うだるような暑さが続いていた、そんな日のことだった。
「暑い・・・ってば」
「そうだねぇ」
 俺とナルトは夏の暑さに戦う気力もなく、床に転がっていた。
 ツイてないことに、クーラーが夏の始まりとともに壊れてしまった。
 なので、こんなクソ暑い日だというのに、今は扇風機だけが唯一暑さをしのぐ手段だった。
 俺のほうからナルトのほうへと首を向けていく扇風機が、何だか憎たらしく感じてしまう。
 ナルトも同じことを思っているのか、俺のほうへ向いていく扇風機を睨みつける。
「あづい・・・」
「だねぇ・・・」
 さっきよりも言葉が短くなったが、暑さは当然変わるはずもなかった。
「よその家ではきっと、クーラーがガンガンきいてて涼しいんだろーなぁ」
「だろうねぇ・・・」
 お互いに話すことはなくなったのか、二人してため息をついてしまう。
 何となくテレビをつけてみた。
 余計に暑くなるかもしれないけれど、気がまぎれるかと思った。
 俺の考えたとおり、テレビの音が子守唄代わりになったように、俺は急に眠たくなった。
 こんなにクソ暑いのに、眠い自分が自分ですごいと思う。
 けれど、俺の眠気もクソ暑さも吹き飛ぶような大声がこだました。
「これだー!!」
 ナルトが生き返ったようにそう言うと、死にかかっているような俺の体を揺すりはじめた。
「カカシせんせー!有休とって納涼しに行くってばよ」
「・・・・・・納涼?」
 
 
 溶けかけた脳みそを何とか動かして、暑さでだれる体も何とか動かして、俺は旅行のプランを立てに行った。
 有休は二人ともその日にとることができたので、俺は急いで旅行会社に足を運んだわけだ。
 そして、プランもスムーズに決めることができた。
 場所は木の葉の里から少し離れた高原に決まった。
 宿も豪華な旅館で、しっかり一泊二日とることができた。
 おいしい料理がついて、夜には花火もあって、これ以上ないという計画がたった数時間で立てることができたのだ。
 しかも、旅館は温泉に卓球までできるらしい。
 自分の手際のよさに惚れ惚れしたくなってしまう。
 
 さっそく出発した俺たちだけど、旅館までの道のりでナルトに注意されてしまった。
「スキップしながらオレの隣を歩かないでほしいってば」
 全く、どっちが子供なんだか。
 ナルトがやれやれといった感じですましているので、俺は思っていることを正直に口にした。
「だって、ナルトとこうして二人きりでどこかに行くのって初めてでしょ?そりゃあ浮かれるよ」
 言っている間に、ナルトの手をとって繋いだ。
「・・・」
 そのとたん、急に顔を真っ赤にして黙ってしまう。
 可愛いなぁ・・・なんて考えていたら、顔がニヤけにニヤけてしまっていた。
「・・・カカシせんせー顔が気持ち悪いってばよ」
「ひどいよ、ナルトォ」
 
 
「涼し〜!!」
「里とは大違いだね」
 高原に着くと、涼しい風が吹いていて、とても涼しかった。
「あ、旅館ってあれじゃない?」
 たくさんある旅館のなかで、一際高級そうな旅館を指差した。
 パンフレットの写真で見たとおり、高級そうでいて部屋数がすくなさそうだ。
 人が多いのはうっとうしいので、わざわざこういう旅館を選んだわけだ。
 旅館に入ってみると、予想通り人はあまりいなかった。
「静かな旅館だってばよ」
 ナルトはもっと賑やかなイメージをしていたらしい。
 少しつまらなさそうに、あたりを見回している。
「ほら、ナルト。ここが部屋だって」
 部屋についてドアを開けると、なかなかに広い部屋だった。
 旅館でも洋室を頼んでおいたので、ソファやベッドなどがある。
 さっそく俺はどんなベッドか確認しにいってみる。
「テレビ、大きいってばよ」
 ナルトはテレビを見て喜んでいたけれど、俺はベッドを見てニヤリとした。
 キングサイズのベッドで、引き出しがついていた。
 その引き出しの中を見て、俺はよりニヤついてしまった。
「カカシせんせー!遊びに行こうってばよ」
 ナルトはせっかく来たのだから、楽しまなきゃ損だと思ったらしい。
 それは俺ももちろん同感だ。
 俺は引き出しの中のモノをポケットに入れて、ナルトに提案した。
「じゃあ近くにある美術館でも行く?」
「行く行く!」
 途中で昼食をとりながら美術館を楽しんだ。
 しかし、ナルトがすぐに美術館に飽きてしまったので、近くにあった湖で遊んだりした。
「ナルトーそろそろ晩御飯食べに行こうよ」
 夜からは花火があるので、それに間に合うように外に行かなければならない。
 すっぽんぽんで泳いでいるナルトは、当然鼻血ものだった。
 しかし、計画通りに予定を進めていかないと、花火が見れなくなってしまう。
「カカシせんせーカニ捕まえたってば」
 ザバッと顔を出したかと思うと、のんきにそんなことを言う。
「ナルト・・・。ご飯食べに行くつもりないなら、このままここでヤッちゃうよ?」
 花火見ながらエッチってのもいいかもね〜。
 なんて言うと、ナルトはさっさと湖から出て、ささっと着替えた。
「さ!急ぐってばよ」
「・・・」
 
