじめようとした。
 恥ずかしかったのかもしれないが、ナルトにはそんなことは分かる余裕がなかった。
「・・・いいの?」
 自来也に引っ張られながら、何とか歩き始めたナルトは、さっきよりも俯いてそう言った。
「いいとかそういう問題じゃないっての!当たり前のことだろうが」
「・・・うん」
 ナルトは嬉しくて泣いていたかもしれない。
 けれど、自来也はあえて何も言わず、そのまま歩き続けた。
「ありがと、仙人」
「だから!そんなこと言う必要はないっての!」
「でも言いたいから言わせて欲しいってば」
 そんなナルトの言葉に照れてしまった自来也は、ナルトより先に歩いていてよかったと思った。
 そうじゃなきゃ、振り向かれでもしたときに、真っ赤な自分の顔を見られてしまうから。
 
「・・・さ、帰るぞ」
「おうっ!」
 そうして、二人は繋いでいた手をもっとしっかり握って家路へと帰っていった。
 まだ赤いままの顔をした自来也はふとあることに気がついた。
 
 ・・・本気で今晩我慢できんかもしれんな・・・。
 
 
 自来也の心配をよそに、ナルトはとても幸せそうに笑っていたが。
 もちろん自来也はそんなナルトを見て幸せな気持ちになった反面、より危険になっていく自分に気がついたけれど。
 それでも今が幸せだから、自来也は一先ず今晩のことを忘れて、ナルトと幸せを噛みしめるのだった。
 
 
 
 
 
終わり
 
 
短めのジラナルでした。
31000番(だったかな;)の代打リクをしてくださった松男様に差し上げます☆
リクありがとうございましたvこんなんですが、もらってやってくださると嬉しいです。
 
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