もう一発殴らせろ
 
 
「ちょっと出かけてくるよ」
 オレとカカシせんせーはあれから何度かもめた末に、結局二人暮らしを始めたばかりだった。
 今日は二人暮らしを始めて一週間経った日で。
 外はものすごい風が吹いていて、天気予報が今日は台風が来ると言っていたのに。
 そんな日にカカシせんせーは突然どこかへ行ってしまった。
 
 
「うっかり忘れてたよ、一応挨拶ぐらいしておかないと、恨まれてとり憑かれそうだからね」
 カカシはそう言うと、この激しい風の中だというのに嫌なことはさっさと済ませてしまおうというのか、かなり速い足取りで目的地へと向かっていった。
 
 そして向かった先は慰霊碑で。
「報告がうっかり遅れたけど、ナルトをもらいましたから。一応報告しときましたよ」
 カカシは慰霊碑に彫られている一つの名前を見ながら、面倒くさそうに言った。
「やっぱこれからは先生よりお義父さんって言うべきですかね〜?ま、そういうわけなんで文句は言わせませんからね。あ、当然無理か。あなた死んじゃってますもんね」
 カカシはよっぽど顔岩の髪の毛の攻撃が痛かったのか、まだ恨みがありそうだった。
「それじゃ、話はそれだけですので。また暇があったら来ますよ、お義父さん」
 そう言って、カカシは満足して慰霊碑から去ろうとした。
「!!」
 けれど、とても激しい突風がカカシ目がけて吹いてきた。
 カカシは後ろへ倒れそうになったけれど、何とか踏ん張ることができた。
「え!?」
 しかし、足元が滑りやすくなっていたせいで、やっぱり後ろ向きに倒れそうになってしまった。
 
 このままじゃ慰霊碑に頭ぶつけるじゃないか・・・!
 
 慰霊碑はとても硬い石でできていたので、さすがのカカシでも思いっきり当たれば気絶の一つでもしてしまいそうだった。
 何とか体をひねって、慰霊碑のないところへ倒れることができた。
 ・・・かに思えたのに、予想もできないことがカカシに待ち受けていた。
 
 ゴン!!
 
 なんと今度は慰霊碑からカカシに向かって倒れてきたせいで、カカシの頭に慰霊碑の角がモロにヒットしてしまった。
 慰霊碑はかなり丈夫にできているはずなのに、台風の突風に煽られて倒れるなんて、カカシはまず思っていなかった。
 しかし、カカシは気絶してしまってそこまで考えることは出来なかった。
 そうして倒れていること数分が経って。
「んん・・・」
 カカシはどこかぼんやりとした表情で立ち上がった。
 けれど何かがおかしいのか、急に変な顔をして立ちすくんでいた。
「まさか、カカシくんの中に・・・?」
 傍から見ると、カカシが自分のことを「カカシくん」と言って自分の手を見つめている様子に、ついに狂ったかと思いそうな感じだった。
 さらにカカシは俯いて肩を不気味に震わせたと思ったら。
 急に大笑いをしだした。
「やった・・・!これで俺のナルトはカカシくんなんかの手に渡さないぞ!」
 スキップしながらナルトの家へと向かうカカシが他の里の人間に見られていなかったのは幸いだったかもしれない。
「ナルトをもらうだなんてたわけたことをぬかしおってからに・・・!絶対カカシくんにはナルトに嫌われてもらうからね!!」
 目を燃やして怨念を飛ばしているのはそう、ナルトの父でもあり4代目火影でもある注連縄だった。
 
 
 きっと神様が俺の味方をしてくれたに違いない。
 そうじゃなきゃカカシくんに乗り移るなんてまず無理な話だし。
 さっそくカカシくんにはナルトに嫌われてもらっちゃうからね・・・!!
 俺をお義父さんとか言って調子こいてた罰だよ。
 
 でもどうやって嫌われようかな。
 ナルトが傷ついちゃうような嫌われ方は絶対駄目だし。
 ナルトの前で鼻くそほじったり屁をこくのはどうだろう。
 でもカカシくんのことだからすでに無理やりそういうの許されてそうで嫌だなぁ。
 
 そうこう考えながらも、注連縄はもうナルトの家についてしまった。
 どうしようか迷いながらも、もう手はドアノブに回されていた。
 
 ああ、どうやって嫌われるか考えてない。
 考えてないけど、早くナルトに会ってナルトと触れ合いたい・・・!
 
