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 最近のサスケは昼の時間が待ち遠しくてたまらなかった。
 授業が終わる三十分も前からチラチラと時計を見ては、落ち着きなくあたりを見ていた。
 その視線が最後に行き着くのはもちろんナルトで。
 ナルトはサスケに見られているなんて思いもしないので、気持ちよさそうに寝ながら授業を受けていた。
 ちょうど寝顔がサスケからモロに見えるので、サスケはずっとナルトの寝顔を見てはみいってしまいそうになっていた。
 ちらっとナルトを見ては、慌てて違うところを見ようとするサスケの動作は、教師だけが気がついていた。
「・・・はい、うちはサスケ君よそ見したから一学期の成績は1ね」
 そう言って本当に成績が載ってあるらしい紙に、何か書いてまた授業を進めようとしたのは、当然あのカカシだった。
「ふざけんな!!」
 サスケはカカシが大嫌いだったので、遠慮なく反抗した。
「だってお前、斜め前のほうに何があるのか知らないけどさっきからチラチラ見ててうざかったんだもん。斜め前に何があるのかは知らないけどね?」
 わざとそう言って、サスケをからかってやろうという魂胆は丸見えだったけれど、サスケは簡単に乗ってしまう。
「斜め前なんて見てない!お前こそある一点しか見てないだろうが」
「何言ってんの。サスケこそさっきからいい位置で寝顔見れるからって見すぎなんだよ。ホント、あれだけ見てたらもう立派なストーカーだよ。あ、もう変態だしどっちみち一緒なワケか」
「それはお前だろうが!!」
「いいや、お前だね」
 そして、残りの20分は丸ごとサスケとカカシの言い合いが続いた。
 まわりの生徒はそんな二人を呆れたように見るだけだった。
 当のナルトはいい夢でも見てるのか、幸せそうな寝顔でずっと寝ていた。
 
 
「ウスラトンカチ、飯だぞ起きろ」
 サスケはカカシとずっと言い合っていたせいでいらついていたけれど、これでやっとナルトとの時間がすごせると思うと、張り切ってナルトを起こしにいった。
「ウスラトンカチじゃねーってばよ!」
 がばっと起きて、ナルトはそう言うと、すぐに椅子をサスケの席まで持っていくと座った。
 最近ナルトとサスケは昼ごはんを一緒に食べるようになった。
 ナルトがあれ以来サスケの弁当に興味を示して、いつも何か一品交換するのが日常になっていた。
「あ!今日はサスケの弁当ってば購買のパンだし」
「・・・今日は兄貴が忙しくて作れなかったんだよ」
 面倒くさそうに言うサスケに、ナルトはふ〜んと言うと、顔も知らないサスケの兄に同情した。
「忙しいのにサスケの兄ちゃんってば偉いんだな」
「何でだよ、こうしてちゃんとオレが購買で弁当買ったのに何で奴が偉いんだ」
 サスケは少しむっとして話すと、ナルトは得意そうに言葉を返した。
「だってオレは父ちゃんが寝坊してるときはちゃんと自分で弁当作るってばよ!じいちゃんは起きててもどうせ作らないのは分かってるしさ」
 初めて聞いた言葉に、サスケはすかさず反応した。
「お前って親父と二人暮らしじゃなかったのか?」
「ああ、じいちゃんはたまにうちに来たりしてるからさ。結構有名な小説家らしくて、気晴らしにたまに遊びに来るんだってば」
 ナルトの家族構成は、父親が母親に逃げられてしまったとナルトから聞いていたけれど、そんな祖父がいたことは知らなかった。
 また新しくナルトのことが知れて、サスケは嬉しかった。
「それより、サスケは何で兄ちゃんと二人暮らししてんの?」
 ナルトがサスケに興味津々といった感じで聞いてきた。
「ああ、親が海外に行ってて俺達兄弟は日本に残ることにしただけだ」
 ナルトはへ〜っと言って、また弁当を食べ始めたけれど、また何かを思いついたらしい。
「なあ!今日サスケの家に遊びに行っていいか!?」
 いきなりそんな嬉しいことを言われたので、サスケはまた自分が都合のいい幻想でもしているのかと一瞬思った。
「な、何で急にそんなこと・・・」
 まさか親がいないのを知って、それでいてオレの家に遊びに行きたいってことは。
 そうサスケは内心期待していたけれど、すぐにそれは裏切られた。
「だってサスケの兄ちゃん見てみたいしさ!」
 ガクッと来てしまったサスケだったけれど、すぐに立ち直っていいようにとらえた。
「別にオレは構わないぜ。なら学校終わったら一緒に家に行くか?」
 兄をダシにしたって、少しでもナルトといられるなら構わないとサスケは思い、そう誘った。
「いいのか!?ならそうするってばよ」
 ナルトはそこでとても可愛らしい笑顔で笑いかけるので、サスケは思わず鼻血を噴きそうになった。
 
 ナ、ナルトと一緒に下校・・・!!
 
