口は災いの元
 
 
 
オレってば、何であんなこと言っちゃったんだろ。
あう〜、どうしよう。
言っちゃったもんは、仕方ないし、何とか乗り切るってばよ!
でもな〜、イイ案が浮かんで来ねーってばよ。
うわ〜、どうしよう〜!!
 
事の発端は、いのが自分のペットを連れてきたことだった。
 
「ほら〜、可愛いでしょ。私によく懐いてるんだ〜」
いのが自分の腕の中にいる小さな犬を撫でた。
随分、毛の長い犬だってばよ。
赤丸とは大違い。
「ね、ねえ。オレにも触らせて!」
「いいわよ」
触らせてもらうと、長い毛はサラサラだった。
すごい、すごーい!
サラサラだってばよ!
「可愛〜ってばよ」
「やぁねぇ。今はチワワよ!ウチの仔の方が可愛いわ」
そんなオレの様子を見て、サクラちゃんが言った。
「サクラちゃんも飼ってるってば?」
「ええ。今度、ナルトにも見せてあげる」
得意そうに言ったサクラちゃんに、いのも負けじと言い返す。
「チワワなんて、流行ってるだけじゃない。絶対ヨークシャーテリアよ!」
「ふふん。あのつぶらな瞳を見たことないの!?絶対チワワ!」
「テリア!」
「チワワ!」
オレってば、何か居心地悪い・・・。
言い合いを始めた二人に挟まれてんだから、当然だってばよ。
そんな時、天の助けか、はたまた悪魔の気紛れか、サスケが来た。
「あ、サスケ〜!いいとこに来たってばよ!二人を止めてってば」
犬を抱いたまま小さくなっているオレを哀れっぽく見て、サスケは黙って近づいてくる。
だけど、サクラちゃんといののサスケレーダーの感度は良かったらしい。
今までお互いしか見ていなかった二人が、同時にサスケを振り返って叫んだんだから。
「「サスケ君は」」
「テリアと」
「チワワ」
「「どっちがいい!?」」
 
最初、目をまん丸くしていたくせに、サスケは、いつの間にか話の主導権を握っていたらしい。
いきなりオレに話を振ってきた。
半分以上聞いてなかったから、ビックリしたってば。
「おい、お前は、犬よりも猫だよな」
しかも、疑問系じゃなくて確定かよ。
「オレってば、話を聞いてなかったからわかんない」
そう答えると、三人はそろって溜息を吐いた。
「だからな、お前は犬の方が好きなのか、猫の方が好きなのかって聞いてんだよ」
「なんで、そこで猫が出てくんだってば?」
「オレが飼ってるからに決まってんだろ」
「へぇ!?サスケ、猫飼ってんの!?」
へえ〜。
サスケってば、以外と面倒見のいいヤツだけど、ペットとか興味ないと思ってたってばよ!
「んで、どっちなんだ」
「いきなり言われても・・・」
うんうん考えていたオレは気付かなかったけど。
「絶対犬だよな!」
いつの間にかそこにキバがいた。
「・・・自分の意見を押し付けるな」
そんでもって、シノもいた。
周りを見れば、いつものメンバーがいて。
「犬でも猫でもどっちでもいいじゃねーか、面倒くせーな」
「そお?ボクは豚とかがいいな。ミニブタ可愛いよ」
「わ、私は、ウサギが好き・・・」
話を聞いていると、ヒナタに、どうやらシカ丸とチョージまで何か飼っているらしい。
なんかさ、オレだけじゃん、飼ってないの。
気付けば、みんなはペット談義に花を咲かせている。
「・・・で、アンタは何を飼ってるの?」
「・・・へ?」
サクラちゃんが急にオレを振り返る。
「そいつがペットなんか飼ってるわけねーじゃん!」
キバが馬鹿にしたように笑った。
「それもそうね」
サクラちゃんは、キバの言葉に納得したようだった。
いつの間にか、話は自分達のペットを見せ合うことになっていたらしい。
何だかんだ言って、自分のペットを見せたいだけじゃん。
「じゃあ、明日もこの場所、この時間な」
シカ丸が、そう締めくくった。
「ドベ、明日、ちゃんとに来いよ」
サスケが念を押す。
そんで、オレに自慢したいだけだってばよ。
段々腹が立ってきたオレは、遂に言っちゃったってばよ。
「オレだって、すっげーペット、飼ってるってばよ!」
「へえ、どんなやつだ?」
言ったのはサスケだったけど、みんな、興味津々といった感じでオレを見た。
うう、どうしよう。
「そ、そんなの、明日のお楽しみだってばよ!」
「じゃあ、楽しみにしててやるよ」
そう言ったキバを先頭に、みんなそれぞれ帰っていった。
これじゃあ、今更ウソでした、なんて言えないってばよ。
ど、どうしよう・・・。
 
