ホモ行き直行バス
ああ、こういう時が俺は一番嫌いだ。
ある中学校の教室であるバス旅行についての決まりごとをしているクラスがあった。
二年生になってからはじめての旅行で、生徒達はとても嬉しそうに担任の話を聞いていた。
だが一人。
窓際に座っている少年はとてもつまらなさそうに話を聞いていた。
ああ、余った女子と隣なんて俺は嫌だからな。
「それじゃあ今から明日のバス旅行のバスの席を決めます」
担任の女教師が続けて言う。
「決め方は好きな子同士でいいから、今から適当に決めて黒板に好きな場所に自分達の名前を書いておいてね」
ああ、何でそんなこと言うんだよ。
担任がそう言った途端、クラス中が騒がしくなってみんな相手を探し出す。
が、窓際の少年だけは動かなかった。
ああ、マジで困った。
・・・こんな時英士や結人がいたらなあ、って三人じゃあどっちみち誰か余ってまずいじゃねえかよ!
窓際の少年が一人ボケ&一人突っ込みをしている間にも、クラスメート達は相手を決めていく。
もうほとんど決まりかけていっても、少年はまだ自分の中で漫才をやっているようで気が付かない。
急に担任が少年の一人漫才を打ち消した。
「じゃあ、あとはちょうど余った真田君と君が隣ってことで!二人ともそれでOK?」
え・・・、そんなガイジンちっくにOK?とか言われても・・・。
「俺は別にいいっすよ」
窓際の少年・真田君こと一馬はしょうも無いことを考えて返事をしそびれていたが、相方になった君ことはそう答えた。
「それでもって一番後ろの席になるからよろしくね」
普通一番後ろは人気があるのだが、このクラスはカラオケ好きが多いらしく、マイクが使いやすい真中や前のほうの席が真っ先に売れた。
後ろか・・・。まあ悪くはないよな、そんなに目立つ場所じゃないし。
でも気になることが一つあるな。
そう思って一馬は真中の列にいるを見る。
は一馬の視線に気づく様子も無く、隣の席の友達と喋っていた。
そう、ダチがああやって普通にいるし、結構あいつは人気がある。
女にもモテるし、男にも慕われてるし・・・、なんつーかカリスマ?みたいなのを持ってるやつだ。
なのに何であいつが最後まで余ったんだろう。
一馬も女の子には割とモテる方なのだが、小学生の頃から友達を作るのが極端に苦手だった。
そのためにみたいにクラスの人気者には間違ってもなれなかった。
サッカーがあれば大体はいいと思っている一馬だから、人気者なんてなろうとも思わないのであろうが。
「そうそう、バス旅行でロープウェイに乗るんだけどそれ二人乗りだから今決めた二人組みでいい?」
クラスメート達は別に異論はないらしく、隣近所と騒いでいた。
んな!大有りだっつーの!
となんて俺話したことないし、バスならまだ周りにみんながいるからいいけど、ロープウェイなんて二人だけじゃねえか!
絶対に気まずい!
・・・でも、じゃあクラスに二人っきりでも気まずくないやつなんていないしなぁ。
サッカー馬鹿の一馬もちょっとは気にしているらしく、いい加減少しは人付き合いも良くならなきゃな。と、思っているらしい。
ちょっとしんみりしている一馬に追い討ちをかけるような台詞が聞こえてきた。
「、真田とロープウェイまで一緒なんて最悪だな〜。あいつ人付き合い悪いから密室で二人きりなんて気まずいだろうなぁ」
まるでわざと聞こえるように言った台詞に、近くにいた女子は嫌な顔をするが結局何もその男子生徒に言わなかった。
一馬はその男子生徒を睨み付け、そんな一馬に気が付いた男子生徒も睨み返す。
「なんだよ真田。何か文句でもあるのかよ」
「あるに決まってんだろ。お前こそ言いたいことがあるなら最初から堂々と俺に向かって言えばいいんだ」
「このっ・・・!」
その男子生徒が一馬の胸倉に掴みかかろうとした時に、二人の間に手が割り込んできた。
「やめろよ」
がその男子生徒に向かって言う。
「でもよ、!」
「でももクソもない。今のはお前が悪い。そんなことも分からないのかよ」
男子生徒はまだ何か言いたかったが、の迫力に負けて渋々とそこから去って行った。
一馬はいきなりの事だったので、ぼけっとのことを見ていた。
「悪かったな、あいつの代わりに謝っとく」
「あ・・・、いや、別に・・・」
一馬がまだぼけっとしたままそう答えると、そんな一馬が面白かったのかが少し微笑んだ。
「あのさ、真田って窓際がいい?それとも廊下側?」
いきなりのの微笑みに戸惑っていた一馬はその突然の質問にさらに戸惑ってしまう。
「俺はどっちでもいいけど・・・」
「じゃあ俺が窓際でいい?」
「あ、ああ・・・」
一馬は戸惑いながらもと会話らしい会話をしている。
「サンキュー」
が本当に嬉しそうに微笑むので、一馬もついつられてしまって微笑んだ。
それを見たが一瞬驚いた顔をしたが、また嬉しそうに微笑むと一馬に言った。
「へえ、真田って笑うとかわいい顔するんだな」
それを聞いた一馬は何だか照れくさくなってしまい、顔をりんごのように真っ赤にする。
「か、からかうなよ!」
「からかってなんかない。本当にそう思ったから言ってみただけ」
けれどはニコニコしながら一馬の顔をわざと覗き込んでいる。
からかってんじゃねえかよ!
