野菜好き
 
 
 今日もナルト宅からはにぎやかな悲鳴が響いていた。
 悲鳴にはにぎやかなんて言葉は合うはずもないのだけれど、周りから見れば微笑ましく思いながらそう言葉にするだろう。
 もちろん周りからだけ。
「だからっ!オレってば野菜好きくねえの。もう持ってくんのやめてってば〜!」
「そういうわけにはいかないよ。俺はお前の担当上忍なんだから、部下の健康状態にも気を遣わなきゃね」
 今日もカカシはナルトの家の窓からたくさんの野菜をかごに入れて差し入れてきたのだった。
「それならカカシ先生はサスケのこと気にしてやればいいだろ?オレのことはほっといてってば!」
「そんな寂しいこと言うなよ。俺がサスケのこと見てやってるのは自来也さんに頼まれたからなんだからいじけなくてもいいんだよ」
「別にいじけてなんかなくて、ただカカシ先生にどっかいってほしいだけだってば」
 ナルトは朝起きたばかりで機嫌があまりよくなかった。
 それに加え、また窓から勝手に自分の家に押しかけられては、誰だろうとあまり言い気分にはなれなかった。
「い〜や、ナルトがちゃんと野菜を食べるまで俺は帰るつもりはないから」
「んなこと言っても、今日は出かける予定があるから困るし・・・」
 ナルトが言いかけているのに気にしないで、カカシはまたしゃべり続けた。
「ナルトが死ぬまで野菜を食べなかったら、俺はお前が死ぬまでそばにいるからねv」
 思わず老人の自分と老人のカカシが、野菜を食べる食べないと死ぬ間際まで揉めている図を想像してしまってナルトは嫌な気分になってしまった。
 
 じじいになってもカカシ先生と一緒・・・?
 
 それを考えると少し嬉しくなってしまう自分が恥ずかしかったナルトだが、野菜を食べたら一緒にいられないのかとふと考えた。
「やっぱ絶対野菜なんか食べないってばよ!」
 急に決心したように言い切ったナルトにカカシは少し驚いたが、気を取り直して説得にかかる。
「駄目だよ、野菜を食べないといつまで経っても大きくなれないんだぞ?それでもいいの?大人になってもサクラより背が低いままだったら、ちょっと、いや、かなり格好悪いと思うけどなぁ」
 思わず「うっ」と言葉につまったナルトだが、負けじと言い返す。
「たくさん牛乳飲んでるから大丈夫!野菜なんてまったく必要なし!それにエロ仙人はそんなこと何にも言ってなかったってばよ」
 ナルトから自来也の話が出てきたら、カカシの周りの空気が10℃ほど軽く下がった。
「それにイルカ先生もシカマルもアスマ先生も何も言わないし、サスケやシカマルはたまに団子や汁粉奢ってくれるってばよ!そんなこと言うのはカカシ先生ぐらいだってば!」
 
 サスケやシカマルは甘いものは苦手だったはずだ。
 そんなやつらがどういう理由を作ってナルトを甘味所まで誘えるんだ。
 俺なんかは自来也さんの言われたことを守って、サスケの世話に集中していたというのに・・・。
 サスケはそんな俺のことを気にもしないで・・・。
 いや、あいつのことだ。そんな俺を哀れみもしないで、俺がナルトに手出しできない隙に遠慮なくナルトを手篭めにしようと行動していたというわけか。
 
 段々謎の殺気を放っていくカカシのことを気にしながらも、ナルトは時計を見ると急に急ぎだした。
「やっば!約束の時間とっくに過ぎてた!絶対サスケのやつに怒られる」
 そう言ってナルトはすばやく着替えるとすぐに家からカカシをおいて出て行ってしまった。
「サスケだとぅ・・・?」
 カカシはぼそっとそうつぶやくとナルトの後を追うことにした。
 だけれど、ナルトの気配は玄関にまだいるように感じられたので、ナルトがわざわざ自分を待ってくれているのだとカカシは勝手に思い込んで、嬉しそうにナルトへと駆けていった。
 が、
「サスケ!」
「ウスラトンカチが・・・。遅いから迎えにきてやったぞ」
 ナルトのほかにサスケがいて、どうやら待ちきれなくなってナルトの家に出迎えに来たようだった。
 カカシはどことなく嬉しそうなサスケの顔を見て殺意をおぼえた。
 そんなカカシの殺気を読み取ったサスケはさらに煽るように、ナルトの肩をさりげなく抱くと、早く家から出るように促した。
「さ、早く行くぞ。あそこの観覧車は早く行って予約していかないと乗れないからな」
「え!?まじっ?じゃあ急ぐってばよ」
 
 観覧車〜?それにナルトもひどい!!俺がいるのに、まるでそこに俺がいないかのように振舞っちゃって・・・。
 
 思わず持っていたハンカチを噛みたい衝動に駆られたカカシだったが、今はそんなことはやっていられなかった。
 
 早く阻止せねば、観覧車でナルトがサスケにナニをされるか分かったものじゃない!
 ナルトの貞操は俺がいただく!!
 
