先生あのね
 
 
 何でナルトは毎日俺に言ってくるんだろう。
「せんせー!今日ね、イルカせんせーに会ったんだってば!」
 知ってるよ。
「でね、その後サスケに会って、なぜか一緒に一楽に行ったんだってばよ」
 もちろん知ってるよ。
 ・・・そんなムカつくこと、俺が見逃すハズないでしょ。
「そのあとは二人で修行してさー」
 サスケのヤツから生意気にも誘ったんだったね。
「で!そのあと組み手したら、何とオレってばサスケに一回だけ勝ったんだってばよー!!」
 うん。ちゃんと見てたよ。
 ずーっと見てるから分かるしね、お前が段々強くなってるってことはさ。
 でも、俺はいつもナルトの頭を撫でながらこう言うんだ。
「そっかー。よかったね」
 
 何でナルトはいつもこうやって俺に「報告」してくるんだろ?
 だからといって、「知ってる」なんて言えないけどさ。
 
 
 
 ナルトとカカシが付き合いはじめて数ヶ月。
 最近のナルトは毎日カカシの家に行き、「今日あった出来事」を話してくる。
 カカシが知っていようが知っていまいが、お構いなしだ。
 「今日あった出来事」の話の中にカカシも加わっていたら「知ってるよ」とは言えるが、まさか他のことでもそんなことは言えない。
 もし、知ってるなどと言ってしまえば、一日中ナルトのことを見ているのがバレてしまうからだ。
 
 そんなことがバレたら、ナルトに変態だって思われて軽蔑されるかもしれないしね。
 
 と、いうカカシの手遅れな心配があって、カカシはいつもナルトの「今日あった出来事」に相槌を打つのだった。
 しかし、知っていることなのにそれをばれないように相槌を打つことが難しいらしく、少しでも気のない返事をしてナルトを怒らせてしまってはいけないようだった。
 ナルトがカカシを見限って、他の人間・・・特にカカシの天敵であるサスケなどに「報告」にいかれたら、とてもナルトが無事に帰ってくるとは思っていないのだ。
 一番危険な自分のことは棚に置きつつ、カカシはナルトにまた相槌を打つ。
 
 
 ナルトの「報告」はまだ続いていて、カカシは少しだけ疲れてきた。
「カカシせんせーこれは知らないと思うけど、今日の任務のときにサクラちゃんと行動してたらいいもの発見したんだってば!」
 知ってるよ、「野いちご」でしょ。
「なんと、野いちごがたくさん生ってる場所見つけたんだってば!これから食べ放題だってばよ」
「へえー。そうなんだー」
 俺以外のやつと二人っきりになれば、俺はちゃんとナルトに危険がないか見張ってるんだから、それくらいのことは知ってて当然なんだよ。
「・・・何だかせんせー、どうでも良さそうだってばよ」
 話題を知っている余裕のせいか、つい油断して適当に返事をしてしまったことに気がついた。
 いじけたようにナルトはそう言うと、カカシの逆方向を向いてしまった。
 後悔しかけたカカシだったけれど、拗ねたナルトが可愛くて浮かれてしまう。
 きっと自分が謝るまではこっちを見るつもりはないんだろう。
 ナルトの背中がそう物語っていた。
「・・・何笑ってんだってば、カカシせんせー」
「ごめんごめん」
 そんなナルトの姿を見ていたら、いつの間にか笑ってしまっていたようだ。
 それでも笑いは引っ込まなくて、カカシは笑いながら謝った。
「も〜!カカシせんせーなんか嫌いだってばよ」
 ナルトはもっと拗ねてしまったようだ。
「なんでもカカシせんせーに知ってもらいたいからこうやって言ってきてるのに・・・」
 ぼそっとさびしそうにそんな可愛いことを言う。
 
 何?それって俺には全部自分のことを知ってもらいたいっていうこと?
 俺にいちいち報告してきてくれたのはそういうこと?
 