で、でも何か俺がクラスのやつとこうして普通に喋ってるなんてなんだか信じられないな。
だからだったりして。
こいつクラスのやつに人気あるけど、ただ顔がいいからだと思ってた。
だけど違ったみたいだな・・・。俺みたいな、はっきり言って素直じゃないやつにもこうしてすぐにいいやつだって思われるんだから。
それに何だかこいつの笑顔見てるとこっちまで幸せになってくるし。
不思議なやつだな。
一馬はこいつとなら案外楽しい旅行になるんじゃないかと思って、久しぶりに行事ごとに胸を躍らせるのであった。
学校が終わり、一馬はいつものようにユースの練習のために早く教室を出て行こうとした。
その時、
「じゃあまた明日な、真田―!」
が大きな声で一馬に声をかけた。
クラスのみんなが一馬に集中して視線を送ってきたが、なんとかそれに耐えて、恥ずかしいながらも返事をする。
「お、おうっ、じゃーな!」
返事をして、みんなの視線から逃げるように慌てて一馬は去って行った。
そのすぐあとに、さっき一馬に嫌味を言った男子生徒がのところへやってくる。
「!お前あんなやつと仲良くなったのかよ!」
「あんなやつって言うなよ。お前は真田の何がそんなに気に食わないわけ?」
いざに聞かれると、どう答えたらいいのか分からないらしく、返事に困っているようだ。
その様子を見て、はまた続けて言う。
「理由もないのに嫌いなんてあるのか?っつーか、お前はそんな人のことごちゃごちゃ言うやつだったのかよ」
「ち、違う!ただ俺は・・・」
「何が違うんだよ。いいか、これから誰でも悪いやつでもない人間に言いがかりつけるのはやめろよ」
のその言葉に周りにいた女子生徒なども頷く。
仕方なくその男子生徒はの言うとおりにする。
「・・・分かったよ。お前に言われちゃおしまいだ」
「よろしい。じゃあ俺の素晴らしい教えに感謝してマック奢れ?」
脅しだったのだが、彼には効かなかったらしい。
と、いうかの笑顔に見とれてしまい、結果としては彼に奢って貰ったのだが。
「なんか今日はやけに機嫌がいいみたいだね」
「そうそう!練習もいつも以上にはりきってたし!なんかいいことでもあったのか?一馬」
一馬の親友、郭と若菜がサッカーの練習のあとにそう言って来た。
また郭・若菜の順番で一馬に話し掛けていく。
「学校で気の合う奴ができたとか?」
「それともかわいい彼女でもできたのかっ?」
そんなに表情が表に出ていたのかと思って、一馬は恥ずかしくなってしまう。
「英士の言ったやつのが正解」
一馬のその言葉を聞いて若菜はちょっとつまらなかったらしい。
「何だよ〜、彼女じゃないのかよ。そんで?気の合うやつってどんな野郎なわけ?」
「・・・俺と正反対なやつだよ。女子や男子にも人気があるやつ」
「うわ〜、何か嫌味っぽいやつ!」
何だか若菜は気に入らないらしく、ちょっと批判的だ。
「嫌味じゃないんだよ。なんか憎めないようなところがあるんだよな。俺にも優しいし、どんなやつにも認められる何かがあるって感じでさ」
よけい若菜は機嫌を悪くしたらしく、今度は一馬を批判する。
「一馬、べた褒めしすぎ!」
「結人、せっかく一馬に仲のいい奴ができたのにそんなこと言うなよ」
若菜の暴走を見かねた郭が止めに入った。
「でも英士だってうさんくさいと思わない!?」
「そんなこと言ったら成績優秀・スポーツ万能・おまけに美形な僕はうさんくさすぎになるよ、結人」
「・・・英士って・・・」
「・・・」
若菜・一馬の順にため息をつくと、
「ん?どうしたの二人とも。ため息なんてついちゃって」
そう郭に脅されてしまい、二人はしばらく息をするのも難しかった。
「でもきっとそいつは僕と同じようにカリスマがあるんだろうね」
同じってあんた・・・。
と、二人は思ったが、そのことさえバレても無事に済まされないので、器用にも郭に考えていることがばれないように二人はそう思った。
「まあ一馬が明日のバス旅行を楽しめれば俺はもういいけどね」
「僕もそう思うよ。そいつともっと仲良くなれるといいな」
若菜も郭もそう言ってくれて、一馬は本当に明日が待ち遠しくなった。
待ちに待ったバス旅行は天候にも恵まれて、いい旅行日和だった。
一馬が前向きに「今日は何かいいことがあるかも」などと思っていると、タイミングよくがやってきた。
「よ、真田。今日はよろしくな」
の周りにいる友人達は何となく一馬を睨みつけているようだったが、一馬はどもりながらも何とか返事を返す。
「お、お、おう!よろしくな!」
「真田目が赤いけど昨日はちゃんと寝れたのか?」
が心配して一馬の顔を覗き込むと、一馬は慌てて言った。
「い、いや!何か今日が待ち遠しくてなかなか寝れなかったんだよ!」
真っ赤になって慌てて言ったものだから、つい本音が出てしまい、一馬は今更慌てて口を塞ぐ。
そんな一馬を見ては大ウケする。
「さ、真田って最高・・・!」
「え、ちょっ・・・。何がだよ!!」
「ナニって、その直ぐに真っ赤になるとことか!あ〜もうお前って可愛いなぁv」
そう言っては一馬に抱きついて来たので、一馬はよけい真っ赤になってしまう。
「な!離れろよ、!!」
「まあまあそう照れるなって!」
一馬は「照れてない!!」と言いたかったが、がもっと力を込めて抱きついてきたのでろくに抵抗できない。
「おい、。もうすぐバスが来るぞ」
の友達がうんざりした感じでそう言ったら、頭の上から「チッ」とか聞こえてきたような気が一馬にはしたが、
「おうそうか、悪い悪い」
