拒絶反応
 
 
「くそっ・・・!ついにこの日がやってきてしまった・・・」
 朝起きるなり、カカシは悔しそうにそう呟いた。
 今日という日が来ないまま、一気にその次の日になるのを祈りながら寝たが、やはり日付は6月20日だった。
 恨めしそうにカレンダーを睨みつけながら、一年前を振り返る。
 去年はまんまと騙されて、あげく夜中に叩き起こされて、散々な日だった気がする。
 「気がする」というのは、大体がその日一日あまり意識がなかったせいなんだけど・・・。
「それというのも、全てあいつのせい!」
 ああ、幽霊から身を守れるシェルターがあったら入りたいよ。
 武器でも大歓迎だ。
「んん・・・」
 隣で気持ちよさそうに寝ているナルトが身じろぎしたが、カカシは気づく余裕もなさそうだった。
 幽霊から身を守る方法・・・何かないだろうか。
 せめて御札とかを家中に貼っておけばよかった。
 厄払いや魔よけのお守りとかもこの日のために用意しておけば・・・。
『・・・まるで悪霊みたいなことを言うね』
「!!」
 ずざざ!とカカシは勢いよく後ずさった。
 そうして薄ぼんやりとした人影を目にすると、手裏剣やクナイなどを慌てて手にする。
「やはり現れましたね、先生・・・!」
『そりゃあそうだよ。なんてったって、今日は天下の父の日だからね』
 そこで薄ぼんやりとした人物、注連縄はニヤリと笑ってみせた。
『今回こそはナルトにおはようとおやすみのキッスをしないとね』
「・・・!」
 去年はおやすみのキッスだけだったのに・・・!
 論点がずれつつも、カカシは注連縄から守るようにナルトを抱きしめた。
『あー!!俺のナルトに何してんのカカシく〜ん!』
「うるさいわい!!あんたなんかに大事なナルトを渡してたまるか!今年は絶対に乗り移らせてやらないから!」
 力いっぱいに威嚇して言うカカシに対して、注連縄は余裕といった感じでこう言った。
『もうカカシくんなんかの体には乗り移らないよ。代わりにもっと乗り移りやすそうなのを見つけておいたんだ』
「な・・・!?」
『これは宣戦布告とナルトの可愛い寝顔を見に来ただけなんだ。それじゃ、ひとまず帰るよ』
 注連縄はそう言うと、すぅっと消えてしまった。
「代わりの体?」
 とてつもなく嫌な予感がして、カカシは知らずに身震いしていた。
「と、とにかくナルトを起こして二人で対策を立てなきゃ・・・」
 そうしてカカシがナルトに手を伸ばしたところで、急に遠くから地鳴りのような音が聞こえてきた。
「・・・?」
 地鳴りは段々と二人のいる寝室へと近づいているようだった。
 ドドドという音が聞こえたかと思うと、バンッという音と共に何かが部屋に飛び込んできた。
 そして、その「何か」は一瞬にしてナルトの隣に移動していた。
「おはようナルト」
 「その何か」はナルトに話しかけると、ナルトの頬に自分の唇をあてた。
 チュッ・・・と音がしたと同時に、カカシはやっと動くことができた。
「な、な、な、何してんの、サスケェー!!!」
 まるでナルトの王子様のように隣に跪き、とても愛しそうにナルトを見つめているサスケがいた。
 あのヘタレNO.1のサスケが、朝っぱらからこんな大胆な行動に出られるなんて、寝ぼけているとしかカカシは思えなかった。
「何っておはようのキスだけど?」
 平然と言い放つサスケに、カカシはピンときた。
「ま、まさか・・・先生?」
「フン、やっと気づいたんだ?」
 ニヤリと笑う注連縄に、カカシは二重でムカッときてしまう。
 先生に馬鹿にされるのはもちろんだけど、あのサスケにさえ馬鹿にされてる気がしてかなりムカつくんだけど・・・!
 カカシは自分とサスケのレベルが同じだということに気がついていないようだ。
「この子、よくナルトを見ながらボンヤリしてたから、ちょうどいい器じゃないかなと思ってさ」
 今朝も起きてすぐにナルトの写真見て、うっとりしてたんだよ〜。
 そんな注連縄の言葉を聞いて、カカシは思わずサスケに同情してしまう。
 大蛇丸はおろか、先生にまで器扱いされるとは・・・。
 つくづく哀れなやつ。
 しかし、爽やかに微笑むサスケの表情の似合わないことといったらない。
「さ〜起きて、ナルト!お父さんだよ〜」
「をえっ!」
 サスケが優しく「お父さんだよ〜」だなんて、カカシはあまりの気持ち悪さに口から何か出かかった。
「んん?」
 注連縄に揺すられて、ナルトはやっと目が覚めたようだ。
「おはよう、ナルト!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・サスケ?」
 目を開けたら、いきなり笑顔満開のサスケが飛び込んできた。
 まだ変な夢でも見ているのかと思って、ナルトはまた布団の中に潜っていった。
「・・・・オヤスミ・・・・」
「コラ、ナルト!もう10時なんだから起きなさい」
 それでも注連縄に揺すられて、しょうがなくナルトは勢いよく起き上がった。
「っつーか、それ何のつもりだってば、サスケェ!」
「それ?」
 きょとんとするサスケに、ナルトはビシッと指をさしてこう言った。
「そのらしくないしゃべり方!態度もなんかいつもと違うし、何よりいつも以上に偉そうだってばよ」
 そこで注連縄は、自分がサスケの体に入っていたことを思い出した。
「あ、ああ・・・これは・・・そう!罰ゲームだよ。ジャンケンで負けたほうが今日一日ナルトの父親をするっていう」
「はァ?」
 サスケが罰ゲーム?しかもジャンケン?
「と、いうわけだから今日一日はずっとナルトの父親になるから」
 キリッとした顔をしてナルトにそう言うと、すぐに台所へ向かっていった。
「さ、カカシも手伝えよな」
 ぼーっと突っ立っていたカカシに、注連縄はわざと名前を強調して呼んでみせた。
「な!」
 カカシが注連縄に文句のひとつでも言おうとしたところで。
「あ、カカシせんせーいたんだ」
 などとナルトから言われてしまったので、カカシは文句を言う元気もなくなってしまった。
 
