ある、日常
 
 
 現在任務の休憩中。
 いつもなら、ナルトはカカシに引きずられて昼食を一緒に食べている。
 けれど、今日はサクラがそれを許さなかった。
「あんたはそれで幸せなの?」
 腕を組んで、ナルトに詰め寄るように質問してくるサクラに、遠くからカカシは殺気を飛ばしていた。
 けれど、ナルトがちらっとカカシを見やると、すぐにカカシの視線ははずされた。
 サクラはそこで、改めてまた言った。
「カカシ先生に好き勝手されて、それで本当に幸せなの?」
 ナルトとカカシはとても仲の良い恋人同士で有名だったけれど、カカシがナルトを引っ張りまわしているということも有名だった。
 独占欲はとても強く、絶対にナルトとサスケを二人にさせようとしないし、ナルトを狙っている人間はカカシご用達のビンゴブックに精細に記入されているという。
 それほどの独占欲の強さにナルトは苦労しているのではないかと思って、サクラはついにナルトに質問したのだった。
 とはいっても、サクラのそれは質問というより、確認に近い聞き方だったが。
「オレってば幸せだってばよ?」
 ところが、ごく自然にナルトにそう言われてしまって、サクラは拍子抜けしてしまった。
「うそっ?カカシ先生に引っ張りまわされて苦労してるんじゃないの?」
 つかみ掛かるような勢いで聞いてくるサクラに、ナルトは落ち着いて答える。
「嘘じゃないってば」
 けれど、言葉が足りないせいで、サクラはいまいち信じられなかった。
 
 ナルトが子供のころから親がいないことはサクラも知っていた。
 そして、いつもどこか寂しそうな顔をしていたのも少し前になってやっと気がついた。
 そんなナルトだからこそ、サクラは幸せになってほしいと思う。
 付き合っているカカシがナルトを幸せにしないなら、別れろと言うつもりだった。
 当のナルトはそんなサクラの気持ちを知ってか知らずか否定したわけだけれど、サクラは納得がいっていなかった。
 
 サクラの表情を見て、サクラの考えていることを察したナルトがこう言った。
「そんなに心配なら今日一日のオレたちをこっそり見ればいいんだってばよ」
 確かにそうだ。
 けれど、カカシには簡単にばれてしまいそうな気がする。
 サクラがそう思っているのにも気がついたナルトがまた続けて言った。
「大丈夫だってば。カカシせんせーはオレといるときは隙だらけだから、そう簡単にはバレる心配はないってばよ」
 自信満々な言葉に、サクラは少しだけ驚きながらも、しぶしぶ頷いた。
 
 
 そうして無事に任務が終わって解散すると、いつものようにサスケに声をかけてから、サクラはナルトとカカシのあとをつけはじめた。
 
 あ〜あ。仲良く手なんか繋いじゃって。
 ナルト、本当に幸せそうよね・・・。
 一生懸命カカシ先生なんかの顔見ちゃってさ。
 
 よく見ると、カカシは鼻の下を伸ばしながらも、ちゃんとナルトの歩調に合わせて歩いていた。
「・・・」
 少しだけカカシのことを見直しかけたサクラだったけれど、慌てて首を振ると、また二人のあとをつけはじめた。
 
 いけない、いけない。
 あんなぐらいで見直してどうするのよ。
 あんなの当然よね。
 
 しばらく歩いていると、カカシがさっそく駄々をこねはじめたようだ。
「ねえナルト。少しお腹空いたし、今日は任務が終わるの早かったから、ちょっと食べてかない?」
 カカシの指差した方向は甘味所で、ナルトがどう出るのかと、サクラはじっと見守った。
「駄目!前もそう言ってオレの作った晩御飯残しそうになったし。あんまり甘いものばっかり食べてたら体壊すってばよ」
 どっちが年上か分からない会話をして、ナルトはカカシを引きずろうとした。
 それでもカカシは踏ん張って、逆に甘味所へナルトを引きずってしまう。
「も〜!!」
 やはりナルトが折れてしまい、二人は結局甘味所へと入っていった。
「やっぱりカカシ先生の言いなりになってるじゃない」
 あれで幸せを感じているナルトが、サクラとしてはよけい悲しくなってしまう。
「本当の幸せを見つけるべきよ!!」
 一人息巻いて、サクラも気配を殺しながら二人のあとをまたつけていった。
「はい、あ〜ん」
 ・・・入った途端これかよ!!
 と、あまりのことにサクラはずっこけてしまう。
 結構派手な音を立ててしまったのに、嬉しそうにナルトにスプーンを突きつけるカカシは気がついちゃいなかった。
「どうしたの、ナルト」
 呆れて冷め切った目でナルトがカカシを見ようと、当のカカシは全く分かっていない。
「一人で食べれるから・・・」
「何遠慮してるの!いつも二人っきりのときはやってることじゃない。もしかして照れてるの、ナルト」
 こいつぅ〜。とでも言って小突きそうなそうな勢いで、カカシはナルトにそう言った。
 思いっきり引きながら、それでもナルトはちゃんと相手をしてやる。
「いや、どうでもいいし。とにかくオレ一人で食べてるんだから、邪魔すんなってば!」
 とても冷静に返されてしまい、さすがにカカシは落ち込んだ。
「最近ナルト冷たいよね・・・」
 大きな大人がしょぼくれてると、邪魔くさいなとナルトもサクラも思った。
 けれど、カカシはすぐに立ち直ると、今度はナルトの白玉をじっと見つめて一言言った。
「その白玉おいしそうだね。一口・・・」
 頂戴。と、言おうとしたけれど、すぐにナルトに先手を打たれてしまう。
「駄目。カカシせんせーにあげると、絶対一つじゃ終わらないし」
 きっぱり言うと、ナルトはわざとカカシの反対方向を向いて食べ始めてしまう。
「ナルトォ〜!!」
 情けないカカシの声を聞きながら、サクラは自分の考えは間違っていたような気がしてきた。
 