と、爽やかな笑顔で一馬を放してくれたので、気のせいだと思うことにした。
バスが来るまで一人で待つつもりだったが、そのままは一馬の隣にいた。
「楽しみだな〜。真田はカメラとか持ってきたか?」
「い、いや・・・。別に撮らないし」
「撮らないのか?もったいない、それじゃあ俺と写らない?」
はニコニコしながら一馬の肩を抱いてくるので、一馬は恥ずかしくなって、やけになって答える。
「あ、ああ!」
一馬が返事をした時にちょうどバスが来たので、一馬は荷物を取るフリをしての腕からなんとか逃れる。
ちょうど担任もやってきて、点呼を取り始める。
「真田は菓子とか持ってきたか?」
「え?持ってくるのは駄目なんだろ。今先生が駄目って言ってたし・・・」
「そんなのは無視すればいいんだよ!俺はちゃんと持ってきたぞ」
そう言っては堂々と菓子を取り出そうとする。
そんなに驚いて、慌てて一馬は止めに入る。
「んな!待てよ、!今出したら没収されるに決まってんだろ!」
「平気だって。女教師なんか俺の色気で一発KOだ☆」
そう言っては担任の女教師にウインクをしてみせる。
まんまと女教師はポッと頬を染めてしまった(おいおい)が、珍しく一馬が冷静につっこんだ。
「・・・それはいいけど、生活指導の先生は男だぞ・・・?」
「・・・それは菓子が見つかんないようにする!だな!」
がそんなことを大きな声で言っていると、後ろから影が被さってきた。
と、思ったら、
「、そのおいしそうな菓子は残念だが没収な」
一馬の言っていた生活指導の教師がの後ろにいた。
彼はさっさとのバッグから菓子を取り出してしまい、しかも二人の会話までしっかり聞いていたようだ。
「悔しかったらお前の色気でもなんでも俺に使って見ろ。効くんならな」
そう言って生活指導の教師は去って行ってしまった。
「くやし〜!!でも、かといってあんなやつに俺の色気をサービスする気にはならんし!」
「そういう問題じゃないだろ」
「そういう問題だ!つーか、真田のせいだぞ!」
「何で俺のせいなんだよ!もともとが菓子を持ってきたのが悪いんだろ!」
そこでのそばにいた友人達が会話に入ってきた。
「菓子なら俺も持ってきたからやるよ。もそんな頭の固い奴なんかほかっといて俺らとカラオケしようぜ」
「そうそう、俺の隣はちょうど休みだからそこに来いよ。真田なんかほかっといて俺らで盛り上がろうぜー」
二人ともニヤニヤしながらの肩に手を置いて、一馬を見てそう言った。
一馬はまた言い返そうとしたが、がまた止めに入る。
「お前らそんなこと言うのはやめろ。ったく、何で前までは真田のこと全然悪いように言ってなかったのに、最近どいつもこいつも悪く言い出すんだか」
「そ、そりゃあ・・・」
二人ともうまく言えないようで言葉に詰まっていると、一馬が反撃に出た。
「が取られたみたいで嫌なんだろ!お前らは俺にガキみたいに焼きもちやいてるだけなんだよ」
「なっ・・・!」
またケンカが始まりそうだったが、の間抜けな台詞で場が納まる。
「何だ〜、みんな俺のために争ってたのかぁ。俺って罪作りなオ・ト・コ?」
みんな毒気を抜かれてしまう。
担任の教師が「じゃあみんなバスに乗って」と、言ったので一時休戦してみんな大人しくバスに乗った。
「真田はそれで何もって来たんだ?」
乗りながらが聞いてきた。
一馬は席についてからバッグの中身を見ながら答える。
「えっと・・・ハンカチとティッシュ、あとは昼に買う食事代・・・」
「げ!真面目な内容のバッグだな」
「・・・普通だろ」
一馬はちょっとを睨んで見たが、全然効果はなかったらしい。
「それで?携帯は持ってきたのか?」
「も・・・も、持って来てない」
一馬がそう言ってバッグをさっと閉じるのを見て、は感づいた。
「怪しいな。言った途端にバッグ閉じてるし、何てったってかなりどもってるし」
「あ、ああ怪しくなんかない!」
一馬がそう言っているうちには素早くバッグを取ると中を調べてしまう。
「・・・ほれ。これは何かな、一馬クン」
「・・・っ携帯だよ!」
一馬がそう言ったと思ったらすぐには勝手に携帯をいじりだした。
「ちょっ・・・」
「罰として俺と携帯番号交換な」
はそう言ってにこっと笑った。
そして早々と一馬の携帯に自分の電話番号を入れる。
「メアドも入れとくから〜」
は手馴れた様子でさっさと自分のアドレスも入れていく。
「真田のアドレスは?」
言いながらはもう自分の携帯に一馬の番号も入れ終わっていた。
一馬がボーっとしていたので、はしょうがなしに一馬の携帯からアドレスを見つけて入れだす。
「ほい!暇なとき電話とかするから覚悟しとけよ」
は嬉しそうに笑いながら、やっと携帯を一馬に返した。
まだ一馬はボーっとしていたが、携帯のメモリーを確認すると、やっと目が覚めたような顔をする。
学校で携帯の番号を交換する機会なんてないと思ってた。
・・・なんかすげー嬉しいかも。
一馬を盗み見ていたは、一馬が嬉しそうな顔をしていたので安心した。
見たらすぐ分かってしまうぐらい、一馬の顔は嬉しそうだったのだ。
本当にすぐに表情に出る奴だな、真田って。
そんなに嬉しかったのかね。
・・・可愛いやつ。
隣でが妖しい表情をしていたのなんて、もちろん一馬は知るわけもなかった。
「おい〜!トランプやらねえ?」
さっき一馬とケンカになりそうだったの友人達が、突然前の席から声をかけてきた。
「いいぜ。今日は何を賭ける?」
いつもの日課なのかはあっさりOKしてそう言った。
