月と雲 1
 
 
 今日は休日。
 といっても忍にはあまり関係のない日だった。
 現に今ナルトたちは任務の真っ最中だった。
「あ〜あ!こんなに天気がよくて気持ちのいい日はデートしたいところよね」
 今日の任務は里中のごみ拾い。
「それオレも考えてたとこだってば!やっぱサクラちゃんとオレってば気が合うってばよ〜」
「私はあんたなんかと気があっても少しも嬉かないわよ!」
「ふん・・・」
 サスケが二人のやりとりにお決まりのように一言言うと、今度はまたカカシがお決まりのように声をかけた。
「お前ら遊んでないでちゃんと任務しろよ」
「「だったら先生も手伝え!!」」
 いつものようにナルトとサクラのコンビネーションを見せつつ、今日も穏やかな一日が過ぎていこうとしていた。
 が、しかし一人だけこんな穏やかな日に似合わない考えをしている人間がいた。
「カカシせんせーってば、ぼーっとしてないで手伝えってばよ」
「正確にいうと俺の任務じゃないから駄目。自分でやりな」
 カカシはそう言って、相変わらずにこにことナルトを見るだけだった。
 ナルトはプクっとむくれて大人しく作業に戻った。
「・・・」
 一見平和そうに見える光景なのだけれど、一つだけ穏やかでないものがカカシの目線だった。
 じーっとナルトを見つめて、細かい動作を一つたりとも見逃さないかのように隙がなかった。
 そしてその視線は熱くて恋焦がれるものの目線そのものだった。
 
 何だってこんな子供のことが好きなのかねぇ・・・。
 最初はただのうるさいガキだと思っていたのにさ。
 気がつけば目で追っていた。
 
 「追っていた」というか今現在もしっかり追っているのだけれど、カカシも見られているナルトさえも気がついていなかった。
 ここまではいつもと変わらない平和な日常だったけれど、今日は少し様子が違った。
 
 思い切って今日・・・。
 ナルトに俺の想いを言ってみようか。
 もしかしたら笑顔で俺のことを受け止めてくれるかもしれないし。
 ナルトのことだからうまくだましてヤっちゃえば、手篭めにできるかもしれない。
 ヤるなら・・・じゃない。告白するなら今日だ。
 
 何を根拠にそんなことを考え、信じているのかはわかりかねないけれど、カカシは決心してしまったようだ。
 さらにナルトを見つめる目は怪しく光っていた・・・。
「じゃ、今日の任務はここら辺で終わろうか」
「カカシ先生にしては珍しいわね」
 サクラが少しだけ不信がった目でカカシを見たけれど、カカシは当然何もないそぶりをして解散を命じた。
「やったー!今日はすぐに家に帰るってばよ」
 うきうきしながら一番最初にナルトは解散してしまった。
 てっきり早く終わったからラーメンでも奢れだなどと言うのかと思ったのだ。
 予想外のナルトの行動に戸惑いつつも、カカシはすぐさま追いかけていった。
「サスケく〜ん一緒に帰りましょ」
 ナルトを追いかけるカカシを見て、サスケも追いかけようとしたときにサクラに声をかけられてしまう。
 それどころか腕を信じられない強さで掴まれて逃げ出せなかった。
「オレは用事があるんだ・・・!」
 引きずろうにもどれだけ踏ん張っているのか、なかなかサクラはその場を離れてくれない。
 それどころか逆にサスケを引っ張っていってしまった。
「ナ、ナルト・・・」
 サスケがそう言ってむなしく手を伸ばしても、誰も聞いてくれやしなかった。
「さて!せっかくだしデートでもして帰ろっか」
 
 
 サスケがサクラに連れて行かれた頃、ナルトはカカシにつけられているのも気がつかないで上機嫌で家に帰っているところだった。
 
 しかしまあすぐにあいつは成長するなぁ。
 相変わらず俺の気配に気がつけないけれど、走る速さはまた一段と速くなった。
 気長にナルトが大きくなるまで待ってたら無理やりナルトをどうにかするなんてできなさそうだ。
 
 物騒なことを考えながら、カカシはナルトに声をかけることにした。
「う、わっ!?」
 けれど、カカシはその前に走っているナルトの目の前に登場してみせたので、ナルトはいきなりのことに驚いてそんな声をあげてしまう。
 カカシにぶつからないように何とか急ブレーキをかけたナルトだったけれど、踏ん張りがいまいち足りなかったのかカカシの胸元にぽふっと体が当たってしまった。
 それをいいことにカカシはすかさずナルトを抱きしめてしまう。
「な、な、ななんだってばカカシせんせー」
 どれもこれもあまりに急なことでナルトは混乱してしまっていた。
 腕の力をより強くして、カカシはナルトに言った。
「いやぁ。ナルトに色々話したいことがあってさ」
「話すったってこんな格好じゃ無理だってば」
 耳を赤くしてじたばたするナルトを見て満足したカカシはすぐにナルトを放してやった。
 
 こんな可愛い反応をしてくれるなんて、俺たちって両思いなんじゃっ?
 