 それを考えるだけでもサスケにとっては鼻血モノだった。
 しかも、ナルトには言わないようにしたけれど、兄のイタチが帰ってくるのは夜遅くになってからだった。
 はしゃぐナルトのそばで、サスケはこっそりガッツポーズをするのだった。
 
 
 そして、サスケにとっては時間が早く過ぎていって、もうナルトと仲良く歩いて自分の住んでいるアパートまで着いた。
 それまでサスケは、帰るときにナルトを呼んだときのことを思い出していて、ひとりでニヤけていた。
 
「ナルト、帰るぞ」
 そう言ってナルトを呼べば、ナルトはさっきまでじゃれていたシカマルたちをおいて、すぐに嬉しそうにサスケによって行った。
 その時のシカマルたちの悔しそうな顔を思い出すと、サスケは優越感で胸がいっぱいになっていた。
「ここがサスケの住んでるとこかぁ」
 そう言って、ナルトはしげしげとアパートを見ていた。
「オレも一戸建ての家じゃないんだよな、ショボマンションでさぁ。父ちゃんが庭弄りとかしたいっていつも言ってんだってば」
 サスケはその話を聞きながら、今度はナルトの家に遊びに行きたいとこっそり思っていた。
 鍵を開けて、部屋にナルトを招き入れる。
「先にリビングにいろ。オレは鞄置いてくるから」
「何でだってば。オレもサスケの部屋に入ってみたい」
 サスケは、自分の部屋に入ってほしくなかったためにそうやって言ったのに、まさかナルトから部屋に入りたいなんて言うとは思わなかったので、困ってしまう。
「いや・・・。オレの部屋は散らかってるし・・・」
 歯切れの悪い言い方のサスケに、ナルトは思いついたことを嬉しそうに言った。
「!まさかサスケってばエロ本隠し持ってんじゃ!?」
 内心びくびくして聞いていたサスケだったけれど、その言葉にほっとした。
「ふん、いかにもガキの考えそうな発想だな。とにかくお前はリビングで大人しくしてろ」
 ナルトがムキー!と怒っていたけれど、サスケは簡単にお茶を淹れると、ナルトに渡して自分は部屋へと移動した。
 
 ふう・・・。まさかとは思ったけどびびったぜ・・・。
 
 そう思って、自分の部屋を空けると、いつもと同じようにナルトがフル笑顔でサスケに笑いかけていた。
 ・・・と、言ってもナルトが二人もいるはずもない。
 二人どころかサスケの部屋には、いかにも隠し撮りをしたっぽいナルトの写真でいっぱいだった。
「さすがにこれを見られたらまずいからな・・・」
 サスケはそう言って鞄を置くと、慎重に部屋のドアを閉めてナルトのいるリビングへ行った。
 リビングに戻ると、ナルトは勝手にサスケの家のテレビをつけて、ソファにもたれてくつろいでいた。
「なあなあ、サスケの兄ちゃんはいつ帰ってくるんだ?」
 サスケはいきなり兄の話を持ちかけられてむっとしたが、冷静に考えた。
 
 もし夜遅くに帰ってくるといえば、ナルトはどうするんだっ!?
 
 そこで、都合よくナルトが頬を染めるシーンを思い浮かべたサスケだったけれど、ナルトはどう見ても自分の兄に純粋に興味があるようだった。
「・・・そんなの聞いてどうするんだ」
 だからちょっと期待しつつも、慎重に聞きなおした。
 すると、元気良くナルトは返事をした。
「サスケの兄ちゃんに会ってみたいだけだってば!」
 やっぱり・・・。と、サスケは思ってがっくりした。
 けれど、無邪気にナルトは質問する。
「サスケの兄ちゃんって、やっぱりサスケとそっくりなの?」
 やっぱりサスケの話じゃなくて、兄のイタチでサスケは尚ショックを受けてしまった。
「・・・よく人には似てるって言われるけどな。オレは不本意だけど」
 それでも律儀に答えてやる。
「何で不本意なんだってば?オレだったら父ちゃんに似てるって言われると嬉しいけどなぁ」
 本当に嬉しそうに答えるナルトをサスケはつい見とれてしまった。
「・・・お前って、何でそんなに兄貴に興味を持ってんだ」
 純粋に気になったので、サスケは何となく聞いてみた。
 すると、思いもよらないところで嬉しい言葉が聞けた。
「だってサスケのことだしさ。なんかサスケのことは色々知りたいんだってば!」
「ナルト・・・」
 サスケはとっても嬉しくなって、つい長いことナルトのことを見つめてしまった。
 ナルトはしばらくサスケの視線を受け止めていたけれど、段々居心地が悪くなってきた。
 