「じゃあ俺が勝ったらお前はこれから真田と話さないってのはどうだよ」
「なんじゃそら」
は呆れて言ったのだが、周りのみんなはもう盛り上がってしまう。
「ったく・・・。じゃあ俺が勝ったらもう真田のことでごちゃごちゃ言うんじゃねえぞ」
が乗ってきたので、バスガイドさんが何か言っていたらしいのに、みんな無視して盛り上がる。
賭けの対象になった一馬は何が何だか分からない。
そうこうしている間も、事は彼を無視して進んでいく。
「で?何で勝負するんだよ」
「・・・ポーカーとか?」
の友人が自信なさそうにそう言うと、は自信ありげにニヤっと笑う。
「いいぜ」
はそう言うと、さっさとカードをきり始める。
一馬が心配そうな顔をして見ていると、がそれに気がつく。
「大丈夫だって!俺に任せろ、もうこいつらにちょっかい出されないようにするから」
「別にそんなこと頼んでないのに、お前がわざわざ勝負することないだろ」
一馬はせっかくクラスで仲良く出来たのに、その友人を失う恐れによってついそんな冷たい事を言ってしまった。
しかしは気にしたようすもなく、
「心配するなって!任せとけ」
と、元気に言ってポーカーを始める。
周りにいた他の友人にディーラーになってもらい、カードを配ってもらう。
黙々とカードは配られていき、一馬は緊張した面持ちでそれを見つめる。
「・・・カード替えるか?」
友人が聞くと、と勝負している友人が返事をする。
「俺は三枚な」
「んじゃ、俺は一枚なー」
が友人のあとにのんきな様子で言ってきて、周りは驚く。
替えるカードが一枚ということは、残りの四枚は役がそろっている可能性が高い。
何の根拠も無いが、ならとんでもないモノを出してくるのではないかとみんな思ってしまう。
一馬もその中の一人で、不安だったがに期待してしまう。
の友人は緊張している様子だったが、はのんびりした様子で交換したカードを見ている。
こいつ本当に大丈夫なのかな・・・。
ものすごくのんきそうだけど、そののんきさは余裕からなのか開き直りからなのかわかんねえし。
するとの友人はどうだ!とばかりにカードを出した。
彼の出したカードはスペードのフラッシュだった。
三枚も交換してフラッシュを出したので彼はついていたのかもしれない。
しかし・・・。
「残念だったな♪」
は嬉しそうにそう言うと、持っていたカードを出す。
「俺はフォーカードな」
の持っていたカードはフォーカードで、しかもその四枚はカードの中で一番強いエースだった。
と勝負した友人はそののカードを見るとがくっとうなだれてしまった。
世の中うまくいかないものだ。
「俺と真田の愛を邪魔するからだ」
「なっ・・・!愛とか変なこと言うなよな!」
はふざけた口調で言っていたので、冗談だと分かっているのだが、一馬は恥ずかしくて慌てて否定する。
「つれないなぁ真田は。せっかく俺がお前のために勝負に挑んだというのに」
は泣きつくフリをして一馬にもたれ掛かる。
「ちょっ・・・!暑いだろ!」
「いいじゃん。そんなに照れることないだろ〜?」
周りの人間たちにはどうしても二人がただのアツアツカップルに見えていて、少々ウンザリしていた。
「・・・おい、お前菓子先生に取られてただろ。俺の菓子いるか?」
さっきと勝負したのとは違う友人がに声をかけてきた。
はその言葉を聞くと、とても嬉しそうな顔になって、
「いる!」
と、言った。
「ほら」
「サンキューv」
はポッキーを二本もらうと、一本はすかさず一馬にあげた。
「ほい!真田にもお裾分け」
「お、俺はいらないから」
ここで一馬がもらうと、にあげた彼の友人が一馬に何か文句を言うのではないかと思い、一馬は慌てて断る。
「いいじゃん。別に真田にあげても文句なんか言うわけねえしさ」
は笑顔で「な!」と、その友人に言うものだから、もうその友人は一馬には何も言えなくなってしまう。
「だから食え!さっさと食わないと無理やり口に突っ込むぞ」
言いながらは一馬の口元にポッキーを近づけていく。
慌てた一馬は急いでポッキ−を掴むと、
「分かったから!食うからこれ以上近づけるなよ!」
と、言ってすぐにポッキ−を食べる。
本当に仲のいい二人を見て、の友人たちはなんとか一馬からを引き戻せないか考えていた。
「、今度は今日の昼飯を賭けてブラックジャックやらねえ?」
「おう!受けてたってやる!」
はあっさりとOKしてその友人達のところに行ってしまう。
今度はの友人達の勝利(?)だった。
一馬はまだブラックジャックの時は大人しく一人で席に座っていたが、段々機嫌が悪くなってきた。
今度はババ抜きをやっているらしく、楽しそうに盛り上がっている声が嫌でも聞こえてくる。
「よっしゃ!俺の勝ち〜vジュースも奢りだな!」
と遊んでいる友人達は奢られてしまうのに嬉しそうだったが、一馬はどんどんむかついてくるので、ふて寝をすることにした。
「それじゃあ次は、俺ウノ持ってきたから今度は昼飯の後のデザート賭けてな」
は楽しそうに「じゃあデザートも俺が頂きだ!」と、言ってまたみんなとカードゲームをしはじめる。
ふて寝をしている一馬のことは完全に忘れてしまっているようだった。
一馬のほうはといえば、ふて寝をしているつもりだったが、どうしても楽しそうに遊んでいるたちの声が聞こえてきてしまう。
何だよのやつ。
最初俺と話せなくなるっていう賭け事をしてたのに、今全然俺と話ししないで他のやつと遊んでたら、結局変わらないじゃないか!