 カカシは完全にそう思い込んでしまったようで、自信満々に言いはじめた。
「ナルトって俺のことどう思ってるの?」
 すぐにでもキスに運べるように、カカシはナルトにとても近い距離でそうたずねた。
「どうって・・・」
 あまりに距離が近くて気まずいのか、ナルトはカカシが近づいた分だけ体を仰け反らせてそれだけ言った。
「何か一つはあるでしょ?格好いいとか、頼りになるとか、尊敬するとか」
 どれもナルトに言って欲しいことばかり並べて例えてみせた。
 けれど、ナルトはそんなカカシの期待を見事に裏切った。
「なんだってば、ソレー!!そんなこと思うヤツいるわけないってばよ!カカシせんせー自信過剰すぎててかえって面白いってばよ」
 大きな声で笑ったかと思えば、目に涙をうっすら浮かべ、苦しそうに腹を抱えてそう言った。
 カカシは何も言えずにぼうっと突っ立っているだけが精一杯だった。
「オレってば今日はどうしても見たいテレビあるから今日はせんせーに構ってられないんだってば。だから悪いけどまた今度相手してやるってばよ」
 えらくぞんざいな言い方に、当然カカシが何も思わないはずがない。
 ナルトがそれだけ言ってカカシの前から去ろうとしたとき、カカシの手がにゅっと伸びたようにナルトを捕まえた。
「ぐえっ!何するんだってばカカシせんせー」
 上着の裾を掴まれたようで、首が絞まったナルトは悲鳴をあげてカカシを非難した。
 けれど、当然カカシはナルトの言い分など聞いちゃいなかった。
「その態度は何?まさか俺の気持ちを知っててわざとそういう態度にでてるわけ?」
 だとしたらなんて子憎たらしいんだろう・・・!!
 などとカカシは思いながらナルトの答えを待つけれど、ナルトはとっても面倒くさそうに返事をした。
「カカシせんせーの気持ちぃ?別にそんなもん知らないし興味もないってばよ」
 だからせんせーは自信過剰なんだってばよ〜。
 ナルトはよけいカカシを煽ることを知ってるのか知らないのかそんなことを言ってのけた。
「お前ねぇ・・・」
 そんなことを言うやつには無理やりすごいことやっちゃうゾ?
 などととんでもないことをカカシは思っていた。
「ぐわ!!わき腹とか触るのやめろってばよ」
 ナルトを持ち上げて自分の家に連れて帰ろうとしたカカシだったけれど、ナルトの色気のない悲鳴でそんな気分は削がれてしまう。
「もうちょっと色気のある声とかだそーよ・・・」
「色気って何わけの分からないこと言ってるんだってば!」
 カカシせんせーってばいつも以上に変だってばよ!?
 ナルトはそう思いながら今度こそカカシから離れようとするが、やっぱり逃げることはできなかった。
「まだナルトの正直な気持ちを聞くまでは帰さないよ」
「正直な気持ちも何も、今言ったことが正直な気持ちそのものだってば」
「そんなわけないでしょ?本当は俺のこと格好いいとか、頼りになるとか、尊敬するとか思ってて、さらに好き・・・」
「だーかーら!カカシせんせーなんてちっともそんな風に思えないってば!任務サボってばっかりでオレたちのこともろくに見ないやつのことなんか頼りにならないってば。尊敬も格好いいもそれと同じことだってばよ」
 ナルトはカカシの好きという言葉を押しつぶして一気にそう言ってみせた。
 カカシは信じられないというような目でナルトを凝視していたけれど、ナルトも何でこんなにカカシが勘違いできるのか信じられないようだった。
 しばらく見つめあっていた二人だったけれど、やがてカカシが恐る恐るといった感じで話した。
「まさか本当に俺のこと何とも思ってない・・・?」
 やっと気がついたというような様子のカカシに、ナルトはため息をついてからズバッと言った。
「まさかも何も、最初から何とも思ってないってば!」
 まるで冷水でも浴びせられたようにカカシは固まってしまったが、ナルトは気がつかずにまだ話している。
「大体カカシせんせーはオレらの担当上忍なのに、いっつもさぼったりいい加減なことばっかりしてるから信頼を無くすんだってば。それなのに、変に自信があるから始末に負えないってばよ」
 うんうん。と一人頷きながら、ナルトはカカシに言い聞かせるように言った。
「だから少しはオレたちのことしっかり見て欲しいってばよ。分かった?カカシせんせー!」
 しゃべっている間中俯いていたカカシに、ナルトはちゃんと聞いていたか気になってカカシに声をかけた。
 けれど、カカシはまだ俯いたままで、ナルトはどうしようか困ってしまった。
「せんせー?聞いてんの」
 恐る恐る声をかけると、カカシはぴくりと動いた。
 ほっとしてまたカカシに説教をしようとしたのもつかの間。
「・・・てるよ」
「へっ?」
 ぼそっと言ったカカシの言葉が聞き取れなくて、ナルトは耳を傾けて聞こえやすいようにカカシによった。
「いつも見てるよ!」
「!」
「いつも見てるからこんなにお前のこと気になってるのに。しかもお前俺の質問の意味取り違えてるし!」
「へっ?・・・」
「ナルトこそ俺のことなんてちっとも見てないくせに!」
 カカシはそう言うと、ナルトのことを振り向きもしないで全力で走り去ってしまった。
 まるで子供のようなカカシの態度に、子供のナルトが戸惑うのも無理はない。
 カカシの声の大きさに驚いて地面にへたり込んだナルトは、ぼーっとカカシのいなくなったほうをただ見るだけだった。
「な、何だってばよ・・・」
 
 
 今日は休日。
 忍にとって関係のない日だったけれど、ナルトは休日の賑やかさも、見たいテレビも忘れてしばらく呆然としていたのだった。
 
 
 
 
 
 
 
続く
 
 
駄々っ子カカシ
 

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