野菜スープ
 
 
 サクラの家からは賑やかな話し声と、甘くておいしそうなにおいがしていた。
「きゃー完成!サスケくん喜んでくれるかなぁ」
「フン!私のケーキの方が喜んでくれるわよ!」
「ふ、二人ともケンカはやめて・・・」
 サクラ、いの、ヒナタの順でしゃべり、先ほどからこんな調子で三人はいたようだ。
 それでも三人とも仲良くケーキ作りをしていて、やっとそれぞれのケーキが完成したようだった。
「プレゼントもそうだけど、せっかくのクリスマスなんだから、ケーキも気合いを入れなきゃね!」
 サクラは嬉しそうにそう言うと、出来立てのケーキをさっそく箱に入れようとした。
 ところが、
「サクラ〜!!」
 バーン!という豪快な音と共にドアが開くと、そこから見知った人物が飛び込んできた。
「カカシ先生!」
 急に自分の家に飛び込んできた担任に驚きつつも、サクラは何があったのかカカシに尋ねる。
「折り入って相談があるんだけど・・・」
 そう言って話しはじめようとするカカシは、よく見ると全身ボロボロだった。
 けれど、それは争いなどしたような具合のボロボロさじゃなかった。
 カカシの全身からは甘いにおいがしてきていて、体のあちこちにはクリームがついていたり、チョコがついていたりしていて、極めつけはカカシの格好はエプロン姿だった。
 こんなクリスマスという日にこの男は何をしているんだか・・・と、サクラが思ったとき、カカシは急に何かに気がついたようだ。
「!ちょうどよく完成品があるじゃない!」
 そう言って、勝手にサクラの作ったケーキを取ろうとしたカカシだったが、上忍以上のスピードで以ってサクラがそれを止めた。
「って!これは私がサスケくんのために一生懸命作って愛情込めた大切なケーキなんですけど?」
「そこをなんとか」
 殺気を放つサクラに、普通ならそこで身を引くのに、今日のカカシはいつも以上にしつこかった。
「大体なんでそんなにケーキを欲しがるのよ?お店で買えばいいじゃない」
「そういうわけにはいかないんだ・・・」
 カカシがいつになく真剣な顔をしたかと思うと、いきなり語りはじめてしまう。
 
 
 あれは三日前のことだった・・・。
 俺がいつものようにナルトを暖かく見守っていると、急に複数の気配がしてきたんだ。
 サスケ、シカマル、アスマ、キバ、シノ、ガイのヤツまでいた。
 けれど、みんな俺のことは大して気にとめないで、獲物を狙うような目でナルトをじっと見ていたんだ。
 俺はそんな目でナルトを見られるだけでも耐え難くって、すぐに六人をしとめるべく手裏剣を投げてみた。
 やつらをしとめることはできなかったけれど、とりあえずナルトをやつらのイヤラシイ目から守ることはできたんだ。
 
 そこで、カカシの話を聞いていた三人は、思わず疲れきったため息を吐いてしまう。
 そんな三人のことなど気にも留めないで、カカシはまた話し出した。
 
 ・・・で、やつらは何をしていたのか問いただしたんだけど、サスケのやつがさも当然と言わんばかりにこう言ったんだ。
「もうすぐクリスマスなんだから、あいつが欲しい物が何か探ってるに決まってんだろ」
 素直にナルト本人に聞けばいいものを、こいつらは揃いに揃ってそんなことをしにわざわざ俺のナルトを監視しようとしていたんだ。
 だから俺はこう言ってやった。
「っていうか、そもそもナルトがお前らなんかとクリスマスを過ごしたいだなんて思うわけないでしょ」
「何を!」
「つーか何でアンタがそんなこと分かるんだよ」
「ナルトの恋人でもないクセにな」
「っていうよりナルトのストーカーだし」
「変質者がいばったものだ」
「ひどい言われように、さすがにライバルの俺でも同情してやりたくなるな!」
 またサスケ、シカマル、アスマ、キバ、シノ、ガイの順でしゃべるが、焦った感じのサスケ以外はどいつもムカつく台詞ばかりだ。
 そりゃ、俺はまだナルトと付き合っちゃいないけれど、絶対ナルトは俺と二人っきりでクリスマスを過ごしたいと思うハズなんだ!
 俺が心の中でそう思っていると、見守っていたナルトが独り言をしゃべっていた。
 今までナルトは自分の家でのんびり本を読んでくつろいでいたんだけれど、ふいに読むのをやめてこう言った。
「あ〜やっぱクリスマスはケーキだよなぁ。でも金ないし・・・。誰かケーキ作ってほしいってばよ・・・」
 ナルトのその一言で、俺たちはみんな決心した。
「フッ・・・。その様子だと、みんな同じことを考えついたみたいだね」
 俺がそう言うと、また同じ順でやつらも答えた。
「個々人で腕によりをかけてケーキを作る・・・」
「そしてそのケーキを一つずつナルトに食べてもらう」
「ナルトに俺たちの中から一番おいしいケーキを決めてもらう」
「そしてその一番おいしいと言われたケーキを作ったやつが」
「ナルトと二人きりのクリスマスを送れる・・・」
「と、いうナイスアイデアだな!!」
 ガイがいつものように決めポーズをしている間に、みんなすぐにその場を去った。
 早く材料を確保して、誰よりもおいしいケーキを作るために・・・。
 
