一発殴らせろ
 
 
「俺は結構楽な方だよね〜」
 急にカカシせんせーがわけの分からないことを言った。
 まあ、どうせいつものことだから無視しておいた。
「ねえ、聞いてる?ナルト」
 やっぱりいじけたカカシせんせーはわざわざオレの前に移動してきた。
 今日はエロ仙人がいないために、オレはカカシせんせーの家に久しぶりに泊まりにきた。
 いつもだと、仙人が必ずオレをカカシせんせーの家に泊めさせないので、ここぞとばかりにカカシせんせーは泊まれとせがんだ。
 イルカせんせーだと何にも言わないのに、何でカカシせんせーは駄目なんだろ。
「ナルトー!先生いじけちゃうよっ?」
 ・・・まあ、何となく分からなくもないけど。
 このまま無視しつづけると、後々やっかいなので、オレはしょうがなく返事をしてやった。
「聞いてるってばよ、んで、何が言いたいんだってば?」
 カカシせんせーはやっぱり聞いてなかったじゃんか。と言ってまたいじけたけれど、すぐに開き直ってさっきと同じことをしゃべった。
「いやさ、俺はそんなに苦労しなくて済むかなと思って」
「だから、何が苦労しなくて済むんだってば?」
 もっと意味が分かるように言ってほしいってばよ。
「だって普通、お嬢さんをお嫁にくださいとかって挨拶しに行かなきゃいけないところだけど、ナルトなら誰にもそんなこと言わなくて済むからさ」
 カカシせんせーのその言葉に、オレはダブルでむかついた。
 オレはずっと親がいなくて寂しくて苦しんできたというのに、カカシせんせーは簡単にそのことを笑いながら言いやがった。
 しかも嫁だと?
 カカシせんせーの脳みそは春の陽気に誘われてボケてしまったんだろうか。
 オレのどこが嫁になる女の子に見えるのかぜひ知りたいってばよ!
 たまにオレのことを女の子みたいに見てるなとは思ったけれど、まさかこんなにはっきり言うとは思わなかったってば。
 オレのことを馬鹿にしているとしか思えないってばよ!
 
「ナルト・・・?」
 
 反応の無かったオレを不安に思ったのか、カカシせんせーがオレの顔を覗き込むように見てきた。
 
「嫁って、オレってば・・・」
 男なのに。と言おうとしたのに、勝手にカカシせんせーは話し出した。
「嬉しいって?いや〜、やっぱりそういうのは早いほうがいいかなと俺も思ってさ。式はいつ挙げるっ??」
 とっても嬉しそうに言ったところで悪いんだけどさ。
 オレってばかなり不機嫌になってんだけど、カカシせんせー気付いてる?
「あ、でも一応保護者みたいな自来也さんには報告しといたほうがいいのかな」
 まだのんきにそんなことを言ってるし。
 でも、エロ仙人のことが出たのでいい機会だと思って言葉を返してやる。
「そりゃあそうだってば。でもエロ仙人は絶対そんなことは許さないってばよ!」
 嬉しそうにちゃんと言ったのに、カカシせんせーはよっぽど器用な耳をしてるのか、見事に別の意味で理解した。
「大丈夫!そんなに不安にならなくても俺がついてるから安心して。きっと自来也さんを納得させてみせるから!」
 そう言うと、いきなりオレの腕を掴んでどこかへ連れて行こうとした。
「な!?いきなりどこ行くんだってばよ〜!?」
「どこって、当然自来也さんのところへ行くに決まってんでしょ。善は急げだよ」
 それにしても急ぎすぎだってば!
 しかもそれのどこが善なんだってばよ!
「っていうか、嫌だってばよ〜!!」
 まだオレ、12歳なのに・・・。
 じゃなくて同じ男同士で結婚なんて馬鹿げてるってば!
 そんなことエロ仙人に知られたら一生笑いものにされる!
 カカシせんせーがどんなに本気だろうと、絶対に相手にしないし、それどころかオレを馬鹿にしておちょくるのは目に見えてるってばよ。
 カカシせんせー一人が恥をかくのは全然構わないけど、オレも一緒に恥をかくのは勘弁だってば!
 