何が愛だよ!あの調子者!
そんな一馬の心の叫びが聞こえたのか、が急に一馬の方を振り向いた。
「あ、真田のこと忘れてた!」
そう言っては一馬のもとへ戻ってくる。
一馬としては、自分が忘れられていたと知って、さらに機嫌が悪くなっていた。
「悪い悪い。つい遊びに熱中しちゃったな。真田も混じらないか?」
まだは遊びたいらしく、一馬も遊びに参加させようとする。
だが、一馬はとても機嫌が悪いのでひたすら無視することにした。
「おい、真田〜?」
返事をしない一馬を不信に思って、は一馬の顔を覗き込む。
「・・・まさかいじけちゃったとか?」
そのの台詞自体はバカにしているようにも感じとられたが、話し方はどことなく淋しそうだったので、一馬は気になって顔をあげた。
「あ、やっぱいじけてたのか〜。やっぱ真田って可愛いv」
そう言うとは一馬に抱きつく。
いきなり抱きつかれて、しかも可愛いなんて言われてしまい、一馬は混乱してしまう。
「は、離せよ!暑苦しい!!」
とりあえずいくら冷房の効いているバスの中でもこのままでは苦しいので、そう言ってを押し返そうとしたが、逆効果だった。
「そんなに照れるなって!本当に真田ははずかしがり屋だな〜」
そう言ってはさっきよりもきつく一馬を抱きしめる。
そんなの行動に一馬は本気で困っていると、その様子が分かったは不本意ながら解放してやる。
「そんな泣きそうな顔するなよ」
そう言いながらは一馬の頭を撫ででやる。
子供扱いをされたみたいで、一馬は赤い顔をしながらむくれる。
「別に泣きそうな顔なんかしてない」
一馬はそう言い張るが、どう見ても泣くまであと数秒といった顔をしていた。
はそんな一馬を見て、つい意地悪をしたくなってきた。
「あっそー。なら俺あいつらと遊んでるから、真田はゆっくり寝とけば」
そう言っては一馬のところから去って行こうとした。
だが、の思惑通りに一馬はを止める。
「・・・袖掴まれたら俺行けないじゃん。用事無いなら離してくれる?」
わざと冷たく言ってやると、一馬は顔を真っ赤にして本当に今にも泣きそうな顔になる。
ちょっと意地悪しすぎたかな。なんてが思っていたら、意を決したように一馬が喋り出す。
「い、行くなよ!!」
顔を真っ赤にしてやっと言えたのがその台詞だったので、は演技をするのも忘れてぽかんと一馬を見ていた。
一馬は顔を伏せていたので、がただ黙って自分の言葉の先を促しているのだと思い、また話し出す。
「お、お前の言う通り俺はいじけてたんだよ!俺を忘れて他のダチと楽しそうにしてたから・・・。でも俺がそんないじける資格なんてないし、そんなこと恥ずかしくて認めたくないから言わなかったんだよ!」
なんだか別れるかどうかの瀬戸際のカップルみたいな会話だな。と、は冷静に考えていたので、一馬の言葉に何も返してやれなかった。
ずっと黙っているが心配で、一馬は勇気を振り絞って覗き込んでみる。
「・・・?」
覗き込んだのに気付かれていなかったらしく、今一馬に気が付いたような顔をしては一馬を見てきた。
「つまり真田は俺に惚れている。と、いうことだな!!」
いきなりが復活したと思ったら、そんな突拍子もない言葉が出てきたので一馬は驚いてしまう。
「はぁ!?何でそうなるんだよ!!」
あまりにいきなりな言葉だったので、一馬はどもるのも忘れてすぐにそう聞いた。
「何でって?聞くまでもないじゃないか。そんなのどうしたって真田が俺に惚れてますとしか聞き取れないんだから」
「だから何でそういうふうに聞き取るんだよ!俺はただ友情単位でやきもちやいただけだっつーの!」
一生懸命に一馬は誤解を解こうとするが、はもうすでに一馬が自分に惚れていると決め付けてしまったらしく、耳を貸さない。
「いや〜、まさかそんな風に真田から想っててくれてたなんてなぁ。俺としたことが、うっかりしてたぜ」
完全に自分の世界に入ってしまったらしく、ぶつぶつと何か嬉しそうにつぶやいている。
やばい!何でこいつそんな変な誤解をするんだ・・・。
普通そんな変な誤解するわけないのに、こいつどうかしてるんじゃないのか。
とりあえず今日中に誤解を解いておかないと、お調子者で人気者のこいつのことだから周りに言いふらすかもしれない。
そんなことになったら俺は完全におしまいだ・・・!!
