保健夫の悲劇4

 何でこんなことになるかな・・・。
 真田君が貞操の危機で、俺が守らなきゃとか息巻いていたのに、気がつくと俺の方が貞操の危機っぽいし・・・。
 しかも三上君と会ってまだ二日しか経っていなかったのにあんなことを・・・。



 無視されてる。
 あれ以来毎日保健室に行っても全然返事もしてくれないでいる。
 ちょっと腕を掴んだだけで顔を真っ赤にするから、やっぱ脈ありだと思って抱きしめてみるとなんの恨みか、必ず藤代という邪魔が入ってくるし。
 しかもそれにの奴はほっとしているようだった。


 そんなこんなの初めての休日。

「おい三上、今日笠井が遊びに来るんだがお前はどうする?」
 そういえばと笠井が腹黒いところが似てるってまえ俺言ってたっけ。
「おい、ぼーっとしてないでどうするのか言ってくれ。最近のお前はずっとそんな感じだが、一体どうしたっていうんだ?」
「・・・別に何でもねえよ。俺は今日の部屋に行ってみる」
 にとって今日が保健の仕事で始めての休日だからな。
 俺がいなきゃ話にならないはずだ。と、いうか話にならないはずにさせる。
 いいかげん無視されつづけるのは俺だってつらい。

 三上は勝手にそうやって考えると、まだ朝の七時だというのに部屋を出てのところへ向かってしまった。

 乱暴にドアを叩いてドアを開けさせようとするが、なかなか出てこない。
 暫く経つと、寝ぼけたようなの「今あけますぅ〜」という声が聞こえてきた。
「はい、どなた・・・」
!遊びに来てやったぜ」
 すると、はいきなり真っ赤な顔をしたと思ったら、部屋のドアを閉めて三上をしめだしてしまった。
「おい!今日ばかりは無視させねえぞ!俺だってもう我慢の限界がきてんだからな!!」
 そう言うと三上はがドアを開けるまでずっとドアを叩き続けるつもりらしく、いつまで経ってもドアを叩くのをやめない。
 いい加減うるさくなったは寝ぼけた顔のままドアを開けた。
「・・・にゃにか用?」
 顔は赤かったが、どこか寝ぼけた様子のに三上は構わずに部屋に入るといきなりを抱きしめた。
「ずっとこうしたかった・・・、いつも邪魔ばかり入ってたから早くこうしてと話したかった」
 三上がそう言ったとたん、は三上を抱きしめ返す。
・・・」
 ガラにもなく三上はどきどきしてしまう。
 緊張しながら三上はと顔を向き合ってキスしようとする。

 のやつもう目ぇ瞑って・・・。
 なんだかんだ言って、俺のこと待ってたんだな。

 ぐか〜

 って寝てやがるー!!