 旅館に戻って食堂に行くと、ナルトはすぐにラーメンを注文してしまった。
「ナルト。たまには野菜とかも食べようよ」
「え〜」
 そんなのばかり食べていたらぶくぶくに太っちゃうかもしれないよ。
 なんて言いながら二人で食事をしていると、急に後ろから声をかけられた。
 振り向くと、自分よりも少し年上の女三人が興味深く俺たちを見ていた。
「珍しい組み合わせですね。親子で旅行なんですか?」
「あ、いえ。そうじゃないんですが・・・」
 恋人だと言いたかったけれど、一応濁しておいた。
「カカシせんせー、この女の人たち誰?」
「先生?教師なんですか」
 三人のうち一人が嬉しそうに言ったのをきっかけに、俺は質問攻めにあった。
 どういうことを教えているのか、どこから来たのか、歳はいくつか、趣味は、好きな女のタイプは・・・と、まるでおかしな尋問にでもあっているような気分になってしまった。
 まともに答えていないのに、三人は構わずに話し続ける。
「・・・」
 ナルトには全く話を振らないので、さっきからナルトは黙りっぱなしだ。
「そうだわ。もうすぐ花火がはじまるから、ご一緒に行きませんか」
「いえ、俺は・・・」
 冗談じゃない。俺はナルトと二人きりで花火を見るつもりなんだから。
 きっぱり断ろうとしたところで、バンッと大きな音がした。
 見れば、ナルトがテーブルに両手を思いっきり叩きつけたようだ。
「冗談じゃないってば!!」
「きゃっ」
 女はみんな、ナルトの大きな声に驚いたらしい。
「カカシせんせーはオレと二人で花火見ることになってんの!関係ないやつがしゃしゃり出てくんなってばよ」
 ナルトは大声でそう言うと、手のひらに拳を当てた。
「な、なんなのよ」
 そこで女たちはそそくさと去っていったので、俺はほっと一安心した。
 しかし、ナルトも同じことを考えてくれていたなんて・・・。
 やきもちまで妬いてくれるなんて、俺は幸せ者だよ。
「じゃあ二人きりで花火見に行こっか」
「・・・」
 ご機嫌で話しかけると、ナルトはまだ不機嫌な顔をしていた。
「ナルト?」
「カカシせんせー、なんでそんなに浮かれた顔してんだってば」
「そりゃあナルトがやきもち妬いてくれたから」
 嬉しそうに言うと、ナルトは真っ赤な顔をして照れる・・・はずなんだけど、
「ふざけるなってば!」
 怒られてしまった。
「オレはカカシせんせーがはっきり断ろうとしなかったからキレたんだってばよ」
 ナルトはそれだけ言うと、食堂から走り去ってしまった。
「要するにやきもちなんじゃ・・・」
 思わず突っ込んでしまったけれど、それどころじゃない。
 俺は慌ててナルトを追いかけていった。
 
 
「カカシせんせーのアホ。バカ。マヌケ。イチャパラオタク。フシンジンブツ。ジドウワイセツコウイハンザイシャ」
「どっからそんな言葉仕入れてきたの・・・」
 ナルトの気配を追って探したら、すぐ近くの森にいた。
 見つけたと思ったら、しゃがみこんでそんなことを言っていた。
 正直、的確すぎて傷ついた。
「・・・アスマ先生やエロ仙人からだってば」
 あいつら・・・。
「っつーか、何で追いかけて来たんだってば」
 ナルトはこっちを見ようとはしてくれず、ムスッとした口調でそう言った。
「ナルトと花火を見るためだよ」
 すぐ隣に座って、ナルトの顔を覗き込んだ。
「ごめんね?」
「・・・謝るくらいなら、きっぱり断ればよかったんだってばよ」
 言い訳なんてしたら余計にこじれそうだったので、素直に謝る。
「ごめんね」
 ナルトの手をとると、ナルトも手を握り返してくれた。
「も、いいってば」
 俺に寄り添って、ナルトはそう言ってくれた。
本当はやきもち妬いてたんだってば
「え?」
 花火が大きな音をたてて打ちあがったので、ナルトが何て言ったのか聞き取れなかった。
「今、何て言ったの?」
 少し声を大きくして聞くと、ナルトも大きな声でこう返した。
「何でもないってばよ」
 しっくりこない顔をしていたら、ナルトからチュッとキスしてくれた。
 ・・・ま、いっか。
 こうして二人で花火も見れたことだし、まあ気にしないでおくか。
 
 でも、大事なことがひとつだけあるんだよね。
 花火が終わりかけの頃、俺はおもむろにナルトに手を伸ばした。
「わ!どこ触ってるんだってば」
「まあいいじゃない」
「よくない!」
「ちゃんと旅館からコレもらってきたから、外でもできるよ」
 そう言ってポケットから取り出したのは、コ○ドーム。
 てっきりそれを見て、ナルトは安心して俺に身を委ねてくれるかと思ったんだけど。
「こんな外でとんでもないってば!しかもそんなモノ持ち歩くなってばよ」
 俺の手からコン○ームを奪うと、遠くへ投げ捨ててしまった。
「甘いよナルト。まだまだあるんだから」
 得意げに言うと、ナルトは俺のポケットから全部取り出して捨ててしまった。
「ひどいよ、ナルト〜」
「ひどいのはどっちだってば!」
 怒っているけれど、それでも俺の手を繋いでいてくれた。
 まだまだ夜はこれからだよね、ナルト?
 
 
 
 
 
終わり

一応裏で続き書きます。


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