 その思いだけで、注連縄は勢いよくドアを開けた。
「あ!カカシせんせーお帰り〜」
 ナルトはカカシが帰ってきて嬉しかったらしく、にこにこしながら出迎えた。
「ナ、ナルトっ・・・!!」
 そんな可愛い顔でパパを迎えてくれるなんてっ!とか思いながら、いきなりナルトを抱きしめた。
 けれど、普段のカカシもすぐに抱きしめるクセがあるので、ナルトは慣れたものだった。
「もう、分かったから離れろってばよ。晩御飯できてるから早く食べよ」
「ナルトの手作りご飯!?」
 注連縄は目をキラキラされて喜んだけど、ナルトとしては何で今さらそんなに喜ぶのか分からなかった。
「別に普通じゃん。いつもオレが作ってんだしさ」
「!!」
 その言葉に注連縄はショックを受けてしまった。
 
 何だと!?
 ってことはカカシのクソガキは、俺のナルトの手料理を毎日食べさせてもらってるっていうの!?
 何ていう贅沢を・・・!!
 
「ちょっとカカシせんせー、料理ぐらいテーブルに運ぶの手伝って欲しいってば」
 ナルトは注連縄が怒りでテーブルに突っ伏しているのを気がつきもしないでそうやって声をかけた。
「ああ、ごめんごめん」
 ナルトのお願いとあっちゃあ言うことを聞かなきゃいけないと思い、いそいそと注連縄はナルトのところへと行った。
「・・・」
 ナルトは何だか急に警戒しているらしくて、何でだか注連縄は分からなかった。
「どうしたの、ナルト」
「別に・・・。ただ何もちょっかいかけてこないからおかしいなって思っただけだってばよ」
 いつもカカシは素直に自分の言うことを聞くけど、言われたとおりのことをしっかりとやったためしがない。
 必ずナルトの隙を突いてお触りの一つでもやるのが普段のカカシだったので、ナルトは違和感を感じてしまった。
 注連縄はナルトの手料理が楽しみでうきうきしていたので、ナルトがそんな風に思っているなんて気がつかなかった。
「いただきま〜す」
 料理を全部テーブルに持っていくと、注連縄は手を合わせて行儀よくご飯を食べ始めた。
「・・・やっぱり今日のせんせー変だってばよ。何かいつもより行儀いいし、無駄に触ってこないし」
 最初の言葉はいいとして、あとの言葉にすばやく反応してみせた。
「触ってって・・・。いつもどこ触ってんの!?」
 ナルトは急に怒ったようにカカシに聞かれて、普通怒るのはこっちのほうだと言いたかった。
 けれど、カカシが必死の形相だったので、しょうがなく答えてやる。
「どこって、何を今さら聞くんだってばよ?いつもどこでもべたべた触ってくるじゃんか」
 一種の嫌がらせかもしれないとナルトは思いつつも、いつもどこを触られていたのかを思い出して、少し顔が赤くなってしまった。
 それを見逃すはずも無い注連縄は、そのナルトの顔を見てかなりのショックを受けた。
 
 カカシめぇぇぇぇ〜!!
 俺の大切なナルトに日々セクハラを働くとはいい度胸だ!
 
 と、いうかカカシに殺意を覚えた。
「どうしたんだってばカカシせんせー。さっきから変な顔してさ」
「何言ってんのナルト。俺はいつも変な顔してるじゃない!」
 これでナルトに否定されたら泣いちゃうかも。とか思いながら注連縄はそう言う。
「まあ、それはそうなんだけどさ」
 そこでほっとしたのもつかの間。
「だけど、今日のカカシせんせーなんか素直っていうか、まじめっていうか・・・。そういえば今日はイチャパラ読まないし」
「イチャパラって、あのイチャパラ!?」
 いまさら何をそんなに驚くんだと思いつつもナルトは無言で頷いてみせた。
 
 相変わらずのエロガキめがぁぁぁ・・・!!
 ナルトの前で堂々と18禁の本を読むなんて!
 
