好みのタイプのわけ
 
 
「サスケく〜ん!すばり好みのタイプってどんな子なの?」
 今日もキャーキャー女どもがうるさい。
 いつもいつもいのが率先して聞いてきて、自分じゃ聞けない度胸のないやつがいのの後ろでオレに隠れるようにして返事を待っている。
 それで、オレはいつものように言うのだった。
「そんなのいない」
 次に何も言わせないぐらいにすごんで言うと、いのをはじめとした女どもはすごすごと去っていった。
「っかー!サスケってば、サクラちゃんたちがせっかくお前のこと質問してくれたのに、そんな返事って失礼だってばよ!」
「・・・うるさいな」
 ほっとしてまたアカデミーに戻ろうとしたら、元気のいい声がかかってきた。
 うずまきナルトだ。
 こいつは最近あったクラス替えで一緒になった有名な問題児の、あのうずまきナルトだ。
 最初はうざいし、うるさいし、子供みたいなやつだと思っていたけど、最近は何故だか変に気になってしまっていた。
 そっけない返事をして、いのたちとは違ってそれに後悔してしまっているオレがいる。
 でもナルトがそれでもこっちに歩いてきて、オレはなぜだか内心ドキドキしていた。
「お前はもうちょっと女の子たちに優しくするべきだってばよ!」
「別にどうでもいいやつのことなんか優しくしたってしょうがないだろ」
 そこでナルトは言葉に詰まったようで、うっと言って体を仰け反らせていた。
「じゃ、じゃあお前ってば誰に優しくしてるんだってばよ」
「!」
 そこで今度はオレが言葉に詰まってしまった。
 
 何でナルトはわざわざそんなことを聞いたんだ?
 
 まずはそれを聞きたいところだったけれど、オレはなぜか全く違うことを口にしてしまっていた。
「そんなことお前に言ってもしょうがないだろ」
「あ!分かったってばー!!」
 嬉しそうにナルトは言って、オレに向かって指をさしていた。
 まさかオレの思っていることがバレたのか!?
 そう思って焦っていると、ナルトは嬉しそうに話し出した。
「サスケってば、本当は好きな子の一人もいない寂しいやつなんだってば!?だから好みのタイプも本当は分からなくて困ってたんだろ?」
 とっても得意そうに言うナルトだけれど、当然違う。
「お前アホだろ」
「いやいやいや!そんな冷静そうに言ってももう分かっちゃったんだってば!」
 本当にアホなナルトは、相変わらず得意そうに一人でうんうん頷いていた。
「そんな可哀相なサスケをオレが助けてやるってばよ」
「へ!?」
 た、助けるって・・・。
 一瞬オレの頭の中に、ナルトがオレに向かってほほを染めて手を握ってくる映像が浮かんでしまった。
 つい顔を赤らめてしまって焦って混乱してしまったオレだけど、幸いなことにナルトは気がついてないみたいだった。
「いい練習になるってばよ」
 嬉しそうに謎の独り言を言って、ナルトはそのままオレのことを見もせずにどこかへ行ってしまった。
 まあどうせ授業でまた会えるから、そのときになんだったか聞けばいいだろう。
 
 ・・・そう思ったのに。
 授業が始まってもナルトは来ないで、イルカ先生が怒っていたが、結局それからずっと学校が終わるまでナルトは姿を見せなかった。
 しょうがないから今日は諦めて帰ることにしたけれど、またいのたちにつかまった。
「サスケくん!好みのタイプが分かったらすぐに私に教えてね」
 今度はできたら教えろかよ。
 もう面倒くさくて、オレは無視して学校からすぐに出て行った。
 ナルトの言葉がよぎったけれど、好きでもないやつに優しくするなんてできるかよ。
 