そんなオレの気持ちを知ってか知らずか。
「おい、お前、ホントはペットなんか飼っていないんだろ?どうすんだ?」
まだ、帰っていなかったサスケがそんなことを聞いて来た。
「オレんとこ、猫が二匹いるから、一匹貸してやろうか?」
「そんなのノーセンキュー!すっげーの見せてやるから楽しみにしてろっての!」
サスケに、ウソを見破られていた気恥ずかしさから、つい断ってしまった。
「・・・それならいいけどな」
オレは、呆れたように帰るサスケを見送った。
 
そんなわけで今に至る。
 
う〜ん、う〜ん。
「・・・ナルト」
う〜ん、う〜ん、う〜ん。
「ナルト!うるさい!」
カカシ先生に怒られた。
まあ、先生が読書している傍で、唸られたら当然か。
でも、読んでるのはイチャパラだから、邪魔してもいいような気もするけど。
オレは、ソファで寝転ぶカカシ先生の足下で、明日、どうやって誤魔化すか考えていた。
本来なら、夕飯が済んで、二人でまったり過ごす時間。
それなのに、カカシ先生の事を無下にしたんだから、当然っちゃあ当然だけど。
恋人が悩んでんだから、少しくらい一緒に考えてくれてもいいってばよ。
なんて、ちょっと恨み言を思ったりして。
そんなオレの思いが通じたのかどうか。
カカシ先生は、上体を起こすとオレを腕に抱き込みながら聞いてきた。
「一体、さっきから何を悩んでいるのかな?この子は」
オレをぎゅうぎゅう抱き締めながら、ゆらゆらと、まるでロッキングチェアーのように揺れている。
そうされると、気持ちよくて、全部どうでもよくなっちゃうってば。
だけど、半分どうでもよくなりかけたところで、ハタと思い出した。
いっけねー、忘れちゃダメだってばよ。
オレはカカシ先生に事のあらましを述べた。
それを聞いた先生は、遂に笑い出してしまった。
「カカシせんせー!笑い事じゃないってばよ!」
「ははは、ゴメンゴメン。お前には笑い事じゃないよな」
「もう!」
ぶすっと頬を膨らませると、チュッとほっぺたにキス。
「だったら、変化すればいいじゃない」
「あ、そっか!オレが変化すればいいんだってばよ!・・・あれ?でも、そしたら飼い主のオレは?」
「分身の術で二人になればいいでしょ」
「そっか!そうだってばよ!カカシせんせー、アッタマい〜!」
「でも、ナルトはずっと分身の術と変化の術を使っていられるのかな?」
「え?あ・・・うー・・・」
言われてみれば、そんなに長い時間、術を使っていられないかも。
う〜ん、出来そうな気のするけど、どうかな・・・?
黙りこくったオレを先生はニヤニヤしながら見ている。
「ホント、バカだねぇ、この子は。オレはお前のなんなのかな?」
「こ・・・恋人だってばよ」
「だったら、その恋人にお願いしてごらん」
カカシ先生は、それはそれは楽しそうに、オレを見ている。
なんだか悔しいけど、自分で出来ないなら頼むしかない。
オレは諦めて、先生にお願いすることにした。
「せんせー、明日一日オレのペットに変化してってばよ」
「ご〜かっく」
オレのほっぺに、ブチュッと盛大にキスをくれた。
「でも、オレ、すっげーのって言っちゃった」
「ダイジョ〜ブ。オレがちゃんと考えといてやるよ」
「ホント?」
「うん、ホント」
「えへへっ、カカシ先生、ダイスキだってばよ!」
オレも、先生のほっぺたに盛大にキスを返した。
 
次の日、オレは、カカシ先生と一緒に出掛けた。
カカシ先生が変化したのは、でっかい狼で、なぜか毛色は銀色だった。
それじゃあ、絶対サスケあたりにバレるってばよ、と言ったのだが、取り合ってくれなかった。
そして、一体どこからもってきたのか、今、カカシ先生の首には、首輪と紐がついている。
でも、でも。
カカシ先生ってば、カッコい〜!
こんな、格好いいペット連れてるの、オレだけだってばよ!
・・・たぶん。
そう思うからか。
心なしか、待ち合わせの場所に向かう足取りは、軽く。
なぜかカカシ先生も、楽しそうにオレの横を歩いている。
 
