駆け出せ!青春 4





 が元気よく教室に着くと、いきなり智之が不安そうな顔をして出迎えてきた。
「お、それで何だったんだ?」
 同じサッカー部とはいえ、一軍と三軍では全く関わりがない。
 なのに、は藤代たちに呼び出されて、智之は不思議だったし、が何をされるのかと不安になっていたのだった。
「いや、別に普通に飯食っただけだよ」
 何でもないというように返事をしたに、智之は納得いかなかったようだ。
「普通って、そもそもお前が藤代たちと昼を食べること自体がすでに普通じゃないだろ」
「普通だよ。一軍とか三軍とか別々に考えることが普通じゃないとオレは思うぞ」
 それはそうかもしれないが、どっちにしろ、友達でもなかった藤代や笠井といきなり仲良く昼食をするなんておかしいことだった。
「・・・っていうか、考え方変わってないか?」
 むしろ一軍だの、三軍だのにこだわっていたのは智之よりの方だったのに。
 急に視野が広くなったに、智之はまた驚いてしまう。
「そうか?」
 確かに前向きになろうと思ったけれど、そんなに驚かれるほどは変わったような気がしていなかった。
 しかもそう思ったのはついさっきなのに。
 けれど、よく考えるとそうなのかもしれない。
「うん・・・。そうかもしれないな」
 は一人頷くと、勝手に納得してしまったのか、智之を置いて先に教室に入ってしまった。
「お、おい待てよ。せっかく俺が不安で出迎えたってのに」
 智之があわてて追いかけると、は晴々とした笑顔で、「悪い悪い」と言った。
「・・・」
 そのの笑顔がとてもまぶしくて、智之はつい言葉を詰まらせてしまった。
「お〜い。授業始まるぞ、智之」
 のんきなの声に智之は正気に戻ると、また思い出したようにのあとをついていった。
 智之は部活までの間、の急変についてずっと首を傾げることとなった。




