セーブポイント
 
 
「ナルトォ。今日ぐらいせんせーといちゃいちゃしない?」
 俺がせっかくナルトの家に来てそう誘っても、最近のナルトはあるものに取り憑かれたかのように返事もしない。
 いや、実際取り憑かれてるんだけどね?
「ねえナルトってば」
 背後からぴたっと引っ付いてみると、ナルトはやっと俺のほうを見てくれた。
「さっきからうっとうしいってば、カカシせんせー!オレってば今いいとこなんだから」
 そうやってまたナルトの目線は憎いテレビの画面へと戻ってしまう。
 別にテレビが悪いんじゃない。
 
 本当に悪いのは、ゲーム機だ。
 
 最近ナルトに自来也さんはゲーム機とそのソフト数本を買ってあげた。
 どうせ甘やかしたいからそういうことをしたんだろうけど、ナルトは初めてゲームというものに触れて、それ以来ずっと病みつきになってしまった。
 もちろん今までと変わらず修行はしっかりと続けているんだけれど、俺との時間は完全にゲームの時間になってしまった。
 それでも最初は仲良くナルトとゲームをしていたんだけど、あいつが下手すぎて、何回も二人で対戦しても必ずナルトは負けた。
 そのせいでむきになったナルトは、絶対に俺とゲームをしなくなった。
 けれど、一緒にゲームをしていた時とは違って、今はナルトと同じ部屋にいるのに、全然ナルトが遠くに感じられてしまう。
 それが嫌でこんなに一生懸命ナルトに話しかけてるのに・・・。
 
 俺たちって恋人じゃなかったっけ・・・?
 
 かなりしょげているのに、ナルトはそんな俺に気づきもしない。
「ああ!!惜しいってばよ〜」
 
 
 何か残念そうなナルトの声にも、カカシは同情する気持ちの余裕さえなかった。
「そんなにゲームばかりやってたら目が悪くなって、強い忍になれないかもよ〜」
 恨めしそうにぼそっと言うけれど、ナルトは全く聞いちゃいなかった。
「ナルトはもう俺なんか好きでもなんでもないんだ・・・」
 今度は少しだけ大きな声で言ってみたけれど、これも全く聞いていなかった。
 カカシは傷つくのを通り越して怒れてきた。
「あ〜〜〜〜!!!」
 そして、いきなりゲーム機のコンセントをぶち抜いてしまった。
 当然、ゲームは強制的に終了してしまい、テレビ画面は虚しくザーザーといっていた。
「何するんだってばよ!!セーブしてないのに!!」
 また時間をかけてやらなきゃいけないと思うと、ナルトは怒ってカカシに詰め寄った。
 けれど、カカシはさらに大きな声で言い返したのだった。
「ナルトは俺よりもゲームのほうが大事なわけ!?」
 そこでナルトは何でいきなりそうなるのか分からなかったので、一瞬言葉に詰まってしまった。
 その微妙な瞬間をカカシは勘違いしてしまって、今度は傷ついた。
「もういいよ・・・」
 そう言って、ナルトが何か言う前にカカシはどこかへ行ってしまった。
「ワケわかんないってばよぉ」
 ナルトはさっきまで怒っていたのを忘れて困り果ててしまった。
 
 だって、人とものなんて比べようがないってばよ。
 何で今さらカカシせんせーはそんなこと聞いたんだろ?
 オレってば何かいけないことでもしたのかなぁ。
 ゲームばっかりしててせんせーいじけたのかな?
 
 そこまで考えると、それが一番正しい答えだとナルトは何となく分かった。
「カカシせんせーってば子供みたいだってばよ」
 みたいじゃなくて、実際子供なんだろうけれど、ナルトはそう言うとカカシを追うことにした。
 
 いじけてるだけならそんなに遠くへは行ってないはずだってばよ。
 
 そう思って家を出ると、なんとカカシはドアのそばにしゃがみこんでいた。
 まさかこんなに近くにいるとは思わなくて、ナルトは驚いてしまう。
「カ、カカシせんせー?」
 何やら自己嫌悪中だったらしくて、ぼそっと「俺の馬鹿」などといった言葉が聞こえてきたけれど、ナルトは勇気を出して声をかけた。
 すると、カカシはばっと振り向いて何か言いかけたけれど、結局黙ってそっぽを向いてしまった。
「オレってばせんせーのこと好きだってばよ」
「・・・でもゲームのほうが大事なんでしょ?」
 すかさずそう言われて、ナルトはまた言葉に詰まってしまうけれど、自分の思ってることを正直に言った。
「ものと人なんて比べようがないじゃん。何でせんせーはそんなことにこだわるんだってばよ」
「そりゃあナルトが好きだからだよ」
 ダイレクトに言われて、ナルトは照れてしまう。
 でも何でいきなりそんな言葉が出てくるのか、ナルトには理解できなかった。
「俺以外にナルトの気を引くものはなんだって許せないんだよ」
 それにゲームのせいで全然ナルトと触れ合えないし。
 カカシはそう言うと、また俯いてしまった。
 何だかそんなカカシが可愛く感じてしまって、ナルトは思わず笑ってしまう。
「オレってば、カカシせんせーのこと大好きだってばよ!」
 そう言ってぎゅっとカカシに抱きつくと、カカシは珍しく図に乗らずにおずおずと聞いてきた。
「じゃあさっきのこと許してくれるの?」
「許すも何も、ゲームなんてまたやればいいんだってばよ」
 そうしてまた笑顔でカカシに抱きついた。
「・・・でも、もし、あの時にゲームのコンセントを壊したって言ったら、許してくれる?」
「・・・・・」
 そこで二人の間には微妙な空気が広がった。
 
 
「せんせーの・・・馬鹿―!!」
 
 
 そうしてカカシがやっとナルトとの時間をゲットできたのは、丸1ヶ月も経ってからのことでしたとさ。
 
 
 
 
終わり
 
 
 
 

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