 どうせ家に帰っても暇なので、ゆっくり歩いて家に向かっていると、慣れた気配が近づいてきた。
 今度こそ謎の独り言の意味を聞こうと思って振り向けば、そこには見たことのあるようなないような、オレと同い年くらいの女子がいた。
「な、」
「こんにちは、サスケくん」
 そいつはまぶしいくらいの笑顔でオレに話しかけてきた。
「お、お前ナ・・・」
「サスケくん、私とデートしましょ!」
 いきなりそいつはそんなことを言うと、オレの腕をとって歩こうとした。
「っつーか、お前ナル・・・」
「ささ!行きましょう。私ってばお腹すいちゃって」
「お、おい」
「そうね、ラーメンがいいわ!チャーシュー大盛りのみそラーメンな気分だってば」
 微妙に独特の言葉が抜け切れていないので、もちろんバレバレだ。
 それでもちゃんとオレをだませてると思ってるあたり、こいつは本当におめでたいやつだ。
 つまりはオレにラーメンを奢らせたいんだろ。
「サスケ・・・くんはラーメンや?」
 オレが不振がった顔をしていたのを見て、こいつ・・・ナルトはさびしそうな顔をして、上目遣いでオレを見てきた。
「や、やじゃない・・・」
 思わずドキドキしてしまい、オレは結局ラーメン屋に向かうことになってしまった。
 
 
「いっただっきま〜す」
「お嬢ちゃん見かけない顔だけど、いい食べっぷりだねぇ」
「ありがと、おっちゃん!んで、おかわりね」
「・・・・・・・」
 もう、これで、10杯目なんだけど・・・。
 仮にも年頃の女がそんなに食うかよ。
 変化とかを練習する前に常識を身に付けろよ、こいつは・・・。
「あ〜。うっめ〜」
 しかも、完全に素に戻ってるし。
 それでも可愛い・・・からどうしようもない。
 そうなんだ。
 こいつは女に化けているからか、すごく注目を浴びている。
 ラーメン屋に向かう間中、みんながみんなナルトを見ていた。
 そりゃあ、こんなに可愛い・・・やつなんかこの里にはいないからな。
 さりげなく手を繋がれていたオレとしては、不本意ながら悪い気はしなかった。
 
「サスケくんってば全然ラーメン食べてないけど、いらないの?」
「え?いや」
 いるけど・・・。
 そう言いたかったのに、ナルトがとっても嬉しそうな顔をして見てくるから、オレは何も言えなかった。
「いらないなら食べちゃうってばよ」
「あ、ああ」
 ナルトは「やったー!」なんて言って、さっそくオレの手からラーメンをもぎ取ると、すぐに食べ始めた。
「醤油味もやっぱりおいしいってばよ〜」
 嬉しそうに麺をすするナルトを見て、まあいいかと思った。
 けれど、よくよく考えたらこれは間接キス・・・になるんじゃないか!?
「ん?サスケくんってば顔赤いけど、どうしたの」
「い、いや。ただの気のせいだろ」
 ナルトはあまり追求しないで、すぐに麺をすすり始めたから助かった。
 
 馬鹿か、オレは。
 こいつは今は女の姿でも、本当はちゃんとした男なのに!
 それをしっかり分かってるくせに、何でそんなこと考えて顔を赤くしなきゃいけないんだ!
 
「さーて。たらふく食ったし、店に出よっか」
 また可愛い笑顔でこいつは話しかけてきて、オレは黙って頷いた。
「お会計5千8百円になります」
「!!」
 そこいらのアカデミー生が日常でそんな金持ってるわけないだろ!!
 ナルトの正体を暴きつつ、こいつに全額払わせようかと思って、ナルトを見た。
「サスケくん、もしかしてお金なかった?」
 とっても申し訳なさそうな顔をしてまた見上げてくるから、オレはついついこう言ってしまった。
「いや、大丈夫だ」
「よかったってばよ〜」
 言ってから後悔したけれど、ナルトがまたほっとしたように笑うからオレはそれでよかったと思ってしまった。
 だけど今は金がなかったので先にナルトを店に出させて、オレはこっそり店員に「あとで払いにくるから・・・!」とみっともなく言う羽目になったが。
 