 は器用にも立ったままの体勢で寝ていた。
 でも顔を赤くしたり自分から抱きしめたんだから、起こせばまだなんとかなるはずだと三上は思ってまたを起こしにかかる。
「おい、起きろよ」
「ん〜、まだ寝させて・・・」
 そもそも床で寝ていたらいくら春先でもこれでは風邪をひいてしまう。
 三上はなんとかを起こしてやろうとするが、は寝返りを打つだけでなかなか起きようとしない。
「起きないとこのままキスするけどいいのか?」
「・・・んん」
 寝言なのか返事なのかいまいち分からなかったが、三上は反対はされていないのでOKだろうと勝手に解釈して、眠っているに口付ける。
「ん・・・、三上君・・・」
 一瞬が起きたのかと思ったが、そのままは一定の呼吸を繰り返しているだけだ。
 だけど、三上は自分のことを寝言で言ってくれて嬉しくなってしまう。
 つい調子に乗って舌を入れると、段々は苦しそうな顔をしてきて、最後には咳き込んでしまう。
「げほ!げほっ!んっ?何???」
 やっと本格的に目覚めたらしく、顔つきがしっかりしていた。
「やっと起きたか」
「!三上君っ、何でここに?」
 本当に寝ぼけていたらしく、三上がいることにはとても驚いていた。
「何でってお前に会いにきたんだよ。最近邪魔が入って全然喋れなかったから」
「ってまだ朝の七時じゃないか・・・」
 三上はまっすぐを見ているのに、は三上から視線をそらしてしまう。
「こっち見ろよ。何でずっと俺を無視してたんだ?」
 肩に手を置いてを振り向かせようとするが、は俯いたままで目を合わせようとはしなかった。
「今日は用事あるから帰ってくれないかな」
「何の用だよ」
「・・・合コン」
 すると、やはりの予想通りに三上は怒った。
「なんだよそれ!合コンって夜の八時からなんだろ?全然時間大丈夫じゃねえか!」
 はよく覚えていたなと感心したが、また三上に押し倒されてしまってそれどころではなくなる。
「彼女なんて欲しいと思わなくさせてやるよ」
 三上はそう言ってのパジャマのボタンを解いていく。
「やめろ!話し合うんじゃなかったのかよ!お前いっつもそうやって押し倒したり抱きついてくるから俺お前が何考えてるのかわかんないんだよ」
「え・・・?」
「三上君、俺のこと好きだって言ったけど、いつも俺を無理やり抱こうとしてるじゃないか。俺が女の子にそうしてるからって、俺はちゃんとお互い好きかどうか確認してるんだ。そうじゃなきゃ・・・、訳わかんないだろ」
 はそう言うと呆然としている三上に「もう今日はここに来ないで」と言って部屋から追い出してしまう。
 しばらくの部屋の前で呆然としていたが、急に後ろから声がかかってきた。
「あれ、三上先輩。こんなことろでどうしたんですか?」
「・・・笠井」
「結構俺のうちから遠くて疲れましたよ〜、さっ!早く案内してくださいね!」
 別に案内をしているわけではなかったが、他にすることがなくなってしまったので、三上は取り合えず笠井を部屋に案内する事にした。
 部屋に着くと、藤代がいて早速笠井とやるためにゲームを準備して待っていたようだ。
「あれ、三上は先生のところへ行ったんじゃなかったか?」
「・・・悪いのかよ」
 まさかに追い出されて色々とショックで帰ってきたなんて言えなかったので、三上はわざとふて腐れて言う。
 三上はそのままパソコンに向かってインターネットをやりはじめた。
「あれ、三上先輩も混じって遊びましょうよ!」
 そんな藤代の誘いをものの見事に無視して、三上はただ黙々とインターネットをする。
「うう〜、無視するなんてひどいっす!最近特に三上先輩、俺に対して扱いが酷くなってきてるし・・・」
 それはお前のせいだっつーの!とか思ったが、機嫌が悪いのでとことん無視する事にした。

 の奴八時から合コンって、今日はいつ帰ってくるんだろうな・・・。

 ぼーっとパソコンの前でそんなことを考えながら時間は過ぎていった。


「一時・・・。何してやがるんだ」
 もう帰ってくるだろうと思って十時からの部屋の前にいること三時間。
 三上は自分でも驚いてしまうほどを待ちつづけていた。
「まさか彼女ができた・・・とか?」
 一人でそう呟いてみて後悔した。
 本当にありえそうなので三上は落ち込みそうになったがなんとか堪えてを待ちつづける。


 その頃はまだ飲み屋にいた。
「もっと飲みなよくん〜」
 そう言ってその集まりでもけっこう可愛い女の子がに擦り寄ってくる。

 俺はけっこういい子を捕まえたんじゃないかと思う。
 この子は可愛いし明るいし、親切だし・・・。
 どっかの意地悪な男子高校生とは大違いなんだ。
 なのに・・・。
くん?」
「俺もう帰るわ。明日仕事あるし、ごめんね」
 俺はそう言ってさっさと席を離れてここから出ようとした。
「じゃあ私も帰るわ!ちょっと送ってくれないかなぁ?」
 本当はすぐにでも帰りたかったが、今は夜中なので女の子の一人歩きは危険だ。
 しょうがないから俺は適当に返事をして駅までその子を送っていくことにした。
「なんか酔っちゃった。ちょっと休んでいかない?」
 そう言ってその子はどう見てもそこしかない、ラブホテルを指差した。
 結構積極的な子なんだな。とか思ったけれど、今はそれどころではない。
 昔の俺ならこんな可愛い子に誘われてすぐにでもOKしているはずなんだけれど、今の俺はどういうわけか気が進まなかった。
「えっと・・・、ごめん。俺、明日仕事早いからすぐに帰りたいんだ」
 かなりストレートに言ってしまったせいなのか、その子は怒ってしまった。
「もういいわよ!」
「あ、駅まで送ってくよ。危ないし」
「そんなのいいわよ!じゃあね!!」
 行っちゃった・・・。しかも今思ったけど終電もうないんじゃないのかな・・・。
 大丈夫かな、とか思ったけれど俺はすぐに車を止めていたところまで行くと、エンジンをかけて車を走らせた。
 なんでこんなに焦って帰ってるんだろう。
 そんなことをボンヤリと考えながら結構なスピードで帰路に向かう。