「ナルト・・・」
 カカシが声をかければ、ナルトはびくっと反応した。
「も、もう話しかけてくんなってば!オレってばせんせーのことなんかもう嫌いなの!」
 耳を真っ赤にして言うナルトを見て、カカシは自分がナルトに気持ちを伝えたときのことを思い出した。
 
 そういえば、あの時もナルトはこんな風に耳も顔も真っ赤にしていたなぁ。
 あの時とは違ってナルトは今は俺のことを「嫌い」って言ってるけど。
 
「俺は好きだよ」
 カカシがそう言うと、ナルトはまたびくっと反応した。
 後ろを向いていて表情は分からないけれど、耳の赤みはさっきよりも増していた。
「カカシせんせーはずるいってば・・・」
「俺は大人だからねー」
 後ろからそっとナルトを抱きしめると、カカシはそう言った。
「・・・でもナルトが思ってる以上に俺はナルトにまいっちゃってるんだから、ずるいことぐらいさせてよ」
「そ、そんなのわけ分かんないってば!」
 カカシにそんなことを耳元で言われてしまっては、ナルトは怒る気が失せてしまう。
「つーか、卑怯だってば・・・」
 くやしくて、ナルトはそんなことをぼそっと言った。
「ナルトにそんな風に言われたら、俺の方こそ卑怯だって言いたいけど?」
 そう言って、ナルトのうなじのあたりにキスをすると、ナルトはムードをぶち壊すほどの大声で言った。
「やっぱりカカシせんせーのほうが卑怯だってばー!!」
 これ以上赤くなったら何色になってしまうんだと心配するほど、ナルトの顔は真っ赤になってしまう。
「そうかなぁ・・・。この状態、俺にとってかなり拷問に近いんだけど」
「!?何わけ分かんないこと言ってんだってばよ?」
「いやー、いいよ。気長に待つからさ」
「?」
 小さく首を傾げるナルトが小動物みたいで、カカシは少しだけよこしまな欲情が引っ込んだみたいだった。
「ナルトが自分のことを全部俺に知ってほしいって思ってくれてるのを知って、今のところ満足してるからね」
 近いうちにナルトの「全部」をもらうつもりだけど、今はそんな気持ちだけでも満足できる。
 カカシはそんな思いからそうやって言ったけれど、やっぱりナルトは理解できなかった。
「そっかー!よかった。今日あったことを親に話すのは子供にとって大切な役目だって前に聞いたからさ」
「・・・へっ!?」
「そうなると、やっぱりカカシせんせーに話さなきゃ!って思ったから、オレの考えがあってよかったってばよ」
「ちょ、ちょっと待って」
 どんどん話すナルトについていけなくて、カカシは両手を前に出しながらナルトを止めた。
「親に話すのが子供にとって大切な役目って・・・」
「うん。イルカせんせーがそうやって教えてくれたんだってばよ」
「い、いやそうじゃなくて・・・」
 だったら何でイルカ先生に話さない?
 っていうか、つまりナルトは俺のことを・・・。
「お、俺ってナルトの何だっけ・・・?」
「担当の教師だってば!」
 当たり前だといった感じで言うナルトに、カカシはがくりとしつつもまた希望を持って訊ねた。
「そ、それ以外で言うと、もちろん恋・・・」
「親だってばよ!!」
 元気よく言ったナルトは、「だからこうして報告してんじゃん」とでも言いたげだった。
 その瞬間、カカシから血管のキレる音がした。
「じゃあ全部知ってほしいっていうのは、恋人としてじゃなく親としてってことで、艶っぽさなんてカケラもなかったってこと!?」
「つや・・・?よく分かんないけど、親じゃダメなの?」
 心配そうに聞いてくるナルトが可愛くって、カカシはぐらついた。
 
 っていうか、これ演技じゃないの!?
 
 カカシがそう思ってしまうほど、ナルトの聞き方はカカシにジャストミートしたようだ。
 しかし、カカシはぐらつく決心を振り切るようにして叫んだ。
「ダメー!!」
「でもさァ・・・」
「ダメなものはダメ!・・・そこまで言うんなら俺が分からせてあげるよ!!」
 カカシはそう言うと、すかさずナルトをお姫様抱っこして寝室へと連れて行ってしまう。
「ぎゃ〜!何すんだってばー!」
「もう、気長に待たないって決めた!」
「何言って・・・」
 ナルトが言いかけたところで、カカシは戸を閉めてしまった。
 
「っぎゃ〜!!」
 
 ・・・ナルトは恥ずかしくて恋人と言わなかったのだけれど、カカシがそのことをナルトに教えてもらえるのはいつになるのだろうか。
 
「カカシせんせーなんか嫌いだってばよー!!」
 ・・・当分先なのは間違いなさそうだ。
 
 
 
 

終わり
 
ほのぼのギャグ。
カカシの台詞がこっそり書いたロイエド小説のロイとかぶってる気がしたけど、気のせいだ。
・・・ということにしておきます。

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