 店を出てしばらく無言で歩いていたけれど、ナルトがふいに話し出した。
「サスケくんって案外優しいところあるってばよ」
 奢ってやったのがそんなに嬉しかったのか、ナルトのやつはまた普段見せないような笑顔で笑いかけた。
 その笑顔があまりに眩しくって、オレはついに変な意地を張るのをやめた。
「どうでもよくないからな・・・」
 本当はずっと前からどこかでこの気持ちに気がついていたくせにな。
「へ?それ、どういう意味だってばよ」
「・・・可哀相なオレをお前が助けたってことだよ」
 ナルトが言ったことなのに、意味が分かってないのか首を傾げていた。
 好きなやつがいなくて可哀相なオレを助けるって言ったのはお前だろ?
 それはつまり自分のことを惚れさせるって意味だったんだろ?
 オレはまんまと惚れてしまったけれど、女の姿をしたお前だけに惚れたわけじゃない。
 お前そのものに、すでに惚れていたんだ。
 きっとお前がこんなことをしなければずっと気がつかないフリをしていられた。
 けれど、もう遅いからな。
 責任は取ってもらう。
 
 オレは無言でナルトに手招きすると、ナルトは素直にオレに近づいてきた。
「わわ!?」
 そこで思いっきりナルトの手を引っ張って、ナルトの顔に自分の顔を近づけた。
 ナルトのあごを掴んで目をつぶり、もっと顔を近づけると、やっとオレのしようとしていることが分かったのか、ナルトは急に大声をあげた。
「っぎゃー!!早まるなってばサスケ〜!!オレってば、ナルトだってばよ」
 思いっきりオレを突き飛ばしたナルトは、「ナルト」に戻っていた。
 それを見たオレは、にやっと笑うとこう言ってやった。
「知ってた」
「へ!?」
 それを聞いたナルトの表情があまりに驚いていたので、オレは笑ってしまった。
「な、何大笑いしてるんだってばサスケ!まさかオレってばサスケを騙してるつもりでサスケに騙されてたってば!?」
 そうじゃないけれど、いざ元に戻ったナルトに自分の気持ちを言うとなると恥ずかしいものがあったので、しばらくはそういうことにしておく。
 ただ、ヒントを残すことにした。
 
 
 
「サスケく〜ん。好みのタイプ分かった?」
 いつものように学校へ着くと、いのがまた話しかけてきた。
 近くにはナルトがいて、こっそり耳を立てている様子が感じ取れた。
 それを確認すると、オレはこう言った。
「ああ、昨日しっかり分かったぜ」
「ええー!?」
 いのが大声をあげたせいで、教室にいたみんなはいっせいに注目した。
 ナルトだけが不自然にこっちを見ていないので、内心面白かった。
「髪が金髪で長くて、目が青くて、変な話し方をして、ラーメンが好物で、負けず嫌いですぐにオレに喧嘩を売ってくるやつだな」
 具体的すぎてよくよく考えれば誰か分かりそうなものなのに、いのや周りにいや女子たちは、「サスケくんにケンカなんて売れない〜」なんてほざいていた。
 当のナルトはまだ分かっていないようだった。
 まあいい。
 あいつが気がつくまでまずは気長に待ってみよう。
 気がついたときは、もちろん容赦しないけどな。
 
 
 
 サスケの好みのタイプは色々な女の子へとうわさされたために、「髪の長い子」だけになってしまったが、その「髪の長い子」は今サスケとどういう関係になっているのかは二人だけが知っていることだった。
 
 
 
 
 
 
終わり

お久しゅうございます。
サスナルでございます。いや、サスナルコか・・・?
アカデミー卒業前。前にサスケの好みのタイプが「髪の長い子」と知り、無理やりこじつけたり。
 
 
戻る