「カカシせんせー?やっぱどっか変だってばよ、風邪でも引いた?」
「カカシくんがイチャパラを読み始めたのは14歳のときだった・・・」
 ナルトはやっぱり変だ!と思ったけれど、どこかそんなことを言わせない空気がカカシの周りにあった。
「彼は昔からエロガキで、何としてでもイチャパラを読みたくて色々な細工をして読んでいた変態だ」
 ナルトを見つめて力説し始めたけれど、ナルトはどうリアクションしていいのか困ってしまう。
「変態なんだよ?しかも自分がエロガキだって他の人間には思わせないむっつりスケベでもあるやつなんだ。本当に最低だと思わない?」
「んなこと急に言われたって・・・」
 カカシはついに狂ってしまったんだとナルトはこっそり思っていたので、下手に返事をしないほうが安全だと思った。
「思うだろ!?」
「ちょっ・・・!」
 しかし逆効果だったみたいで、注連縄は興奮するとそのままナルトに突っ込んできた。
 その勢いでそのまま二人は近くにあったソファーへ倒れこんだ。
「急に何するんだってばよ・・・」
「!!」
 顔を赤らめて言うナルトに、注連縄はかなりショックを受けた。
 
 な、慣れてる・・・!!
 ナルトってばカカシくんに押し倒され慣れてないかい!?
 ま、ましゃか二人はすでに・・・。
 
 微妙に変な言葉になっているのにも気がつかないで、注連縄はそのまま固まってしまった。
「カカシせんせー?」
 ナルトは何もしてこないカカシが不気味で声をかけてみた。
 けれど、まだ無反応で、ナルトは少しむっとしてきた。
 いたずら心がわいてきて、ナルトは恥ずかしかったけれどカカシに不意打ちでキスをしようとした。
「わあ!?」
 それを注連縄は必死でよけた。
 
 な、ななななんつーことを子供に教えたんだカカシの阿呆は!!
 俺の大事な大事なナルトを・・・!!
 
 注連縄はそう思ってわなわなしていたけれど、ナルトもわなわなと拳を握って怒りに耐えていた。
 けれどそう長く持つわけもなく、ナルトはぶちっと血管を切らせて一気に怒鳴った。
「ひどいってばカカシせんせー!オレがせっかく恥ずかしさを耐えて積極的にしようとしたのに、それをよけるなんて!」
 ナルトは怒っていたけれど、それ以上に傷ついていたのが注連縄には分かった。
「ごめん・・・」
 だから素直に謝ったけれど、それでも納得がいっていなかった。
 
 カカシくんに拒絶されてそんなに傷つくなんて・・・。
 それほどカカシくんみたいなクソガキのことが好きなの?
 そりゃあ俺のせいでナルトを一人にさせちゃって悲しい思いを何度となくさせてきたと思うけど。
 カカシくんがそんなナルトを支えてきてくれたってのもよく分かるけどさ。
 けれど、俺は死んだってナルトの父親なんだ。
 大事な息子をとられて悔しがらない親はいないんだよ。
 
「ナルトは俺のこと好き?」
 注連縄はカカシのつもりで聞いてみた。
 そうすれば真っ赤な顔をして可愛い返事が返ってくる。
「そんなの好きに決まってるってばよ、今さらそんなこと言わせないでほしいってば・・・」
 切なそうに注連縄は微笑むと、今度は別の質問をした。
「じゃあもしさ、もしナルトに父親がいるならどんな人だと思う?好きになれそう?」
 何でいきなり父親の話につながるのか分からなかったけれど、ナルトは素直に返事をした。
「う〜ん・・・。きっと自分勝手で自己中で自信家で極めつけはエロそうだってば」
 ナルトの言葉に、注連縄は素直にショックを受けた。
 
 それって俺よりカカシくんのこと言ってるんじゃないの?
 