一馬の悶々とした考えに追い討ちをかけるような言葉がの口から発せられる。
「ロープウェイは二人で密室・三十分・・・。楽しみだな真田」
にやっと笑いながらのいった言葉に完全に固まってしまう一馬であった・・・。
「ロープウェイ!!」
バスに降りて目的地に着いた途端にが叫んだ。
周りにいたクラスメート達はいきなりが叫んだので驚いてしまう。
「君、とてもはしゃいでいるところで悪いんだけど、ロープウェイはお昼ご飯を食べてからなのよ」
「よし!じゃあ早速食べましょう、先生!」
やたらはりきっているにみんな不思議に思っているが、一馬だけはそんなゆとりは無かった。
のフル笑顔にやられた女教師はまんまと操られる。
「じゃ、じゃあ早速食べますか!各自好きなお店で好きなように食べてね。時間は13時までで、またここに集合ね」
気前よくは返事をして、一直線に一馬のところへやってくる。
「じゃあ食べに行くぞ」
上機嫌にそれだけ言っては一馬をひっぱって行こうとする。
「!俺らお前の昼飯と飲み物とデザート奢るのにどこに行くんだよ!」
とカードで賭けをしていた友人たちがを呼び止める。
「ああ、わりぃ!また今度奢ってくれ。俺真田と食べに行くから」
そう言っては一馬を引きずっていってしまった。
・・・何でこんなことになるんだ?
っつーか、はただふざけてるだけだよな。
いや、そうであってくれ。頼むから。
本気だったらこいつはホモってことなのか?
あんなに女子に人気があるのに勿体無い。
・・・じゃなくて!!
もしこいつが本当にホモで、冗談抜きで俺の事気に入ってたらまじでやばいじゃないか!
クラスで初めての友達のはずが、生まれて初めての男の恋人なんかになったら俺の一生はもう終わりだ。
そんなことを考えている内にいつの間にか一馬の前にハンバーガーが置かれていた。
「あれ?」
そして向かい側の席にはちゃっかりが座って、嬉しそうに一馬を見ていた。
「それ俺の奢りだから気にしないで食べろよ」
「そんなこと悪い!俺払うよ。幾らした?」
そう言って一馬は財布を取り出したが、はとぼけたままだ。
「いいって。俺が誰かに奢るなんてことは滅多にしないから、ラッキーだと思えよ」
幾らか値段を聞いたのにははぐらかすので、一馬はむきになって聞き出そうとする。
「そんなの悪いだろ!早く値段教えろよ」
はしばらく考え込んでいたが、急に何かを企むような顔をすると、一馬に近づいていって、
「じゃ、かわりに真田をもらうかな」
一馬の耳元で囁くように言った。
それを聞いた一馬は、おもいっきり椅子を倒しながらあとずさる。
「な、ななな何言ってんだよお前!頭おかしいんじゃないのか!?」
「ひどいな〜、そんなふうに言わなくてもいいじゃないか」
ひどいとは言うが、顔はニコニコしたままなので本気でひどいとは思っていないらしい。
「まあさっさと食べてさっさとロープウェイに乗ろうぜ。俺すんごい楽しみなんだよな〜」
の爆弾発言で一馬の思考回路はショート寸前になってしまった。
おかげでまんまとに奢らせてしまった。
これで一馬の身の危険はより深まっていってしまった。
何でこんなことになっちゃうんだよー!
ってあんなにモテてるのに彼女とかの噂が全然無かったのは、実はホモだからだったからなのか!?
そんで何かの気まぐれで俺が奴の餌食になってしまうのかっ?
俺ってまじでピンチか!?
バーガーを咥えながら青ざめてる一馬を見て、は面白くて堪らないらしい。
は一人で百面相をしている一馬を眺めながら、今後の計画をじっくりと練りはじめる。
一馬は悪夢の時間をなるべく遠ざけるようにゆっくりと食べていたが、食べ盛りの年だ。あっと言う間にたいらげてしまい、これからのことを思うと泣きそうになる。
「真田、ほっぺにソースがついてる」
「まじ・・・」
まじで。と、言って頬に手をやる予定だったのが、何か暖かいものが頬に触れてしばらく一馬は固まる。
「うん。ソースの味だ」
はペロっと舌を出して味を確かめたらしい。
それが今が何をしたかがリアルに読み取れて、一馬は一気に顔を真っ赤にしてしまう。
に舐められた頬を押さえると、一馬は逃げるようにトイレに駆け込んでしまった。
「真田?」
いきなり一馬が走っていったのでは訳が分からなかったが、後を追うことにした。
「どうしたんだよ急に。漏れそうだったのかぁ?」
どうやら一馬は個室に入っているらしい。
が声を掛けても返事が返って来ないので、は不思議に思ってもう一度声を掛ける。
「お〜い。そこにいるんだろ、返事ぐらいしろよ」
そう言っては一馬がいると思われる個室のドアを叩く。
は一馬が返事をするまでずっと叩くつもりらしく、一向に止まる気配が無い。
「真田〜」
「うるさい!ドアが壊れたらどうするんだよ!」
ついに痺れを切らせた一馬が返事をしたので、はほっとする。
「だってお前が返事しないからさ。心配したんだぞ」
「そ、そうかよ」
「それでちゃんと出たのか」
「?何がだよ」
「何ってう○こに決まってんだろ」
ずっとドア越しで会話をしていた二人だったが、このの言葉で一馬がトイレの個室から出てきた。
「んなわけあるかー!!ただ俺は恥ずかしかったから個室に入っただけで、そんなことはしてない!!」
「そんなことって、う○こをすることは生き物にとって大事なことだぞ」
「そうだけどただ俺はそうじゃないんだよ!」
一馬がそこまで言ったところで、は今まで一馬が言っていたことを思い出す。