 
「遅いぞ、カカシ
「二重にムカつくからやめてくれません?」
 カカシが台所へ行くと、注連縄はもう料理を作り終えてしまっていた。
「どうでもいいけど、このご飯誰が炊いたの?」
「ナルトだけど」
 そこで注連縄はわざとらしくため息をついてこう言った。
「あのねー。あんまりナルトに頼りっきりだと、いつかナルトに見放されちゃうよ?」
「そんなことあるわけないでしょ」
「まあカカシ君が見放されたらこっちとしては好都合だから、そうやって自信満々でいられてもいいけどね」
 注連縄はそこまで言うと、作った料理をさっさと運んでいった。
「さ、ナルト!ご飯だぞ」
「これ、サスケが作ったの?」
「もちろんだ」
 ナルトは驚いたが、とりあえずサスケが作ったという味噌汁をすすってみた。
「!おいしーってばよ」
「まあな。オレはどっかの誰かと違って、ちゃんと家事を両立するべきだと考えているからな」
 そこでわざとらしく自分を見てくる注連縄に、カカシはむっときた。
 カカシがまた注連縄に何か言おうとしたところでナルトがしゃべった。
「朝から納豆もついてくるなんて、久しぶりだってば」
「?ナルトが朝ごはんを作ってるんじゃないのか」
「うん、そうだけど。朝から納豆なんて贅沢かなって。カカシせんせーが稼いでくれたお金がほとんどだから贅沢しちゃ悪いかなって思ってさ」
 注連縄はそんな奥ゆかしいナルトに感動しつつも、カカシが憎らしかった。
「そんな遠慮はいいんだよ!ナルトはその代わり家事をほとんどしてるんだから」
 あ〜あ。ナルトってば、本当にカカシ君なんかのことが好きなんだね・・・。
 そんな風に考えてあげるほど価値があるようにも思えないのにさ。
 注連縄が心の中でしょんぼりしていると、ナルトが関心したように言った。
「サスケって案外いいやつなんだぁ」
 ナルトに尊敬のまなざしで見つめられて、注連縄はすぐに舞い上がったが、
「ぐほ!?」
 食べていた納豆が喉にからまってしまったようだ。
「どうしたってば、サスケ!」
「ゲ、ゲホッ・・・。いや、納豆が喉につまったらしい」
「バチが当たったんだよ」
 咳き込んでいるサスケに、甲斐甲斐しくその背をさするナルト。
 そんな状況を見て、カカシは思わず口を挟んでいた。
「バチは悪さしないと当たらないってば!」
「してるから言ってるんじゃん・・・」
 ボソっと言ったカカシだが、ナルトはちゃんと聞き取ったらしい。
「サスケが何したんだってば!今日のカカシせんせーおかしいってばよ」
 サスケではなくて、悪さをしたのはそのサスケに乗り移った先生なんだけど・・・。
 なんて言いたくても、さすがにそれは言わないようにした。
 説明も面倒だし、なにより感動の親子の再会なんてされちゃ、それこそつまらない。
「カカシせんせーは食器片付けたりしててね!オレ、今日はサスケと遊びに行ってくるから」
「「ナ、ナルト!?」」
 カカシも注連縄も、ナルトの急な行動に驚いてしまう。
「今日一日父親やるんだろ?なら、一緒に外へ遊びに行くってばよ」
 そう言って注連縄の手を引くと、今度はカカシにこう言った。
「カカシせんせーは今日ぐらい家事をしてるってばよ」
 ナルトはビシッと言うと、すぐに注連縄と出かけてしまった。
「そ、そんな・・・」
 