「ちょ、待てよ!俺まだ準備してないんだけど」
 授業が終わって、部室で着替えていた二人だったが、早々と着替え終わったはさっさと外へ出て行こうとしてしまう。
 慌てて智之が声をかけると、やっと立ち止まって智之を待つ。
 こんな光景、今日で何回目だろうなと智之は思いながら、急いで着替えての元へ走っていった。
 ところが、の周りをあの藤代と笠井が囲んでいて、智之は思わず立ち止まってしまった。
、今日オレの寮に遊びに来ない?ゲーム対戦しよう」
 藤代が人懐っこくを誘い、はそれをやんわりと断った。
「いや、悪いけどオレ家に帰って練習しなきゃいけないから」
「何だよ、つまんないな〜」
「誠二は少しでもたくさんのやつと対戦して記録更新したいだけだろ」
 ふくれる藤代に、笠井がすぐに突っ込む。
 はその笠井の言葉に興味を持った。
「記録って?」
 そこで、藤代が待ってましたと言わんばかりに嬉しそうに笑うと、得意そうに言った。
「オレ、今サッカー部で無敗記録更新中なんだよ!」
「へ〜!」
 素直に感心しているを見て、藤代はよけい嬉しくなったみたいだった。
「だから、オレの勇姿を見に今日は遊びにきなって」
 結局そういう話に戻るのかよ。
 と思いつつ、は同じように断った。
 そこでやっと智之の存在に気がついたようで、大きな声で智之を呼んだ。
「おい、智之!何さっきからのろのろしてるんだよ。オレは早く三軍の雑用片付けなくちゃならないんだからな」
「よく言うよ、昨日まではお前のがのろかったのに、急にやる気だし、一軍とも仲良くなってるし。いきなりすぎて戸惑ってんだっての」
 と、ずばり言いたかった智之だったけれど、結局黙ってのところまで走っていく。
 智之がのところまで来たのを見計らって、は話しかけた。
「全くどうしたんだよ。いつもお前がオレを引っ張ってたのに、今日は立場が逆だろ」
「そりゃこっちの台詞だよ。いきなりお前やる気出しちゃってさ。今日一日中俺はわけが分からなくて頭が痛いよ」
 が急変したのは、正確にいえば昼ごはんのあとだった。
 そうすると、藤代たちがに何か考え方を変えさせるようなことを言ってくれたのかやってくれたのか。
 智之は嬉しい反面、どこかさびしい気持ちでいた。
 そんな智之の気持ちを知りもしないで、は簡単に藤代たちにあいさつをすると、またすぐに集合場所へと走っていってしまう。
 またこれで今日は何度目だろうと思いながら、智之はのあとを追いかけようとした。
「あれ、あんたって風祭の友達だったよな」
 藤代がと話していた智之を見て、やっと思い出したように言った。
「そ、そうだけど何か?」
 忘れられていたことに少しむっとしながらも、智之は律儀に答えてやる。
とも仲いいなんてちょっとずるいよな」
 何がどうしたらそうなるのやら、智之には訳がわからなかったけれど、隣にいた笠井には意味がわかったみたいだった。
 あきれたようにため息をつくと、笠井がなれた感じで藤代をなだめにかかる。
「あのね誠二。この彼はお前と違って、一遍の下心もないの」
「何だよ、それじゃオレがや風祭にヘンな下心を持ってるみたいじゃんか!」
「ずばりそう言ってるでしょうが」
 宥める方向に向かっていたんじゃないのかと思うほどに、二人はだんだん激しく言い合ってしまう。
 ここからこっそり逃げ出そうかと思ったところで、背後に大きな影がぬっと覆ってきた。
 恐る恐る振り向くと、そこにはとても怖い顔をした三上の姿があった・・・。
 智之も笠井もすぐに三上の存在に気がついたけれど、不幸なことに藤代一人が気がつけなかった。
「大体、三上先輩じゃないんだからをあんな風にちやほやしないし、あんな風に生暖かいようなヘンな目で見つめたりしないよ」
 得意げに言う藤代は、まだ三上の存在に気がつかないで、言いたい放題言っていた。
「あ、あの・・・」
 智之が話しかけても、藤代はかまわずに三上の悪口を言い続ける。
 笠井はあえて何も注意しないでおくつもりなのか、早々とそこから立ち去ってしまう。
 智之がおろおろしているうちに、ついに三上の爆弾は藤代めがけて大爆発した。
「誰が生暖かい目でを見てるって?」
 拳を握って関節を大きく鳴らして、三上は藤代へとにじり寄った。
「せ、せせ先輩っ!いったいいつから潜んでいたんすか!?」
 逃げながらも、藤代は三上に質問するが、三上は答えながら藤代の逃げた分だけ距離を詰める。
「潜んでいただと?どこまでも失礼なバカ代が・・・。で、何で俺がのことを生暖かい目で見るなんて言いやがった?」
 そこですぐに自分の悪いところを認めればいいのに、藤代は言い返してしまう。
「だって、本当じゃないですか!俺の目は誤魔化せませんよ」
 どこまでも得意げな藤代に、三上がキレないわけがない。
「だ・か・ら!!その根拠を言えっつってんだよ」
 藤代を吊り上げるみたいに襟元をつかむと、三上はそう言った。
「だ・か・ら!そういうところがですよ」
「あ・・・?」
 わけがわからない三上は、そこで手の力が抜けてしまって、藤代は地面にべちゃっと落ちてしまう。
「いたた・・・。とにかくのことで、そうやって真剣になるなんて普通じゃないっすよ。まだ昨日会っただけのやつに、何でそこまでこだわるんですか?俺のように友達として仲良くなりたそうには見えないし」
「それぐらいで変な風に見るんじゃねえよ」
 足元で転がっている藤代を蹴ると、三上は集合の声がかかったのですぐにその場を去っていった。
「やっぱり怪しいよな」
 蹴られ慣れているせいか、藤代はすぐに起き上がると、まだそこでおろおろしていた智之にそう言った。
 智之が何か答えるまえに、藤代も集合の声ですぐに去ってしまったが。
 一人取り残された智之は、ぼんやりとその場で佇んでいた。

 もしや、ってピンチか・・・?