「だけど何度やってもうまくいかないから、私に泣き寝入りしに来たと」
 サクラはみんなの行動や考えることがまったく理解できなかったが、敢えて何も突っ込まないで話を進めた。
「そういうわけ」
 いけしゃあしゃあと言うカカシに、サクラはよけいケーキなどあげる気が失せた。
「というわけだからもらってくよ〜」
 カカシはまたサクラのケーキを奪おうとするが、やっぱりサクラが信じられないスピードを発揮して止めてしまう。
「ゼッッッッタイ駄目!!」
「こんなに困ってる人を見て、可哀相だと思わないの!?」
 カカシのそんな言い分にサクラがまた何か言い返そうとしたときに、小さな声がおずおずとした感じで割り込んできた。
「あの・・・。よければこれどうぞ」
 差し出されたのはサクラよりもおいしそうなケーキ。
 ケーキを差し出したのは、下忍の中でも一番の内気な子、ヒナタだった。
「そう?悪いね、じゃ」
 カカシはヒナタの手からすばやくケーキを取ると、それだけ言って去ってしまった。
 大人として色々問題のあったカカシに怒る余裕もなく、サクラといのは唖然としてしまう。
「ちょっとー!ヒナタ何考えてんのよー」
「そうよ!あのケーキはナルトにあげるために作ってたんでしょ?なのに何でライバルのカカシ先生なんかにケーキをあげちゃうのよ」
 二人の勢いに圧されながらもヒナタは言った。
「で、でもとっても困ってたみたいだし・・・。それにナルトくんに食べてもらうことには変わりないから一緒かなって」
「「一緒じゃな〜い!!」」
 思いっきり怒鳴られて、ヒナタはこれ以上何も言い返せなくなってしまった。
 困った様子のヒナタを見て、二人はすぐに怒る気が失せてしまう。
「・・・ま、済んだことはしょうがないわね。どうせ今からカカシ先生に返してって言ったって返してくれるわけがないものね」
「そんなことよりもまたケーキを作ってナルトの家に行って、ヒナタもあいつらのバトルに挑むべきよ!」
 サクラといのが目に炎を燃やしてヒナタを説得しようとするが、ヒナタはそんな二人を見て逆に引いてしまったようだ。
「で、でも・・・」
「でもも何もないわよ!ちょうど私たちもサスケくんにケーキ渡したいし!」
「だからヒナタは急いでケーキを作る!」
 二人にてきぱきと指示されてしまい、ヒナタはしょうがなくまた台所へ行くのだった。
 
 
 そうして少し経った頃、ナルト宅では・・・。
「ナルト!みんなの作ったものの中からおいしいのを一つだけ選んでくれ!」
 カカシのケーキはヒナタにもらったものなので、とても出来栄えがよく、自信も満々だった。
 けれど、他のみんなもそれなりに自信があるようだった。
 ・・・が、自信と腕前は比例しないことがはっきり分かるような出来栄えだった。
 シカマルとアスマは途中で面倒くさくなってしまい、市販のケーキを買ってきて自分でナルトが好きそうなデコレーションをして手作りだということにしていたし、キバやガイは思いっきり手作りだったが、ケーキだか何だか分からない物体を作りだしていた。
 シノとサスケは一見まともな出来だったけれど、どういう間違いがあったのか、シノのケーキには虫があちこちについていた。
 サスケなどはナルトが好きな味噌ラーメンにこだわりすぎたのか、ケーキのクリームの色が気色悪い肌色で、中に味噌とクリームが混ざっている始末だった。
「って言ってもさァ・・・」
 カカシ、シカマル、アスマはいいとする。
 シノのケーキも虫がいないところをうまく食べればどうにかなるかもしれないし、キバとガイのケーキもチャレンジすれば意外とおいしいかもしれない。
 だけど・・・。
「さすがにサスケのケーキは食べられそうにないってば・・・。味噌クリームなんて聞いただけで寒気がするってばよ」
 きっぱり言ってしまったナルトに、サスケは当然打ちひしがれた。
 まず一名脱落したことにみんなニヤリと笑ったが、サスケはもちろんそのことに気がつく余裕はなかったようだ。
「ささ、あんな馬鹿は無視していいから食べて食べて」
 そうしてみんなに勧められるままにナルトはケーキを食べはじめた。
 