 サスケのやつじっと見て何なんだろ。
 オレってばなんか変なこと言ったかな。
 ・・・それにしてもあんまり見つめられすぎると、いいかげん恥ずかしいってばよ・・・。
 
 二人はしばらくドキドキしながらお互いを見つめあっていた。
「ナルト・・・」
 サスケはそう言ってナルトの手を取った。
 ナルトはサスケの真剣な様子に、ただドキドキしながら任せるだけだった。
 サスケが少し自分のほうへナルトの手を引き寄せたところで、ドアが開く音がした。
 ・・・と、思ったらすぐにサスケに似た、もっと低めの声が聞こえた。
「うずまきナルト?」
 その言葉に、ナルトは「えっ?」と言いながら振り向いた。
 ナルトの後ろで、サスケが真っ青な顔をして固まっていたけれど、ナルトは気がつかなかった。
「初めまして、オレはサスケの兄のイタチ。よろしくナルトくん」
 そう言って笑顔であいさつをして握手まで求めてきたので、ナルトはそれにしたがってから質問した。
「な、何でオレの名前知ってんの・・・?」
「それはサスケが部屋に沢山写真を・・・」
「わ〜!!」
 イタチが言いかけたところで、サスケはすかさず大声を出して防ごうとしたけれど、しっかりナルトに聞かれてしまった。
「写真・・・?」
「いや!何でもない!何でもないぞ!!」
 サスケは慌ててそう言うと、兄であるイタチの襟元を何とか掴んで言った。
「馬鹿野郎!!何でよりによって本人に言いやがる!」
 大きな声を出せば、またナルトに怪しまれると思って、サスケはこそこそと言った。
 それに対し、イタチは普段よりか大きめの声でまた言い返した。
「何を照れてるんだ?家に呼べるぐらいの仲なら、てっきりもうモノにしているとばかり思ったんだが・・・」
 さらにそこで馬鹿にしたようにイタチはフッと笑った。
「それじゃあいつまでたってもオレには勝てないな」
「うるさい!しかも、何でそんなに早く帰ってきてんだよ!?」
 馬鹿にされるのは日常茶飯事なのか、サスケはらしくなく簡単に流すと質問した。
「はっ!好きな子と夜まで一緒にいたかったのか?中学生のくせに不純なやつめ」
 イタチはまるで汚いものでも見るかのようにサスケを見て、またサスケをからかった。
「アホか!!って、質問に答えやがれ」
 サスケが顔を真っ赤にするのを見て満足したイタチは、どうでもよさそうに答えた。
「生徒会の副委員長が代わりにやると聞かなかったから任せて帰ってきただけだ」
 成績優秀なイタチは生徒会長で、いつも生徒会の用事で遅くなっていたのに、何で今日に限って。と、サスケは副委員長を恨みたくなった。
「あのさぁ〜・・・。オレはどうしたらいいわけ?」
 ナルトはそんな二人のやり取りをぼーっと見ていたけれど、とうとう我慢しきれなかった。
「うん。今日は泊まっていくといいよ」
 イタチが笑顔でいきなりとんでもないことを行った。
「おまっ・・・。何で急にそうなるんだ」
「なんだ?嬉しくないのか?ならオレがナルトくんと一緒に寝るけど」
「アホか!!オレが一緒に寝るんだ!」
 また二人のわけの分からない言い合いが始まりそうだと思ったナルトはすかさず突っ込んだ。
「っていうか、まだオレってば泊まるのいいとは言ってないってばよ・・・」
「いや、ぜひ泊まってくれ。この友達の少ない暗くて陰険なサスケの大事な友達だからね。もっとサスケと仲良くしてやってくれると嬉しいんだが」
 さり気にサスケをけなしつつ、イタチはナルトを説得すると、ナルトは簡単に頷いた。
「よかった。じゃあサスケはせいぜい部屋をなんとかしてくるんだな」
「!!」
 サスケの部屋のナルトコレクションをどうにかしないと、ナルトと一緒に寝ることもできなかったので、サスケは慌てて自分の部屋に行った。
「さて、オレはナルトくんのためにご飯でも作るかな」
