月と雲 2
 
 
 何をやらかしてしまったんだろう。
 俺は気がつけばナルトに逆ギレしていて、好き勝手に怒鳴り散らして今ここにいる。
「まあお前の気持ちは分かったからよ。今日はナルトのことなんざ忘れてぱーっと遊べ」
 アスマがどこか俺を馬鹿にしたような笑みで笑いかけてきた。
 俺が黙っていると、また上機嫌に話してくる。
「お前があのうずまきナルトに惚れてるって聞いたときは笑いが止まらなかったぜ。しかも今はフラれて落ち込んでるときた」
「フラれてなんかいない」
 ただ、ナルトに俺の言いたいことが伝わらなかっただけだ・・・と思う。
 けれどアスマはそんな俺の態度がまた面白かったのか盛大に笑い飛ばしやがった。
「お前は相手が悪すぎたんだよ。あいつはてんでお子ちゃまだからそういうことさえも分からないんだよ。ましてや男のお前に恋愛感情を持つ事なんて最初からあり得ないことなんだよ」
「何でそんなことお前が分かるんだ」
「俺はお前みたいに周りが見えてないやつじゃないんでね」
 アスマのその言葉に、そういえばさっきもナルトに同じようなことを言われた気がする。
 そんなに俺は周りが見えてないっていうのか?
 そうだとしても、ナルトだけはしっかり見ているのに、ナルトもアスマも違うと言う。
「周りが見えてないにしろ、ナルトだけはちゃんと見ているつもりだよ」
「見てるっつったってぼんやり見てるだけじゃねえのか?見ながらナルトが何を考えているのかとか思った事あるのかよ」
 ・・・それはある。
 俺のこと考えてくれてるのかな。とか。
「どうせお前のことだから一人よがりに自分のこと考えてくれてるのかなってくらいしか思ってないだろ」
 ドンピシャに言い当てたアスマが信じられなくて、俺は思わず思いっきり顔を上げてアスマを凝視してしまった。
「やっぱりな。それじゃナルトのことなんて分かりきれてないだろうな」
 何故そこまで言い切れる。
 けれど、アスマの妙に自信めいたその言葉には説得力があった。
「お前は人の事を分かってやれないやつなんだ。ナルトみたいに自分のことで精一杯なやつとは合わないんだよ、根本的に」
「そこまでずけずけと言われる筋合いはない」
「でも俺は正しいことを言ってるぜ。ナルトのことなんざさっさと忘れて、ここからいいやつでも選んどけって」
 そうして改めて見渡せば、綺麗に着飾った女たちが俺たちに微笑んでくる。
 ここはつまりはそういう場所で、俺は不本意にもアスマに連れてこられたわけだ。
「お前もしかしたらタマってるだけじゃねえのか?だったらここで思いっきり発散しとけって」
 そうしたら変な方向へ走ることもないだろうと、アスマは言いたいようだった。
「俺は本気だよ」
 どうせそう言われると思っていたからアスマの言葉を断ち切るようにそう言った。
 アスマはそんな俺にあきれたようにため息をついて、また話しはじめる。
「とにかく発散しとけよ。あんまり思いつめて考えているから、きっと変な間違いに気がつかないだけだ。冷静になれよ」
 それだけ言うと、席を離れてさっそく近くにいた女の子に声をかけていた。
 一人でここに来るのが面倒で俺を連れてきたとしか思えない。
 俺はもうあいつみたいに体だけ満足しようだなんて思ってないのに。
 あんなやつに俺や、ナルトの何が分かるっていうんだよ。
 俺がどれだけナルトしか考えられないのか知らないからこんなところへ連れていくんだ。
 
 アスマはもう別の場所に女を連れて姿を消してしまったし。
 嫌気がさした俺は、すぐに店から出て行くことにした。
 店に出て行こうとしたら、俺の近くではべっていた女の一人が仕事中だというのにあとについてきた。
「何?」
 とても不機嫌になって言ったのに、そいつは怯えもしないで言った。
「さっきの話を勝手に聞いてしまったんですが、失恋なさったんですか」
 人の話を盗み聞きしているところからして失礼極まりないというのに、さらにそんなことを聞いてくるなんて、この女はどういう神経をしているんだ。
「してないよ」
 必要最低限のことだけ答えて、俺はすぐにこの女から姿を消そうとした。
 なのに、女はべたべたと俺の腕を抱いて懇願するような嫌な目で俺を見てきた。
 こういうの、前の俺だったらうざがらないですぐにホテルに連れ込んだりしていたんだろう。
 でも今はもうそんなことどうでもいいんだ。
 今はナルトしか見えてないんだから。
 どんな風に俺を見たって、俺はナルトしかいらないんだ。
 