「ほらナルト!早く行ってこれからはずっと一緒に暮らそう!」
 
 二人で暮らすのはちょっと嬉しいと思ったけれど、エロ仙人に結婚だのなんだのと言うのはやめろっての!
「何でもいいから仙人にそんなこと言うのはやめろってば!」
「いいや、ちゃんと保護者の許しを得ないとね!」
 カカシせんせーはこういう時だけけじめだのなんだの言って、さらにオレを引きずっていった。
「や〜だ〜」
 それでもオレは譲れなくって、引きずられながらもなんとか粘る。
 カカシせんせーはやっと少し正常になったらしく、ちゃんとオレが嫌がってるのに気がついた。
「何でそんなに嫌がるの?ナルトは俺とずっと一緒にいたくないの?」
「そりゃあずっと一緒にいたいけどさ、だからって何で結婚なんだってばよ!?」
「結婚はけじめみたいなもんで、やっぱしときたいっていうか・・・」
 俺もそろそろそういう年だし・・・。
 なんてカカシせんせーがぼそぼそ言ってたけど、無視してオレは自分の言いたいことを言った。
「全然わかんねーってばよ!結婚なんてしなくてもオレたちずっと一緒にいられるんじゃないの?違う?そうじゃなきゃ、結婚しないと一緒にもいられないようなそんなちゃっちい仲なんだってオレは思うってばよ!」
 そんな証がないと一緒にいられないなんて、所詮しれた仲でしかないってば。
 オレとカカシせんせーはそんなんじゃないと思いたいし、そう思ってる。
 けど違うの?カカシせんせー。
 
 
「一応けじめとして結婚しときたかったけど、ナルトにそんな嬉しいこと言われるならもうどうでもいいかも・・・」
 カカシせんせーはそうぼそりと呟いたと思ったら、いきなりオレに抱きついてきた。
「ちょっ、カカシせんせー?」
 照れくささのあまりオレはカカシせんせーを剥がそうとしたけど、やっぱり力の差か抜け出せなかった。
「じゃあ、俺とずっと一緒にいてくれるって誓ってくれる?」
「うっ・・・」
 急にそんなこと言われるとかなり恥ずかしいってばよ。
「ナルト?」
 カカシせんせーの催促にどうしようもなくって、オレは恥ずかしながらもなんとか言った。
「ち、誓うってばよ・・・」
 そうオレが言った瞬間。
 
 ドゴ!!
 
 いきなりものすごい音が聞こえた。
 
 と、思ったら、急にカカシせんせーの腕の力が緩んだ。
「あれ?カカシせんせー?」
 見ればカカシせんせーの頭には大きなたんこぶが出来ていた。
 そして足元には大きな岩の欠片が。
「もしかしてこれって・・・あ、やっぱり。火影の顔岩が一部分だけ取れて落ちたんだってば」
 見上げればオレ達は火影の顔岩のある下にいたらしく、ちょうどなんかの拍子に欠けた顔岩の破片がうまい具合にカカシせんせーの頭にヒットしたらしい。
「そ、それってまさか4代目のじゃないの・・・?」
 カカシせんせーはでかいたんこぶを押さえながらなんとか言った。
「何で分かったんだってば?そう、4代目の顔岩の髪の毛の部分が落ちたみたいだってば」
 欠片は先っちょが尖っていて、なんだか痛そうだ。
「くそ・・・。あの世でも父親面しやがって・・・!」
 なんだか忌々しそうにカカシせんせーは言ってるけど、なんのことかさっぱり分からない。
「でも、ナルトは俺が必ずもらう・・・!」
 カカシせんせーがそう言ったら、どんな偶然なのかまた欠片が落ちてきた。
 今度は倒れてるカカシせんせーの背中にもろにヒットした。
「あの顔岩かなり古くなってるんじゃない?そろそろ補強したほうがよさそうだってば」
「顔岩よりも俺のこと心配してほしいなぁ、ナルト・・・」
 カカシせんせーはその言葉を最後に、涙を流しながら気を失った。
「カカシせんせー、上忍なのに情けないってば・・・」
 しょうがないのでオレはカカシせんせーを背負って、家に帰ることにした。
 
 何となく何かに呼ばれたような気がして振り向くと、自然と顔岩に目がいった。
 髪の毛の先っちょが二箇所切れている4代目火影となんだか目が合ったような気がした。
 
 しかも、どういうわけかその4代目が微笑んでいるようにも見えた。
「?変なの」
 
 まあ、きっと気のせいだってば。
 
 気にせずまた前を向いて歩き出しても、なんだか視線を感じるような気がした。
 
 変なの。
 そうは思うけど、別に嫌な視線じゃない。
 
 それどころか何だか心の中が暖まるような感じがするってばよ。
 
 変だと思いながらも何故だか嬉しい気持ちになって、オレは軽々とカカシせんせーを運んで自分の家に帰るのだった。
 
 
 
 
 
終わり
 
 
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