 ナルトが全員分のケーキを食べ終わるころに、サクラたちはやっとナルトの家に着いた。
「「サスケくーん!私のケーキ食べて!」」
 サクラといのが声をそろえながら、まだショックを受けているサスケのところへケーキを渡しに行ったが、ヒナタは二人とは違ってすぐに行動に移せないようだ。
 もじもじと玄関にいるヒナタに気がついて、ナルトは気さくに話しかけてくれる。
「ヒナタも来てくれたんだ!そんなところで立ってないでこっちに来るってばよ」
 ナルトにフル笑顔で手招きされて、ヒナタは顔を真っ赤にさせながらもなんとかナルトの隣に行く。
 そうして、後ろ手に隠し持っていたものをおずおずと差し出しながら、小さな声で言った。
「あ、あのね。もしよかったらこれ・・・」
「お、サンキュー。ヒナタ!」
 とっても嬉しそうに自分の差し出したものを受け取るナルトを見て、ヒナタはよけい赤面してしまう。
「ナルト!」
 そんな二人を引き裂くようにしてサスケが割って入ると、サスケは二つのケーキを持って得意そうに言った。
「これがオレのケーキだ!さ、すぐに食べろ」
 明らかにサクラといのからもらったと分かるのに、サスケはとても自信満々にケーキをナルトに渡そうとする。
「もう甘いものはいらないってば・・・」
 ふ〜。なんてため息をつかれて、サスケはもう完全に立ち直れなくなってしまった。
「・・・で!誰のケーキが一番おいしかった?」
 カカシも他のみんなも早く返事が欲しいみたいで、みんなしてナルトに詰め寄るようにしている。
「やっぱカカシせんせーのケーキだってばよ」
「!!」
 その瞬間、カカシの世界はバラ色になったが、他のみんなは対照的にお先真っ暗な色になった。
「っていっても、そのケーキカカシせんせーが作ったわけじゃないんだろうけど」
 きっぱり言うナルトに、カカシは嫌な汗をかいてしまう。
「このケーキ、ヒナタが作ったんだってば?」
 疑問系だったけれど、ナルトの表情は確信があるようで、とてもまっすぐにカカシを見ていた。
 カカシは動揺してしまって、つい自分に追い討ちをかけるようなことを聞いてしまった。
「そんなこと、何で分かるの・・・?」
「ヒナタが作ったものなら分かって当然だってばよ!」
 
 そ、それってつまり・・・。
 
 みんなして心の中でそう思ったときに、サクラといのがみんながショックを受けている間に、ナルトとヒナタ以外をみんな外に出してしまった。
 ナルトと二人っきりにされてしまったヒナタは何が何だか分からなくて困ってしまう。
「でもオレってばケーキよりもスープの方が嬉しかったってば」
「ナ、ナルトくん」
「あれ野菜が苦手なオレのためと、ケーキばっか食べてつらいオレの口直しのために野菜スープ作ってくれたんだってば?」
 ヒナタはケーキを作るのをやめて、野菜スープをナルトのために作って差し出したのだった。
 ヒナタは、きっとナルトが甘いケーキばかり食べさせられてつらいだろうから、普段あまり食べない野菜をスープにして食べてもらおうという意味を込めて作ったのだった。
 ナルトはそこまで理解してくれていて、ヒナタは嬉しいやら恥ずかしいやらで顔がもっと赤くなってしまいそうだった。
「じゃ、今度はお礼にオレからヒナタに何か作るってば!」
「あ、ありがとう・・・」
 ヒナタが照れているのが分かったのか分かっていないのか、ナルトは明るい調子でそう言うと、ヒナタもまた少し落ち着いたのか笑顔を返す。
 
 
「何てこったい!!」
 仲睦まじい二人は外のことなど知りもしなかったが、まだカカシたちは諦めきれずにナルトの家にへばりついていた。
 けれど、ナルトとヒナタの仲の良さにかえってショックを受ける羽目になっていた。
 が、すぐに立ち直ってしまったのか、全員元気よく立ち上がるとまた仲良く一人ずつ順番にしゃべりだした。
「ナルトはケーキよりも野菜スープの方が好きだったんだ!」
「まだまだ勝負は始まったばかりだな・・・」
「時期的に考えると、次は正月か」
「むしろ勝負をする題材を絞らないほうがいいのかもな」
「確かにそのようだな」
「次は絶対負けねえ!」
「次に勝利するのは俺だ!」
 カカシ、サスケ、シカマル、アスマ、シノ、キバ、ガイの順でこれからの抱負などを語ると、足早にその場を去っていった。
 
 次に彼らは同じようなバトルを正月に繰り広げるようだが、また同じようにヒナタに負けるとは想像もしちゃいないようだった。
 
 
 
 
 
 
 
終わり

大変お待たせしました〜。
と、いうわけでずっと書きたかったヒナナルでした。
 
 
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