 引き剥がすのも億劫になった俺は、そのまま女を無視して歩き始めた。
 女は相変わらず俺の腕にまとわりついていて、このままじゃあ俺の家まで入ってきてしまうかもしれなかった。
 いい加減に振り払わないと余計に面倒なことになるかと思って、俺は足を止めた。
「あのね、俺はあんたを抱く気なんかないからついてきたって無駄なんだよ」
 しっかりはっきり言ったのに、ちゃんと聞いていたのか、女はまだ俺の腕を抱いていた。
「・・・俺の言った意味分かってんの?」
 ああ、うっとうしい。
 どうやってこいつを追い立てるか・・・。
 
 そんなことを考えていたせいか、うかつにもここへ近づいてくる気配に俺は気がつけなかった。
「分かってます・・・。けど・・・私あなたのことが好きなんです!」
 会ったばかりで何が分かるんだと、笑い飛ばしてやろうかというときに、女が急に別の方向を見た。
 俺はその先を目で追っていった。
 そうして最初に目に入ったのはよく見慣れた忍専用のサンダルで・・・。
 ぽかんと口を開けて突っ立っていたのは、ナルトだった。
「ナ、ナルト」
 ナルトは何がなんだか分からないようだったけれど、俺がどもりながら声をかけたらやっとはっとしたようだった。
 ナルトの手には暖かそうな鍋が何故だかあって、俺がそれに目をやったとたん、それを慌てて隠した。
「カ、カカシせんせーってばやっぱり彼女いるんじゃん!も〜いきなり見せ付けてくれるからビックリしたってばよ」
「な、何でナルトがここに?」
 いや、俺が言いたいのは本当はそんなことじゃない。
「ちょっとここまで用事があったからさ!カカシせんせー、今日は寒いんだから早く彼女家に入れてあげたほうがいいってばよ」
 ナルトはそれだけ言うと逃げるかのように走り去ってしまった。
「ちょ・・・」
 慌てて追いかけようとしたのに、俺の腕にへばりついていた女が離れてくれないせいで、追いかけ損ねた。
 あの足の速さならもう見失ってしまう。
 俺の邪魔をした女に殺気を込めて睨んだけれど、ナルトの言葉に気をよくしていたのか、全く恐れていなかった。
 馬鹿馬鹿しくなった俺は女を無視して自分の家に向かった。
 あと少しで俺の家だったので、俺はまた女にいなくなるように言うと、女はナルトの彼女発言に気を良くしたのかすぐに引き下がっていった。
 その際に自分の連絡先が書かれているであろう紙を勝手に俺の服のポケットに突っ込んでいたけれど。
 
 ・・・ナルトは何であんなところへいたんだろう。
 用事ってなに?
 あの手に持っていた鍋はなに?
 
 期待しちゃうけど、アスマやナルトが言うのには「考えすぎ」なんだろ。
 俺はどうしたらいいんだろう。
 「あれは誤解だ」なんてナルトに言ったとしても、「だから何」って言われてしまいそうだ。
 今度こそナルトに呆れられてしまうかもしれない。
 ・・・でも、じゃあ何で一瞬さびしそうな顔をしてみせたの?
 そうやって見えただけにしては、俺の目にはっきりと悲しそうなナルトの顔が映った。
 だけど、自信がなくなってしまった俺は、結局そのまま自分の家へと帰っていった。
 
 
 
 
 なぜかその場を急いで走り去りたくて、オレってばダッシュで走って家まで帰っていった。
 当然そんなに早く走ったら、手の中の鍋はすごいことになる。
 家に帰ったとたん、オレはすぐに台所へ向かって鍋を捨てた。
「せっかく作ったのに、もったいないってばよ」
 そうは思うけど、こんなにぐちゃぐちゃな鍋じゃ食べようがないし、もともとオレ一人だけで食べるつもりじゃなかった。
「カカシせんせーってば、やっぱりオレをからかってただけじゃん」
 まんまと騙されたってばよ。
 あんなにカカシせんせーが傷ついて怒った顔は初めて見たから、オレってばかなり真剣に考え込んだってのに。
 何であんなわけの分からないこと言ったのかはよく分からないけれど、結局オレをからかいたかっただけなんだ。
「ホント、たち悪いってばよ!」
 さっきから独り言ばっかり言っていて、なんだか寂しくなってしまった。
 すぐそばにカカシせんせーがいるわけもないのに。
 
 オレは何となく目に入ったカカシ人形に、苛立つ気持ちをぶつけるように寝るまでずっとカカシ人形をサンドバックにしたのだった。
 けれど、気持ちは全然晴れなくて、オレは疲れきってカカシ人形を抱いて寝た。
 そうしたら少しだけ気持ちが軽くなった。
 ・・・それでも、どこかまだ心の奥底ですっきりしないものがあった。
 
 何なんだろう?この気持ち・・・。
 
 
 
 
 
続く
 
 
 
戻る