 そうは思ったものの、注連縄の脳裏に一瞬ある言葉が過ぎった。
 娘の理想の結婚相手は父親に似ていると言ったような事柄だった。
 みんなが必ずしもそうではないのだろうけれど、注連縄はそれが決定打だったらしく、こっそりため息をついた。
「けど、なんだかんだいって好きなんだろうなぁ」
「!?本当っ?」
 ナルトの言った言葉にすかさず反応して、注連縄はもっとナルトを押し倒したような格好になった。
 それに本人は気がついていないようで、ナルトだけちょっと照れたような表情だった。
「?ほ、本当も何もそんなこと知らないってばよ。ただそうなんじゃないかな〜って思っただけで・・・」
「ナルト〜〜〜!!」
 ナルトが全部言い終わるのを待てずに、注連縄はそのままナルトに抱きつこうとした。
 けれど、足がソファにはみ出ていたせいで、思いっきり足を滑らせて体のバランスを崩した。
「カカシせんせー!?」
 ナルトが慌ててカカシを助けようとしたのがかえっていけなかったらしく、ナルトが起き上がった反動で注連縄はそのまま床へ頭を強く打ち付けた。
 
 ゴン!
 
「カカシせんせー!!」
 ナルトは頭をぶつけた人に対しての対応が激しく間違っているようで、強くカカシの頭を揺さぶって大きな声をかけて起こそうと必死だった。
「い、いたた・・・って、何でいつの間に家に帰っちゃってんの?」
 目が覚めたカカシは、起きるとすぐに意識がはっきりしてきたらしい。
 
 確か慰霊碑で気絶していたはず・・・。
 
 と、カカシがぼんやり思っていたところで、ナルトに声をかけられる。
「カカシせんせー、大丈夫?何だか家に帰ってきてからずっと変だったし、今日はもう寝たら?」
「家に帰ってから・・・?」
 家に帰った記憶もなければ家で何をしていたのかもさっぱり分からなかった。
 カカシは何となくナルトに聞いてみた。
「俺、家に帰ってからどんなんだったの?」
 ナルトはカカシが一種の記憶喪失かなんかにかかったのかと思って、丁寧に説明してあげた。
「うん。何か自分のこと「カカシくん」とか言ったり、いつもより少しだけまじめだったし、急に自分がエロいんだの変態だの分かってんのに訴えてきたりしてさ。本当に変だったのにせんせーってば覚えてないの?」
 
 それは間違えなくあの腐れ先公に違いない・・・!
 信じられないけど、どうやってか俺の体にとりついて勝手なことをナルトに吹き込もうとしたんだろう・・・!
 人のことを散々エロ呼ばわりしやがって!!
 
「でもカカシせんせー、イチャパラは大人になってからって言ってるくせに自分は14歳から読んでたなんてやっぱりエロいってばよ!」
「何!?」
 そんなことまでナルトに・・・!
 大体イチャパラは先生が薦めてくれた本だったんじゃないの!?
 それをすべて俺がエロいって片付けられるなんて・・・。
 しかも、俺がエロいならあんたは親馬鹿を通り越したエロオヤジだろうが!
 あの近親相姦エロオヤジめー!!
 
 カカシが意識を取り戻したときに、なぜかカカシの息子さんは元気だったので、何でだろうとこっそり思っていたのだけれど。
 注連縄のせいだと知ると、カカシはもう一度死んできてほしいぐらいに注連縄が憎たらしかった。
 
 
 ふん、そうだよ。
 どうせ俺とカカシくんは同じでエロくてナルトラブなんだよ。
 そこが共通してるからこそカカシくんみたいなやつがナルトに好かれるんだから、俺のことありがたいと思いなよね。
 しょうがないからナルトに免じて二人暮らしはこれで許してあげるよ。
 
 けれど。
 ナルトを泣かしたら今度は一生とりついてやるからね?
 
 
 
 
 
終わり
 
 
 
いやはや・・・。どうなんでしょうねこれ。


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