雑草
 
 
 今日もDランクの任務で、それでも最初に文句を言っていたナルトは一生懸命とりかかっていた。
 俺はいつものようにイチャパラを読むフリをして、ナルトの様子をうかがっている。
 サスケとサクラはそんな俺を半分諦めたような目で見るだけだった。
 同じ下忍のサスケやサクラでさえ俺の視線に気がついてるのに、ナルトはちっとも気がついていないらしい。
 おかしいよね。普通なら気がついてもいいはずなのにさ。
 それほど任務に集中してるってことなのかな?
 
 まだじいっとナルトをあからさまに見てみても、ナルトは任務の草むしりに集中しているようだった。
 
 そんなに草ばっかり見ないで俺に気がついてよ。
 
 なんて不謹慎なことを思ってみる。
 けれど、俺はこの気持ちをナルトに伝えてないから、別に俺とナルトはそういう仲じゃない。
 とっても悔しいんだけどね。
 けれど、ナルトは俺より一回り以上年が離れてるし、それ以前に俺たちは男同士なわけで。
 きっと俺がナルトに対してこんな感情を抱いていると知ったら、ナルトは気持ち悪く感じるだろうね。
 それとも俺に気を遣って、わざと優しくするかもしれない。
 まあ、だからこの気持ちはいまだに言えないんだけどね。
 ナルトに気を遣わせるなんて俺の勝手な考えだけど、絶対に嫌なんだ。
 
 そうこう考えているうちに、休憩の時間がきたようだ。
「よーし、そろそろ休憩するよ」
 声をかけると、サスケとサクラはすぐにこっちへやってきて、持ってきた弁当をさっそく広げた。
「ナルトは?」
 誰ともなしに聞くと、「知らないわよ」と弁当を食べながらサクラから返事が返ってきた。
 サスケは気になるらしく、じっとナルトを見ていた。
 先を越されてはまずいと思い、俺はすぐにまだ草むしりをしているナルトへと歩み寄ることにした。
 
「ナ〜ルト!」
 後ろから声をかけたら、ナルトは俺が近づいていたのに気がつかなかったのか、一瞬びくっとした。
「せんせー。急に驚かすなってばよ」
「何言ってんの。俺の気配ぐらいお前も忍者なんだからすぐに悟りな」
 ちょっと厳しく言うと、ナルトはむっとしてまた俺とは逆の方向を向いてしまう。
「あのね。俺はもう昼の休憩だからお前を呼んだんだけど」
 そうやっていきなり無視されると傷ついちゃうなぁなんてぼそっと、それでもナルトに聞こえるように言うと、ナルトはゆっくり振り向いた。
「分かったってばよ。でもちょっと待ってってば、もう少しで一段落つくからさ」
 そう言って、ナルトはまた向こうのほうを向いてしまう。
 事実寂しくなった俺は、ナルトの草むしりのはかどり具合を見るフリをしてナルトと一緒にいることにした。
 実際にナルトの草むしりの状況を見てみた。
 ・・・が。
「なにこれ。全然はかどってないじゃない」
 ナルトが抜いている草は、すべて抜く必要のないほどの腐ってしまって枯れた草ばかりだった。
 ナルトはうっと言葉を詰まらせると、そのままじっとうつむいてしまう。
「・・・どうしてこんな枯れた草しか抜かないの?」
 俺はナルトに「何で枯れた草ばかり抜いてさぼろうとするの?」とは聞かなかった。
 それじゃあナルトに対して失礼だし、実際こんな言葉が頭の中に浮かんでしまっても、俺はナルトのことを信じていたので、そうやって聞いた。
 すると、ナルトはそんな俺の言葉が意外だったのか、とても驚いた顔をして俺を見てきた。
「見くびらないでよ。俺はナルトをちゃんと信じてるんだから」
 そこでちゃんと「ナルトを」と強調した。
 「自分の部下を」といえば、俺の気持ちは伝わりにくいかと思って、少しだけ期待して、気持ちをこめて「部下としてじゃなく、ナルト個人を信じてる」と言った。
 けれど、やっぱりナルトはきょとんとしていた。
 ま、しょうがないか。と、思って俺はナルトにご飯を食べるように声をかけようとした。
 すると、ナルトはおもむろに話し出した。
「オレってば・・・。雑草が可哀相だと思っちゃったんだってばよ」
 それはとても小さな声だったけれど、そばにいたカカシには十分聞こえた。
「どうして?」
 ナルトがしゃべりやすいように、カカシは質問した。
「だってさ、何だか雑草がオレと似てるって思っちゃったんだってばよ。同じ植物には変わらないのに、ただ雑草だからって抜かれちゃうのがさ」
 確かにナルトも、里の人間からナルト自身をみないで、ただ九尾の入れ物だからといって虐げられてきた。
「・・・確かにナルトと似てるね」
 ナルトは、カカシにそうは言っても少しだけ「似てない」と否定されたかったのかもしれない。
 ナルトはナルトだから、本当はみんなと同じように雑草なんかじゃないとでも言ってほしかったのかもしれなかった。
 心もち辛そうな顔をしてまたうつむいてしまったナルトに、カカシはまたやさしく話し出した。
「雑草みたいに強いところとか本当に似てると思うよ」
 聞きようによっては失礼な言葉も、カカシの声音がやさしかったせいで、ナルトは大人しく続きを聞いた。
「どんなに踏みつけられたり何度も抜かれようと、負けずと生えてくるのはそうできないことだからね。ナルトもそこがよく雑草と似ているよ。強くて・・・俺はそんなお前をすごいと思ってる」
 真摯なカカシの目線に、ナルトはしばらく目を奪われていた。
 少し経ってから、ナルトははっとすると慌てて目を逸らした。
「あ、ありがと・・・」
 顔を赤くさせながらも、それでもナルトはカカシにお礼を言った。
「どういたしまして」
 カカシは軽い意味でナルトのお礼を受け取ったけれど、本当はもっと深い意味が込められていた。
 
 オレをそんな風に見てくれて、せんせーありがとだってば・・・。
 
 ナルトはそう思いながらもまだ別の感情があることに気がついた。
 それが何かはまだよく分からなかったけれど。
 
 何でだろ。
 せんせーの真剣な顔見てたら変にドキドキしちゃって。
 それでもすっごい嬉しかったからまあいっか?
 
「じゃ、午後からは派手に雑草を抜くよ。実際ナルトは雑草とは似ても似つかないんだからね。俺は遠慮なく抜くよ」
「ええ〜?さっき似てるって言ったじゃんかよ」
 ナルトがすぐに抗議しても、カカシは笑って話を逸らした。
「さ、早くご飯食べないとすぐに任務がはじまるぞ〜」
「何だよ、もう!」
 それでもお腹がすいたナルトは、カカシに従って後ろを歩いた。
 カカシはそこでこっそり思った。
 
 だって、ナルトと雑草じゃあまりに違いがあるんだよ。
 ナルトは雑草どころかそこら辺に咲いている花よりも綺麗なんだから。
 
 
 
 
 
 
終わり
 
 
眩しいくらいに明るく仕上がりました。珍しい。
 
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