「さっき恥ずかしかったって言ったけど、何で?」
が聞いた途端、一馬はまたさっきのことを思い出したようで、頬に手を当てて顔を真っ赤にした。
一馬が何も答えないまま顔を真っ赤にしたので、は最初は訳が分からなかったが、頬に手を当てているのを見てピンと来た。
だが、あえて何も言わなかった。
楽しみは取っとかなきゃな。
「まあいいや。そろそろロープウェイに乗る時間になってきたから集合場所に行こうぜ」
「あ、ああ・・・」
がそんなに詰め寄って来なかったので一馬はほっとしたらしい。
集合場所に着くと、大体のクラスメート達が既に集まっていた。
ようやく来たを見つけたの友人が声を掛けてくる。
「遅いじゃねえか。あんなに楽しみにしてたのに、何してたんだよ」
「真田とトイレでじゃれあってたら遅くなったんだよ」
本当はじゃれあっていただなんて様子の会話じゃなかったが、にとってはじゃれあいだったらしい。
一馬もいちいちムキになって訂正するのも疲れたので、何も言わないことにした。
「じゃれ・・・って!まじで仲がいいのな!本当にうらやましいこった!!」
その友人はやけくそ気味にわざと一馬に向かってそう言った。
だがは、また一馬にささやかな虐めがあったのにも気付かずにのんきな事を言う。
「だろ〜?でも、だからと言って俺らの邪魔はするなよ♪」
は彼を脅したつもりはなかったが、これ以上自分達が一馬にちょっかいをかけたらあとが無いことを感じ取って、大人しく二人の間から去って行った。
「あれ、何であいつ急にどっか行くんだ?」
「・・・がふざけたことばっか言ってるから呆れたんだろ」
一馬もなんとなくの恐ろしさは気が付いていたが、触らぬ神になんとやらでそういうことにしておいた。
「俺はふざけてなんかないぞ」
一馬は身の危険を感じ取って、のそばから離れようとする。
その時、ちょうどいいタイミングで女教師が声をかける。
「それじゃあ二人づつ順番にロープウェイに乗ってね」
その言葉でみんなロープウェイに乗り込む。
もちろんは我先にと列の先頭に行こうと一馬を引っ張って行く。
そのせいで一馬はから離れることはできなかった。
「楽しみだな真田!」
まんまと列の先頭に並んだはそれはそれは嬉しそうに一馬に言った。
あんまり嬉しそうにが言うものだから、一馬はつい流されてしまう。
「そ、そうだな」
一馬が自分の意見に同意してくれて、はより嬉しくなってくる。
呪いたくなるようなくらいすぐにロープウェイがやってきた。
「よし!さっそく乗り込むぞ」
は一馬が何も返事をしないうちに引きずって、ロープウェイに入れさせる。
乗ってしばらく経つと周りの眺めが良くなってきて、一馬はと二人きりで危険だということも忘れて景色を見入ってしまう。
「すげー」
青々とした山の間から綺麗な滝が流れている。
空は澄みきっていて、その空に浮かぶ雲も眩しいくらいに太陽の光を反射させていた。
普段見ない位置から見える景色は、趣きのわからない一馬でも充分感動できるものだった。
「すげーいい眺めだな!」
一馬はも見ているだろうと思って振り向くと、は景色を見もせずにじっと一馬を見つめていた。
「そうだな」
は相変わらずニコニコしていたが、目は何処となく真剣だった。
「って全然景色見てないじゃないかよ!」
「俺は真田見てるだけで充分」
「なっ・・・」
いきなり口説き同然の台詞を言われて、一馬は顔を真っ赤にして驚いてしまう。
また冗談を言ってからかわれているのだと思ったが、いつもと違って真剣な眼をしたを見て、一馬はどきどきしてくる。
何でのやつこんなこと真剣な顔で言うんだ?
まさか本当にこいつはホモで、俺のことねらっちゃってたりすんのか!?
思わずあとずさる一馬にはその分近づいていく。
「真田・・・何で逃げるんだよ」
「お、お前が近づいてくるからだろ!」
「それって俺のことが嫌いっていうことなのか」
「ち、違う!そうじゃなくて・・・」
「じゃあ何で?」
そんなやりとりをしているうちにも、はさらに一馬に近づいていく。
後が無くなって逃げれなくなった一馬はとにかくから離れたくて、上手い言葉を探そうとするが見つからないで困り果てていた。
一馬が困っているうちにもはどんどん一馬に迫っていき、頭に血が上りきって死ぬんじゃないかと一馬が心配していると、またが喋りだす。
「俺のことが嫌いじゃないんなら何でそんなに俺から逃げようとするんだ」
「そ、それは・・・」
まともにの目も見れなくなってきたので、一馬はそのことに戸惑いながらも目を逸らして返事をする。
「何で俺から目を逸らすんだよ。嫌いじゃないんなら目を逸らすことなんてないだろ。嘘つかないで正直に言えよ」
「嘘なんかついてない!ただ俺は恥ずかしいだけだ!」
勢いで言ってしまい、言い終わってから一馬は今自分が何を言ったかを思い出して、慌てて手で口を押さえるがもう遅い。
はどうせニヤケ顔で自分を見ているのだろうと思って、一馬はをこっそり見てみる。
すると、予想に反しては真剣な顔で一馬を見つめたままだった。
「真田・・・」
切なそうな表情ではさらに一馬に近づいていく。
何も抵抗できないまま、一馬はただが自分に近づいていくのを見つめるだけだった。
このままだとキスされるんじゃないかと思われるような雰囲気で、はもっと一馬に近づいていったので、一馬は思わず目を瞑った。
や、やばい!