 
 まさかナルトからパパを誘ってくれるなんてっ・・・!
「サスケー、ここでちょっと食べてかない」
 注連縄が浮かれていると、ナルトが喫茶店の前で自分を呼んでいた。
「あ、ああ!」
 これは父と子のふれあいコースよりもデートコース!?
 ナ、ナルトってば、パパ困っちゃうじゃないかv
 半分スキップをしているような足取りで、注連縄はナルトのそばへ行った。
「う!?」
 店に入ったとたん、注連縄は体に異変を感じて前かがみになってしまう。
「どうしたってば?サスケ」
「い、いや・・・。なんだか一瞬吐き気が」
 うぷ・・・とか言いながらも、しっかりテーブルについてメニューを見はじめた。
「顔色も悪いし、やっぱりここはやめて別のところにするってば?」
「いや!オレは甘いもの大好物なんだ。それにせっかくナルトが誘ってくれたんだから、勿体ないしな・・・あ、デラックスチョコレートパフェ」
 注連縄はテーブルにかじりつくようにしてナルトに言うと、店員が来たのですかさず注文した。
「ならいいけど・・・。オレってばスペシャルストロベリーパフェね」
「かしこまりました」
 ナルトが注文すると、店員は一瞬冷たい目でナルトを見てからすぐに去っていった。
「・・・まだあんなふうにナルトを見る人間がいるんだな」
「ん?」
 俺のせいだ。
 やむを得ないとはいえ、九尾をナルトに封印してしまった。
「四代目火影があんなことしたから」
 懺悔でもするかのように、注連縄は自分のことを非難しようとした。
「って、サスケってばオレの腹ん中のモン知ってたってば?」
 そこで、サスケはナルトに九尾が封印されているのを知らなかったことを注連縄は気がついた。
「あ、いや。よくは知らないんだ。ただ、ナルトが里の人間に嫌われている原因が四代目にあるってことくらいは知ってる」
「ふーん。でも別に四代目が悪いわけじゃないってばよ」
「え?」
 ナルトも同意するものだとばかり思っていたので、注連縄は思わず体が前のめりになった。
「でも四代目が明らかに悪いだろ」
「そんなことないってば。四代目は里を守るために自分の命を張ってオレに封印を施したんだってばよ。そんな立派な人を恨むなんて、するわけないってば」
 晴れやかな笑顔で言うナルトが、注連縄にはとても眩しく見えた。
「それにオレってばそんな四代目を尊敬してるんだ」
「・・・!」
 ナルト・・・。
「デラックスチョコレートパフェのお客様」
 店員が注文した品を運んできた。
 けれど、注連縄は感動のあまり周りの音を聞く余裕さえもなくなっていた。
「あ、サスケに」
「かしこまりました」
 ナルトが気を利かしても、注連縄は気づいちゃいなかった。
 涙が出そうになって、なんとか堪えきれたときに気がついた。
「あれ?いつの間にパフェが」
「ちょっと前に来たってばよ。呼んでも気がつかなかったから、オレってば先に食べちゃってるよ」
「わ、悪い」
 慌ててスプーンを手に取り、チョコがたっぷりついたクリームをすくった。
 ・・・しかし、ナルトが俺のことをそんな風に思っていてくれたなんて・・・。
 神様がいたら感謝したいくらいだよ。
 注連縄がまさに神に祈ろうとしたときだった。
「ゴファッ!!」
「!サスケ」
 またむせてしまったのか、注連縄は激しく咳きこんでいる。
 ぐほぁ!い、一体何だっての!?
「!?」
 こ、この体が浮くような感覚は・・・まさか。
 俺、この子の体から出てしまっていきそうになってる!
「させるものかぁ!・・・ごふぅっ!!」
 思わず力んでしまったのが良くなかったようだ。
「サ、サスケェ!?」
 注連縄、もといサスケは、吐血をして倒れてしまった。
 
 神様のアホー!!
 
「ん?今なんか声が聞こえたような」
 そばにいるのに、ナルトに気遣ってもらえない寂しさか、サスケは一瞬だけ目を覚ました。
「ここは・・・どこだ?」
「あ、大丈夫?サスケ」
「く、口の中が・・・・・甘っ」
 サスケはそれだけ言うと、また気絶してしまった。
「何なんだってば・・・」
 
 その後ナルトが家に帰ると、半べそをかきながら一生懸命家事をやっていたカカシが飛びつく勢いで出迎えたらしい。
 すぐに許してあげたナルトだったが、ふいに何か聞こえた。
「ん?何か声が聞こえなかった?カカシせんせー」
「・・・さあ」
 カカシにははっきり聞こえてしまった。
「おやすみのチューがまたできなかったァ!!」
 ああ、今年の晩も睡眠妨害させられるわけね・・・。
 
 
 
 
 
終わり

サスケは納豆と甘いものが確か苦手だった・・・ハズ。
題名はそこから持ってきました。
 
 
戻る