憎さあまって可愛さ100倍
 
 
「カカシせんせー大好き!」
「俺もナルトだけが好きだよ」
 そう言って、二人は微笑みあう。
 周りにいたサクラはやってられないとでも言うように早々と家に帰っていき、サスケはとても悔しそうにカカシを見やる。
 けれど、当の二人はそんな視線たちには気がつかないで、お互いを見つめることに集中していた。
 
 くそっ!気に食わないな・・・。
 
 そんなことをこっそり考えているのは、しょうがなくその場を離れていったサスケではなく、傍目ではうっとり見詰め合っているように見えるナルトとカカシだった。
 二人にしか分からないことではあったが、微笑みあっている二人の目だけは笑っていなかった。
 
 いつもいつもオレの心配ばっかして、オレを馬鹿にして・・・!
 いつもいつも俺に頼ってくれないで意地張って・・・!
 
 そういうところ、どうして直らないかな!
 
 お互い見詰め合って考えていたのはこんなことだった。
 
 嫌なら嫌で離れていればいいのに、なんだかんだいって二人はいつもこうして一緒にいた。
 あえて好きだと言い合っているのは、お互いにお互いのことが嫌いだということが分かっていたからだ。
 嫌味のつもりなんだけど、周りとしてはあてられたようでなんだかな。な気分だった。
「あ!まだ解散だって言ってないのに、あいつら」
 カカシがやっとサスケたちがいなくなったことに気がついてそう言った。
「上忍のくせにそんなことにも気がつかなかったんだってば?案外カカシせんせーってばトロくさいじゃん」
 がははとカカシを馬鹿にしたように笑うナルトに、カカシは本気で殺意が沸いてしまう。
「お前ねぇ」
 せめて痛い思いくらいさせなきゃ気が済まなくて、カカシは猛スピードでナルトを掴むと頭をぐりぐりしてやった。
「いでー!いだいってばよ!!」
 ナルトは大きな声で叫んだので、少し離れたところを歩いていた人にじろじろと不振な目で見られてしまった。
「お前、そんなに痛くないのにわざと大きな声で言ったでしょ。ホント、どこでも何でも嘘がうまいっていうかさ・・・」
「マジで痛かったってば!カカシせんせーはすぐオレを信頼してくんないから嫌いだってばよ!!」
「だったら、ナルトもまずは俺のこと頼りにしたら!?」
 お互いに言いたいことをいいまくっている二人だったけれど、つい本音が出てしまった。
 自分の言い分ももっともだと思った反面、少し反省しなきゃいけないのかもと二人は思った。
 
 そりゃ、確かにオレもカカシせんせーのこと信頼っていうか、頼りにしてなかったけれど・・・。
 
 俺もナルトのことを信頼してなかったのかもしれないけど・・・。
 
 
 でも、原因を作ったのは間違いなくあっちだ!!
 
 結局二人とも、考えはそこにいきついてしまったが。
「まずはカカシせんせーからオレを信頼するべきだってば!」
「何言ってんのナルトでしょ」
 そうして火花を散らしてにらみ合うと、少し経ってからお決まりのように一言。
「「ふんっ!!」」
 お互いに逆方向を向いてそっぽを向く。
 ナルトはともかくカカシは幾つだよと言ってやりたいところだ。
「も〜こんなに物分りの分からないやつなんてほっといてさっさと帰るってば!」
「それは俺の台詞だよ」
 そう言って、二人は足音をどすどす言わしながらその場を去った。
「って何で同じ方向歩いてるの?」
 カカシの家の方向なのに、なぜかナルトも隣で歩いていた。
 嫌そうに聞きながらも、どこか嬉しい気持ちになっている自分がカカシには自分で理解できなかった。
「た、ただ一楽でラーメン食べて帰ろうかなって思ってるだけだってば!」
 そして、そんなナルトの返事にどこか気分が沈んでしまった。
 表では軽く返事をしたが、まだカカシは何か心臓にとっかかりでもできたような変な気持ちのままだった。
 しばらく二人は無言で歩いていたけれど、ふいにナルトがしゃべった。
「カカシせんせーの家ってこの道曲がんなきゃいけないんじゃないの?」
 わざわざ立ち止まって、カカシの家の方向をナルトは指で指した。
「・・・今日は俺もなぜだかラーメンが食べたい気分だから一楽に行こうと思ってね」
「ええ〜!?スーパーでインスタントも売ってるから自分の家で食べればいいじゃんよ」
「それは味気ないでしょ。せっかく近くにできたてで新鮮なラーメンが食べれるってのに、インスタントなんてもったいないよ」
「むむぅ。それは確かにそうだけど、カカシせんせーと一緒じゃなぁ」
 そんなナルトの言葉にむっとしたカカシは反撃をする。
「別にナルトと一緒にラーメン食べるなんて一言も言ってないでしょーが。何?俺と食べれると思って実は嬉しかったんだ?」
「そんなんじゃないってば!失礼にもほどがあるってばよ」
 激しく否定されて、カカシはムカッとするよりも何だかさびしくなってしまう。
 