このままだと俺はこいつにキスされるのか!?
しかも目なんか瞑ったらOKみたいじゃないかよ。
そうだ!せめて目を開けて少しくらいの抵抗はしなきゃ・・・。
そう思って目を開けるとまじかにの顔があって、一馬はまた目を閉じてしまう。
うわ!もうダメだー!
思わずまた目を閉じちゃったから、今度こそ俺がOKだって思われたはずだ。
しかも何で俺はこんなに顔が赤くなっちゃうんだよ。
これじゃあ勘違いされるに決まってる!
もう俺の人生はお先真っ暗だ・・・。
一馬がそんなことをだらだらと考えているうちに、がまたさっきよりもさらに近い距離で一馬に声をかける。
「真田・・・」
まるで愛しい恋人にでも囁いているかのように聞こえて、一馬は自分がピンチであるのも忘れてついに見とれてしまった。
な、何でこんなに俺はどきどきしてるんだろう。
こいつは男で俺も男なのに・・・。
まさか俺、こいつに影響されてホモになっちゃったのか!?
で、でも他の男なんて考えただけでも気持ち悪いし。
じゃあは特別ってことなのか?
まだ答えが出ていなかったが、はもう本当に目の前に近づいてきていたので、一馬は何も考えずに目を再び瞑ることにした。
どきどきしながら生まれて初めての感触を待っていたが、なかなか口に柔らかい感触は来ない。
不思議に思った一馬が目を開けると、その瞬間は一馬にもたれかかってきた。
「え・・・?」
「き・・・、気持ち悪い・・・・・」
そう言ったと思ったらすぐに、はずるずると一馬にもたれかかりながら落ちていく。
とうとう床に座り込むと、は涙目で一馬にムードぶち壊しなことを言った。
「吐く・・・」
さっきまでの切なそうな表情や仕草はこのためだったと知って、一馬はまず自分が恥ずかしくなってしまった。
次に紛らわしいことをしでかしたに怒れて、が「真田〜」と言って何度すがりついても無視した。
何だよのやつ!紛らわしいんだよ!
思わずどきどきしちゃったじゃねえか。
それどころか俺はお前のためにまっとうなノーマル人生も諦めようかと思ったってのに!
そこまで思って一馬は、もう既に自分の答えが出ていることに気がついた。
ってことは俺ってやっぱりのことが・・・?
・・・でもあんなやつもう知るか!
俺が好きみたいに言ってて、あのムードになったのに肝心な時に「吐く」だと!?
なんて本当にもう知るかー!
は実は高所恐怖症だったらしく、なんとか無事にロープウェイに下りたあとに一馬にそう言っていた。
だが一馬はもうは無視すると決めていたので、何の返事もしなかった。
帰りのバスに乗ってからもはしきりに一馬に話し掛けたが、一馬にしてはしぶとく無視しつづけた。
いいかげんに無視されつづけて、はしょげたらしい。
寂しそうに窓の外をじっと眺めていた。
一馬はそんなを見てちょっと可哀相だったかな、と思い直していた。
大体高所恐怖症なんだから、気持ち悪くなるのは仕方ないし・・・。
やっぱ俺が大人気なかったかな。
一馬がそう思いなおしてに話し掛けようとしたその時、がぼそっと言った。
「俺にキスされると思って目瞑ったくせに・・・」
ぼそっとは言ったが、すぐ隣りにいる一馬には余裕で聞き取れた。
しかも、は気持ち悪がっていたくせにそういうところはきっちり見逃さなかったらしい。
「な、何で・・・!お前具合悪かったんじゃないのかよ!!」
「悪かったけど、真田の可愛いところは見逃すわけないだろ」
はそう言うと、にこっと笑う。
そんなを見て一馬はこいつには敵わないと思った。
だけど、目を自分から閉じてからのキスを受け入れようとしていたのを見られて一馬は恥ずかしかったし、悔しかったので、顔を真っ赤にしながらもそっぽを向く。
「お、男相手に可愛いとか言うなよな!」
「うん。真田だけに言うから安心しろって」
「そ、そそそそういうことを言ってるんじゃなくてだなあ!!」
そう言って一馬はの方を向くと、すぐ間近にの顔があって驚いてしまう。
思わず顔を真っ赤にしながら俯いているとに顔を覗き込まれる。
「俺は真田だけ好きだから」
と言って、は今度こそ一馬にキスをした。
ほんの一瞬だったが、周りにはクラスメートがいるのにそんなことをされて、一馬はりんごよりも真っ赤になって何も言えないで口をパクパクさせるだけだった。
「ロープウェイでできなかったからな」
はそう言ってまたにこっと嬉しそうに笑う。
まだ一馬は何も言えないであうあうしていると、今度は耳元で囁かれる。
「これからが楽しみだな、一馬v」
ついでにこっそり手まで握られてしまい、一馬は心の中で自分がホモ街道をまっしぐらに突っ走っている様を想像してしまった。
このバス旅行はただの楽しいバス旅行なんかではなく、一馬にとってはホモ行き直行バスのようなものだった。
「楽しいバス旅行だったな、一馬」
もう既に馴れ馴れしく呼び捨てにされているのにも突っ込む元気がなく、帰りの道すがら、一馬はずっとにされるがままだったらしい。
俺の人生って・・・。
≪激終≫
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