 が宿舎に着いたのは午前一時三十分だった。
 部屋に入ったらすぐにシャワーを浴びて寝ようと考えていただったが、宿舎の前に黒い人影があって除いてみると驚いてしまう。
「三上君!?」
「・・・おっせーよ。待ちくたびれただろうが」
 三上はの部屋のドアに座ってもたれて待っていた。
「春だからってこんなところにいたら風邪ひくだろ!早く部屋に戻るんだ」
「嫌だね。俺はずっとを待ってたんだよ。今さら部屋に戻ってたまるか」
 はしばらくどうしようか困っていたが、ひとつため息をつくと三上の手をひいた。
「じゃあ入って」
 三上は立った途端ずっと座っていたのでふらついてしまった。
「っと・・・。わり」
 は慌てて三上を支えてやると、驚いて言った。
「こんなにふらつくまで待ってるなんて・・・。何時間待ってたんだ?」
「三時間半」
「話があるならせめて自分の部屋で待ってれば良かったのに・・・」
 の顔は前をむいていたので三上にはどういう表情をしているのか見えなかったが、なんとなく声音で辛そうな表情をしているのが分かった。
「そうしたら部屋から出てくれなかったろ。ここで待ってたほうが確実だと思ったんだよ」
 話をしながらは三上をテーブルに招いて暖かい紅茶を淹れてやる。
「だからって無茶をしてほしくない」
 は淹れた紅茶をやや乱暴に三上の前に置くと話をきりだす。
「で?なんの用だ?」
「俺はが好きだ」
 いきなりそう言われてしまって、は思わずたじろぐ。
「な、何だよ急に・・・」
「だって言ったろ。ちゃんと気持ちを言ってくれないと分からないって。だから改めて言わせてもらう。俺はのことが好きだ。体だけが目当てとかそんなんじゃない」
 三上の目は真剣そのものだった。
「・・・そんなこと言われたって、俺はおじさんだし保健の先生だし・・・」
「そんなこと関係ない。は俺のことどう思ってるんだ?」
「どうって・・・。好きは好きでも三上君が俺のこと好きだって言ってる好きとは違う好きだと思う」
 は自分がなんでこんなにどきどきしているのか分からなかったが、一応言う事は言っておかないと三上にまた怒られると思って言った。
「・・・はっきりしねえな。俺の気持ちにこたえるのか、こたえないのかで言ってくれよ」
「そ、そんなこと急に言われたって分かるわけないだろ!」
「分かれよ!」

 無理言うなよぉ〜!
 俺が何したっていうんだ?
 三上君が本気だってのは分かったけど俺は三上君のことがそういう風には好きじゃないと思うし。
 ・・・・・・多分。
 って俺何自信なくしてるんだよ!
 でも、正直ずっと俺を待ってくれて嬉しかった。

 がそんなことをぼーっと考えていたので、三上は急に黙り込んだを不思議に思って呼んでみる。が、よほど自分の考えに浸っているのか、いくら呼んでも帰ってこない。
「おい、!」
 の両肩を掴んで思いっきり揺さぶると、やっとはっとした顔をする。
「・・・今日はもう俺帰る。はまだ考えがまとまってないようだし、眠たそうだからな。じゃあまた明日な」
 と言って、三上は言いたい事だけ言ってさっさと帰っていこうとしたので、はとっさに三上の腕を掴んで引き止める。
「?どうしたんだよ」
「え・・・?さ、さあ」
 咄嗟のことだったので、自身も何がしたかったのか分からない。
 三上はの頭を撫でると、
「焦らないでゆっくり返事を待つことにしたから気にすんな。じゃあおやすみ」
 と言って部屋を出て行こうとする。
「ま、待った!」
「・・・?」
 三上はまたを振り向く。
 すると、今度ははどこか何かを決心したような顔つきをしていた。
「分かった。やっぱり俺・・・、三上君のことが好きみたいだ」
 いきなりだったので三上は驚いてしまう。
 だが、もいきなり分かってしまったらしく、戸惑っていた。
「な、何か合コンの時も落ち着かなくて早く帰りたかったし、三上君が俺のためにずっと待っててくれたって聞いて嬉しかったんだ」
・・・」
「そ、それだけ言いたかっただけだから。じゃ、じゃあおやすみな」
 ギクシャクしながらは自分の部屋に帰ろうとしたが、三上に止められる。
「それで終わりかよ?普通両想いだって分かったら、ずっと一緒にいたくならねえか?」
「お、俺はち、違うぞ・・・!じゃあおやすみ・・・」
 そう言ってさっさと三上から逃げようと思っても、やっぱり捕まってしまう。
「放せよー!」
「別に何もしねえよ。が嫌なら手を出すつもりはないから安心しろって。だからもうちょっといてもいいだろ?」
 今まで見たことがないくらい優しい笑顔で言われてしまい、は何も言えなくなってしまう。
「・・・どうぞ・・・」

 何でこんな八つも年が離れてる子どもに俺は流されてるんだろう・・・。
「どうした?

 ・・・ま、いっか。















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