 「失礼にもほどがある」って・・・。
 そんなに俺と一緒が嫌なの。
 
 ナルトはカカシがさびしい気持ちになっているのに気がつかないで、そのまま一楽へと入っていった。
「らっしゃい!ってナルトか、久しぶりだな」
 一楽の親父が気さくに話しかけてきて、ナルトもそれに笑顔で返事をする。
 カカシはそんな様子を店の入り口前でぼんやりと見ていた。
 いっそのことこのまま帰ろうかなと、足を動かそうとしたところで、店の中からナルトがにゅっと顔を出してきた。
「カカシせんせー、何ぼんやりしてるんだってば!何ラーメンなの?オレってば今注文するところなんだから、早く言っちゃってよ」
「・・・塩」
「塩ね!じゃ、オッチャンとんこつと塩大盛りで!」
 ナルトは店に向かってそう言うと、またカカシのほうを見た。
「ほら、せんせーも早く店に入って。ぼやぼやしてると他のお客さんの邪魔だってばよ」
「あ、ああ」
 ナルトはそう言って、カカシの手を引いて自分の隣に座らせた。
「・・・」
 じっと自分を見ているカカシに、ナルトは居心地が悪くてすぐに話をふった。
「何さっきからじろじろ見てるんだってば」
「いや・・・。その、ありがと」
 カカシは何も考えずにそう言った。
「は?何が?」
「へ?何がありがたいんだ?」
「って、カカシせんせーが言ったんだってばよ?」
「うん。そうだけど」
「「・・・」」
 そんな言葉のやりとりが楽しくて、二人は一気に笑い出した。
「おかしいってば、カカシせんせー!自分で言っておきながら意味分かってないし」
「ホントにね。自分でも勝手に言葉がでてきて驚いちゃったんだから」
 二人がひとしきり笑い終わった頃に、ちょうどラーメンが運ばれてきた。
 そして、二人はいがみ合っていたのをすっかり忘れて、二人仲良くラーメンをすすりはじめたのだった。
 
 
 二人ともラーメンなんてすぐに食べ終わることができたのに、麺が伸びきりそうになるくらいまでゆっくりと食べていた。
 それは何故なのか。
 二人はお互いに深く考えないで、一楽をあとにした。
「カカシせんせーおごってくれないんだもんな」
「俺はイルカ先生と違うの」
 歩調は一楽へ向かうときとは違ってとてもゆっくりだった。
 カカシがナルトの歩調に合わせたのかもしれないが、今のナルトはなぜかそれが不愉快ではなかった。
 
 変なの。
 オレってばカカシせんせーに甘やかされたり、なめた目で見られるの嫌いなはずなのに。
 
 変だなぁ。
 俺ってナルトのこと可愛くないって思ってたのに、何だか今はめちゃくちゃ可愛く見える。
 
 お互いにお互いのことを見ていたので、当然視線はかち合う。
「・・・なんだってばカカシせんせー」
 自分を警戒してるナルトが憎ったらしいのに、どうしてもその気持ちが自分の中で負けてしまうことにカカシは気がついた。
「いやぁ。憎さあまって可愛さ100倍なんて普通ありえないのに、実際こんなこと起こりえるんだなって驚いてんの」
「はぁ?・・・!」
 ナルトがとっても馬鹿にしたようにカカシを見上げた瞬間、ナルトは声が出せなかった。
 カカシがいきなり自分の口でナルトの口を塞いでしまっていた。
「ごちそーさま」
 すぐに口を離すと、カカシはとても満足そうにそう言ってナルトの前から去っていった。
「な、な、なー!?」
 ナルトがやっと叫んだ頃には、カカシの気配さえもなくなってしまったあとだった。
 
 
 ナルトも実は俺と同じ思いだったって信じてるよ。
 だから早く気づいてね?
 
 
 
 カカシがそう思っている頃、ひたすら顔を真っ赤にして突っ立っているナルトがいたとかいないとか。
 
 
 
 
 
終わり
 
 


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