 カカシがそう息巻いている間にナルトとサスケはさっさと遊園地に向かっていた。
 
 
「ひどいってばよ」
「何がだ?」
「あ、いや、何でもないってば。ただの独り言だって!」
 ナルトとサスケは仲良くデート中だったが、いつまで経ってもカカシがわいてこないので、ナルトはむかむかしていたのだ。
 
 オレが野菜を食べるまでずっとそばにいるんじゃなかったのかよ。
 先生約束やぶりだってば・・・。
 それなら野菜食べようが食べまいが意味なんかなくなるじゃんか。
 
「どうしたナルト。ラーメン食べないのかよ」
 今は昼食中。
 さっきまでナルトは嬉しそうにラーメンを注文していたというのに、段々機嫌が悪くなっていってるようだった。
 けれど、それもラーメンがくれば直るものだと思っていたサスケなので、未だにぶすっとしているナルトに何が起きたのか気になるのも当然だ。
「別に、何でもないってばよ」
「何でもないわけあるか。ラーメンを前に、なんだっていつまでもそんな顔してやがる」
 せっかくの可愛い顔が台無しじゃないか・・・。
 なんて内なるサスケが頬を染めて思おうが、知ったことじゃないナルトはぶすっとしたままだった。
 そんなナルトがふと目にしたのはサスケが頼んだ、ビーフステーキ定食のなかについているサラダの盛り合わせだった。
「それ、オレに食わせて」
 どこか迫力のあるナルトに逆らえるわけもなく、サスケは珍しく戸惑いながらも素直に差し出した。
 
 これ食べて、先生に付きまとわれるのはもうおしまいにするってばよ。
 だって、先生約束やぶったし、後からオレに付きまとっても、もう野菜食べたから付きまとうなって言うんだってばよ!
 その前にもうカカシ先生さっきの約束のこと忘れたのかもしれないけど・・・。
 せめてもの抵抗ってやつ。
 証人はここにいるサスケになってもらうってばよ!
 
「サスケ、今からオレってば野菜食べるからちゃんと目をかっぽじってよく見てろよ」
「は?」
 お前は急に何を・・・。と、サスケが言いかけたが、ナルトは気にもせずに思いっきり野菜を掻き込みだした。
 が、ナルトの手は何者かに止められて野菜はまだ食べれていなかった。
 口をあけたまま見上げるとそこには、
「カカシせんせー!」
 がいた。
「いつの間にいたんだってばっ?」
「何を言ってんの。ちゃんとず〜っと見張ってたでしょうが。まさか俺の気配に気がつかなかったの?」
「え・・・?ずっといたの?」
 ナルトはてっきりいないものだと思っていたので、カカシの気配など探ろうとも思わなかったのだ。
「じゃあ何でお前はさっきからいらついてたんだよ、てっきり後をつけてくるカカシにいらついてたんだと思ってたのに、違うのか?」
 事情の分からないサスケは素直に聞いてしまった。
 それによってあとで自分の言った言葉に後悔することになる。
 何故なら、ナルトもその質問に素直に答えたからだ。
「違うってば、俺ってばてっきりカカシ先生が約束やぶったんだと思っていらついててさ。でも違ったんだ〜。じゃあ、無理して野菜なんて食べなくてよかったぁ」
「・・・なんで野菜食べようとしたの?」
「何でってカカシ先生が約束やぶって俺のそばにいないと思ってさ。その仕返しに野菜を食べてもうカカシ先生に付きまとわれないようにしようとしたんだってばよ。それに、カカシ先生こそなんでさっき止めたんだってば?せっかくオレが野菜食べようとしてたってのに」
 そこらで察しのいいサスケは段々嫌気がさしてきた。
 もしかして自分はかなりむなしい役柄なのでは・・・と思い始めていた。
「そりゃあ、ナルトが野菜食べたら俺はお前のそばにいられなくなると思って思わず手が出ちゃったんだよ。ま、自分で決めといて何やってんだって感じがするけどね」
 ナルトはその言葉に嬉しくなって、ここが遊園地のレストランだということも忘れてカカシに抱きついていた。
「そんなことないってばよ!オレだってあんなに野菜食べるの嫌がってたくせに、食べようとしたし。仕返しのつもりだったけど、本当に食べなくてよかったってば」
 カカシもナルトも他人やサスケのことなどまるで見えていないようで、嬉しそうに抱きしめあっていた。
「ま、ナルトが野菜食べたとしても俺はナルトから離れる気は全くないけどね」
「オレもだってばよ!」
 サスケはそこで辛抱できなくなり、無言でレストランを去っていった。
 そして観覧車の二枚のチケットはもちろんナルトとカカシが使い、次の日には二人は木の葉の里の公認カップルにめでたくなったとさ。
 それからナルトは野菜が好きだと言いはじめたらしい。
 ナルト曰く「食べるのは好きじゃないけど、野菜は好きになれそうだってばよ」とのこと。
 
 
 
 
 
 
終わり
 
少しだけ訂正(03/07/28)

 
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