 もしかして、本当に引っ張りまわされてるのは、ナルトじゃなくて、カカシ先生のほう・・・?
 
 今のところ、何だかんだいってリードしているのはナルトだった。
 あんまりカカシが嘆いてうるさいので、ナルトはカカシの言うことを結局聞いてやっていたが。
「はい、あ〜ん」
 カカシの差し出したあんみつを、雛鳥みたいに少し照れながら食べるナルト。
 それをとっても嬉しそうに見ているカカシ。
 どっちがリードしているのかまだ分からないけれど、確かにナルトは幸せそうだった。
 
 まあ、あれなら私が心配する必要はなかったってことになるけど・・・。
「さ、もう食べたから帰るってばよ」
 ナルトが勢いよく席を立って、カカシを店から出るように促す。
 
 ナルトのほうが何だかカカシ先生を引っ張ってるみたいだし、私の取り越し苦労だったかしら。
 
 サクラがそう考えている間にも、二人はまた仲良く手を繋いで歩きはじめた。
 一応二人が家に着くまでは見届けようと思って、サクラも慌てて追いかけはじめた。
 そうして、サクラが尾行の体勢に入りかかろうというときに、またカカシがぴたっと立ち止まった。
「ナルト。今晩はサンマの塩焼きにしない?」
 見れば、目の前には魚屋。
 カカシは好物のサンマが目に入ったとたんに、おねだり攻撃に入ったらしい。
「駄目!今日はもうシチューって決めてるから」
 ぴしゃりと言い放ったナルトに、カカシはまた駄々をこねはじめた。
 そうしてサクラの予想通り、やっぱりナルトが折れてサンマを買ってしまっていた。
「カカシせんせー、残さず食べないとオレってば自分の家に帰るからね」
 これがナルトの最終武器らしく、効果てきめんだった。
 カカシは飛び上がるように驚くと、とても必死な様子で、何度も頷いていた。
 それを満足そうに見るナルトを見て、サクラは完全にナルトの言うことを信じられた。
 本当に幸せそうに笑うし、カカシに引っ張られているとはいえ、同じくらいに対等に渡り合っているナルトの姿を見てサクラは安心した。
 そして、そんな二人がとてもお互いのことを大事に思いあっていることも何となく感じられた。
 見ようによっては熟練の夫婦みたいで、サクラは何だか羨ましくなってしまう。
 
 結局見せ付けられちゃったのかしらね。
 
 それでもナルトがちゃんと幸せだということが分かったので、サクラは満足してつけるのをやめることにした。
 来た道を戻るべく、引き返そうと体を後ろに向けた途端、がさっという音が聞こえてきた。
 公園の木の茂みで、隠れたところから音がしたみたいだった。
 何だろうと思った途端、ナルトの叫び声が聞こえてきた。
「何するんだってば、カカシせんせー!!」
 がさがさという音にまぎれて、ナルトがじたばたと暴れているらしい音まで聞こえてきた。
 それを取り押さえているらしい、興奮したようなカカシの声も聞こえてきた。
「もう我慢できないよ!ここでしよう、ナルトっ!」
「ぎゃー!やめれ〜!!」
 これは結構よくあることなのか、ナルトの「まただってば!?」とか、「せめて家まで我慢しろ!」とか言う声が聞こえていたが、それもすぐに静かになってしまう。
 どうなったのかと、ドキドキしながら耳を澄ますサクラ。
 
 
「・・・あっ」
 
 
「・・・・・・」
 無言で立ち上がると、サクラはそうっとその場から立ち去った。
 
 
 やっぱりナルトはカカシ先生には適わないのね・・・。
 そうしてサクラは立ち去っていったのだった。
 しかし、そのあとカカシはナルトにこっぴどく叱られることになり、その後はずっとカカシはナルトの言いなりになっていた。
 そうして二人の日常は同じように繰り返されていく。
 ナルトがカカシに適わないわけでも、カカシがナルトに適わないわけでもなく、これがいつもの二人だった。
 
 サクラはそんな二人の日常を垣間見てしまった、被害者・・・なのかもしれない。
 
 
 
 
 
 
終わり
 
いのナル小説のお礼に戒吏さんに押し付けです。
どうぞもらってやってくださいませ!
 
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