「遅〜い!アンタが一番最後よ」
待ち合わせの場所に着くと、早速サクラちゃんに言われた。
「ごめんってばよ。うわ〜、ホントにみんな、ペット飼ってるってば!」
見れば、それぞれ自分のペットを腕に抱いていたり、頭に乗せていたり、・・・体に這い廻していたりしている。
オレは、すっかり、傍らのカカシ先生のことを忘れて、みんなの輪に入る。
「サクラちゃんの犬、ちっちゃいってばよ!可愛い〜」
「これがチワワよ。いののヤツより可愛いでしょ?」
サクラちゃんは得意そうに言ったけど、オレにはどっちも可愛いとしか言いようがなかった。
サスケの方を見ると、その肩を黒猫が陣取っていた。
なんだか、サスケに似て、生意気そうな猫だってばよ。
そう、サスケに言ってやろうと思ったら、クイクイっと上着の裾を引っ張られた。
その方向を見ると、銀色の狼。
ちょっと、ぶすくれていたけど、目を向けると、ニヘラっと笑った。
なんだか、その様子が可愛くて、よしよしと頭を撫でる。
そうすると、カカシ先生は、オレの手に自分の頭を擦り付けてきた。
気持ちよさそうに、目を細めている。
いつもと立場逆転だけど、今はいいってことにするってば。
「あのね、あのね!コイツ、オレのペットだってばよ」
オレの横にべったりくっついて座るカカシ先生・・・もとい、狼をみんなに見せた。
「な〜、すっげーだろ?」
得意そうにいうと、みんなはマジマジとカカシ先生を覗き込んだ。
みんな、ビックリしてるってば!
やっぱりな〜。
カカシ先生、格好いいもんね!
ところが。
「なんか、誰かに似ているのよねぇ」
「あ〜、やっぱり?私もそう思ったのよね」
「どこで見たんだったかなぁ」
各々表現に違いがあるものの、言っている中身は同じだった。
もしかして、バレた・・・?
「おい、もしかして、コイツ・・・」
キバが怪訝そうな顔をして、オレに聞いてきた。
だけど、ここでバレるわけにもいかないってばよ。
「な、何、言ってるってばよ。ほら、どこから見ても立派な狼だってばよ」
「じゃあ、名前は?」
「え?名前?えーっと、名前は・・・」
「カカシ、だろ」
サスケが嫌そうに言った。
オレが違う、と言おうとしたとき。
隣りから、ぼふんっ、と煙が上がった。
 
「あったり〜」
そこには、首輪と紐を付けたまんまのカカシ先生。
「「「「「「「「・・・げっ」」」」」」」」
みんな嫌そうに顔を顰めている。
「何で、カカシ先生がいるんですか・・・?」
本当は、ナルトに頼まれたってわかってはいるけど、一応、と、嫌々サクラちゃんが聞いた。
オレも、そういう風に答えると思ったんだってばよ。
そしたら、カカシ先生ってば、あろうことか。
「だってオレ、ナルトのペットだもん。ペット自慢大会なんでしょ?だったら、オレがいてもおかしくないじゃない。ねー、ナルト?」
だって。
そんでもって、嬉しそうに、首輪に付いた紐を弄くっている。
つまり、オレが持っている紐。
変化を解いてしまった今となっては、みんなの目には、さぞ滑稽に映っていることだろう。
「はあ!?先生、何言ってるってばよ!」
「何が?昨日、オレにペットになってって言ったじゃない、ナルトから」
「そりゃ、ペットに変化してとは言ったけど、ペットになってとは言ってないってば!」
「そう?」
先生は一向に悪びれた様子はない。
きゅるんっ、と首を傾げて、嬉しそうに、ワンワン、と言った。
ワンワンって・・・。
狼は、ワンワンなんて、鳴かないってばよ・・・。
オレってば、思わず、口をぽかんと開けて、カカシ先生を見てしまった。
「キュゥーン、キュゥーン」
先生は、しゃがみ込んで、オレに抱きつきながら、オレのお腹に、顔をぐりぐりと擦り付ける。
「それじゃ犬だってばよ・・・」
つい、現実逃避をしてしまう。
「クゥーン」
カカシ先生ってば、ちょっと情けない声を出しながら、上目遣いにオレを見る。
なんだか、さっきから、視線が痛い・・・。
そっちの方を見れば、みんな、遠巻きにオレ達のことを見ている。
しかも、何か、嫌そうに。
それで、オレってば、すっかり恥ずかしくなっちゃって。
「もう、カカシ先生ってば!だから、それじゃ犬だっての!」
恥ずかしさの余り、すっかり頓珍漢な言葉が、勝手に飛び出した。
オレが言いたかったのは、そんなことじゃないのに〜!
でも、カカシ先生は、すっくと立ち上がり。
まるで開き直ったかのように言った。
「ま、どちらにしても、ナルトのお願い聞いてあげたんだから、オレのお願いも聞いてほしいな」
「え、な、何・・・?」
いや、ワケわかんないってばよ。
先生はひょいっとオレを抱き上げて、ニヤッと笑った。
「ん〜?イイコト。あ、君達、早く帰りなさいね〜」
「ぎゃああああ〜!!」
オレがいっくら叫んでも、やっぱりカカシ先生は、嬉しそうにワンワン言っている。
 
こんなことなら、素直にサスケの猫を借りておけば良かったと、後悔しても後の祭り。
もの凄いスピードで、飼い狼に家まで連行された。




終わり

・・・ニヤリ。と、読んでいて思わずそんな笑みが浮かんできてしまいます。
いい!ですよね〜vvペットなカカシに翻弄されるナルト。
ルイさん素敵な小説をありがとうございました!



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