 そこでナルトは嬉しそうに申し出た。
「じゃあオレも手伝うってばよ!」
「それは悪いからいいよ。ソファにでも座っててくれればいいから」
 サスケには見せたこともないやさしい笑顔でナルトにそう言ってやるが、ナルトは聞かなかった。
「いいんだってば!今日は泊まらせてもらうんだし。ってあ!」
 急になにかを思い出したらしく、ナルトは慌てていた。
「?」
「あのさ、サスケのにーちゃん。電話かしてくれない?父ちゃんに電話しなきゃ・・・」
 遠慮して言われた言葉に、イタチはすんなり電話を貸してやった。
 その上、
「イタチって呼んでくれて構わないからね」
 と、一言付け加えるのを忘れなかった。
 そうしてイタチが見守るなか、受話器からガチャッと電話に出る音が聞こえた。
「ナルト!?ナルトかい!?パパだよ!!どこにいるんだ〜!!」
 とても大きな声で、泣き泣きしゃべっていることまで読み取れるほどにも、イタチの耳に聞こえてきた。
「ちょ、父ちゃんうるさいってば!近所迷惑だからそれくらいで泣き叫ぶなっていつも言ってるだろ!?」
 もう電話はハンズフリーモードかのような扱いで、ナルトもナルトの父親の注連縄も電話を持っていないで会話をしていた。
「だって、もう夜の六時半だよ!?パパは心配で心配で胸がはちきれそうだったんだよ!?」
「そんな時間は部活してたら普通に帰ってくる時間だって、いつも言ってるってばよ!」
 イタチは二人の会話を楽しんで聞いていた。
「それで、今どこにいるの!?」
「今はサスケの家にいるんだけどさ、今日泊まってもいい?」
 そこで、注連縄は急に黙り込んでしまった。
「父ちゃん?」
「っだめ〜〜〜〜〜〜!!!!」
 部屋中響くほどの音量でもって否定されてしまい、ナルトもイタチも驚いてしまった。
 二人とも、なにもそこまで否定しなくても・・・。と、思ったけれど、注連縄はまだ話し続けていた。
「まだナルトを嫁に出すのには早すぎる!それにサスケって、あのうちはの生意気なガキでしょ!?絶対に駄目!!」
「なにワケの分からないこと言ってるんだってば!」
「とにかく家に帰ってこなかったらパパ一生グレてやるからねっ!」
 その言葉に、イタチは勝手にグレとけと思ったけれど、ナルトはため息をついて降参してしまった。
「・・・分かったってば。帰るよ」
 そう言って、注連縄が喜んでる声がまだ聞こえていても、そのまま電話を切った。
「・・・そんなにグレると厄介なんだ?ナルトくんの父親は」
 ナルトはげっそりした顔で頷いた。
「ってわけだからオレもう帰るってば。せっかくご飯作ってくれてたのにごめんイタチ兄ちゃん。サスケに宜しく言っといてほしいってば」
「分かった。気をつけて帰るんだよ」
 すんなりイタチはナルトを帰してしまった。
 
 
「よし!これで完璧だ!」
 綺麗にナルトコレクションを片付けたサスケは、嬉しそうに部屋から出た。
「あ、ナルトくん親が反対して帰ったから」
 出た途端、何でもないような感じでイタチにすんなり言われてしまった。
「・・・は・・・?」
「ああ、ついに耳までやばくなってしまったか。カワイソウニ。まあでも、部屋がすっきりして良かったな」
 そう言って、イタチはまたご飯作りに取り掛かってしまう。
 
 その頃ナルトは帰る途中、嬉しそうだった。
「サスケの兄ちゃんに会えたから、今日はまあいっか」
 鼻歌を歌うナルトに、サスケのことが頭にあったのかは謎だった。
 
「は・・・?」
 まだサスケはぼんやりと、一人さびしくそう言っていた。
 
 
 
 
 
終わり


サ、サスケが報われねえ・・・!ごめんサスケ!!
格好いいサスケが書きたい今日この頃。
可哀相だからきっと続きます。


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