 三上も藤代も、やけにのことを真剣に話していた。
 いかがわしい方向へ二人に誘われるのではと、智之はかなり不安になってしまった。
 そんな智之の不安などよそに、はさっそく練習に励んでいた。
「他のボールは?」
 かご一杯のボールをすでに磨き終えたは、別のかごを探してさっそくまたボール磨きに取り掛かる。
 もちろん三軍仲間は、今朝よりも一段と前向きなに驚くばかりだった。
「早く終わらせて練習しなきゃな」
 は自分に言い聞かせるようにそう言ったけれど、その言葉のおかげで、他の三軍仲間もやる気が出たようだった。
 を見習った三軍仲間は、ボール磨きやスパイク磨きをみんなで取り掛かった。
 そうして、朝の練習よりもより早く作業が終わらせることができたので、をはじめとしてさっそく練習に取り掛かった。
「あ、監督だ」
 コーチが先に生徒達の練習を見てやっていたのだけれど、やっと監督がやってきたようだった。
 そうしてすぐに一軍のところへ行くと、てきぱきと指導しはじめた。
「いいよなぁ。いつか俺もあんなふうになれたらいいな」
 のそばで練習していた仲間がそう言ったので、はすかさず言葉を返す。
「そのためにも今は何より練習だよ」
 監督を見ないで、は熱心にリフティングを繰返していた。
 そのために、監督が珍しく三軍を見ていたことは知ることはなかった。
「ほう、三軍はもう雑用を済ませたのか」
 そういえば、今朝も作業が早かったなとつぶやく監督に、そばにいた渋沢がすかさず言う。
「そうなんですよ。やる気のあるやつがいて、みんなを引っ張っているようなんです」
 また近くにいた三上も、監督が気づいてくれたのに嬉しくて、渋沢の隣で頷いた。
「そうか・・・」
 なにやら考えているような仕草を見せると、監督はまた練習の指示をしはじめる。
「何かやってくれそうだな」
「最近の監督は変にやわらかくなったからな」
 監督の聞こえないところで二人は言うと、また練習に戻っていった。


 そうしてしばらく経った後、珍しく練習中に全軍に号令がかかった。
 みんなが集まったところで、監督が話を切り出してきた。
「今集まってもらったのは、今度の連休に合宿をやろうと思ったからだ」
 けれど、合宿自体は何も珍しいことではなかった。
 部員たちはさして何の反応も見せないで、静かに監督の次の言葉を待った。
「しかし、今回は二軍・三軍にもチャンスを与えようと思う」
 一気にその場はざわついた。
 それは無理も無い話で、今まで二軍・三軍ともいつもの練習と変わらないメニューをこなすだけが合宿だったのだ。
 それを今回は二軍・三軍ともにチャンスがあるのだという。
 急な話に当然みんな驚いた。
「だからといって、一軍にあがれる人間がいるとは言っていない。今回は平等に力をみて、その頑張りようをそれなりに評価したいと思う」
 監督はあとは細かい日程などを話すと、すぐに解散を命じた。
 ざわつきながらもそれぞれの場所へ部員達は戻っていく。

 今まで三軍の合宿といえば、雑用で始まって雑用で終わってたのに、今回は自分の力を見てもらえるチャンスがあるだなんて・・・。

 どきどきしながらが歩いていると、ぽんと肩を叩かれた。
「よかったな、。これで一気に俺たちのところまで上がって来いよ」
 三上だった。
 けれど、それだけ言って今度はの頭をぽんと叩くと、すぐに去っていった。
「・・・」
 とても無理だ。
 そう思ってしまったけれど、自分がどこまでやれるのかと思うと、なぜかわくわくしてしまった。
 この胸の高鳴りは、三上に励まされて嬉しいのか、挑戦的な躍動感からなのか、にも分からなかった。
 ただ、どちらでもいいほどの気持ちはわくわくしていた。
「・・・やるぞ」
 は誰に聞かせるでもなくそうつぶやくと、元気よく走っていった。







続く


何だか書いてて面白くなってきた。自惚れ(?)ですね。浅ましい・・・!!
ナルトのことなど忘れ去ってドリームだけ書こうかな・・・。なんて。



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