「トミー、Remiが来ましたよ」






翌日は日曜日。
8時、起床。

昨夕、別れ際のCheryl との会話。
「明日は私、教会へ行くのだけど
一緒に来たい?」
「ええ、ぜひ!」

Remi はどっちでも、みたいだったけど
私は行きたい。
教会はそこの土地の人々の普段の
表情の一部が見えるような気がするので
できるだけ行きたい。

迎えに来てくれたCherylに
“グッモーニン”
車を30分走らせて着く。

プロテスタントの教会の礼拝。
みんなと同じように分厚い本を手に賛美歌を歌う。
そう多くはないが、
物腰のやわらかそうな人たちばかり。
敬虔に
日曜日の朝のひとときをこうして
ここに集まる。

1ドルずつ寄付したり
小さなパンとぶどう酒をいただいたり。

最後に
参加している人たちが手を伸ばして握手。
peace(平和)、ピース」を合言葉に。
こういう時期だからこそ、私も
相手の目を見て
笑みを忘れずに
「ピース、ピース」

「Cheryl、ピースって、いつも言うの?」
「もちろんよ。平和は大事よ」








“HAIKU”というレストランで、ランチの後。
みんなでThomasのお墓へ。
それは
Remi が一番したかったこと。
市内から車で30分くらい。

ひろ〜い墓地。

Remi は父は戦死なのだから
ワシントンのアーリントン墓地に
埋葬されているのではないか、と
思っていた。


Thomasはこの兵役が終わったら
妻と子どもたちと、アメリカへ帰って暮らすのだと
戦友に語っていたという。

ある日。
ある部署へ用事で行ってくれる者は?
に彼が志願した。
二人でジープに乗っている時
敵に撃たれた。

そばにいた友にこれを日本の妻に、と
自分のブレスレットを
頼んだ。

その古いブレスレットは、Remiの母の手元にあった。
亡くなった時、友だちが一緒にいたので
お骨が帰ってきて、そこに埋葬されている。

そばに
Williams家のお墓もあった。
おばあさまのも、そして祖父のも。


真冬の墓地に、私たちの他には誰もいなかった。
風が少しあって寒かった。

「ここだよ」
案内されて
Remi は父の墓のそばに立った。
古いお墓だ。
地面に埋め込まれた墓石。
芝生に覆われてしまいそうだ。



―Thomas、見えますか?―



半世紀以上もたって
あなたの娘、Remi が
まいりましたよ。
どんなにか娘と暮らし、遊び、
孫を抱き、語り合いたかったことでしょう。


え? 私ですか?
ひょんないきさつで
ここに来ることになった
Remiのともだちなんです。


トミー、Remi のおかあさまにお会いになりましたか?
あなたが心から愛した人に。
少しお年も加わったけど、すぐにわかりましたか?

だってRemi のおかあさまは
誰とも再婚なさらなかったのですから。


「よくRemi を一人で育ててくれたね」って
「こんなに素直でいい人に育ててくれたね」って
ねぎらって、抱いてあげてくださいね。

もう二人は今、金色の光に包まれて
美しいお花畑の中で
ゆるやかに過ごしているのでしょうね。
そこは時間も存在しないのでしょう?

つらいことも
戦争もない世界に
いらっしゃるのですもの、ね。


そう思えることは
Remi にとってどれほど、心安らぐことでしょう。

Remi とTakaさんは
John たちが用意してくれてあった
お花をそっと父の墓に。

しばらくして
Remi はバッグから母の写真をだして
墓石の上にそっと乗せた。

彼女はスカートと白いブラウス。
きっとお二人が
出会った頃の写真でしょうね。

みんな覗き込んで
「彼女、きれいね」
「ほんとに…」

ハンカチをにぎりしめるRemi。
冷たい石の墓に手を置くRemi。
指で父の名前をなぞるRemi。

JohnがRemi の背に手を回す。
Cheryl がRemi を抱きしめる。

だれも言葉が出ない。
長い間、Remi は立ち上がらなかった。
彼女の心に、今
去来する思いは
そばにいる誰にもわからない。


どれくらい、そこにいたのだろう。


ゆっくりと抱き起こされた
Remi は、泣き腫らしていたが、
なんだかさっぱりとしていた。

目が合うと、ちょっぴり恥ずかしそうに笑った。


よかったねぇ。
お墓にお参りできて。
いろんなことを語りかけたのだろうね。
おとうさまに。
おかあさまに。







John の家に行く。
平屋であまり広くはない家だが
お二人で住むには十分な広さ。


聞けば、ここはもともとCheryl のうちで、
昨年の春に結婚した時、Johnは
自分の家を処分してここへ移ってきたのだと言う。
少し改築したそう。

「その時、ゲスト用のベッドルームを
私のオフィスにしてしまったの。
お泊めできなくて、ごめんなさいね」


ゆったりとしたリビング
キチンにダイニング
John たちのベッドルームに
Cheryl のオフィス。
来客用のソファのある部屋。


私はここが好きだった。左手にピアノがある。

どこもいごこちよく
センスのいい絵が掛かっていた。


さりげなくテーブルの上に置かれたクリスマスの人形たち。
気に入って、2枚も写してしまった。


かっわい〜い!




大きなねこが3匹もいる。
この子たちはCherylの飼い猫。





キチンのすみの地下への階段脇に
小さな猫用ベッドがある。
その中に丸くなっている
老ネコにそっと近づいて、なでてみた。

やわらかい毛。

やがて、目を細めて
心を許す“グルグル”が聞こえたので
そぉっと抱き上げて
ほおずりしていたら
それを見た
Cheryl が素っ頓狂な声を出した。

「あらっ!!」

えっ
何かいけなかった?

いいえ、この子は頑固な子で
これまで私以外の人には
決して抱かれた事がなかったのよ。
なのに、まぁ、なんてことかしら。
気持ちよさそうに抱かれて、まぁ。


私、ネコ好きなんです。

これまで
どんなネコ好きの人でも
ダメだったのに、と目を真ん丸くして
Cheryl は私を見つめていた。







ソファにくつろいで
Remi はおみやげに、と用意してきたものを
全員に渡した。
男性たちには腕時計
女性たちにはパールのイヤリング。

私もささやかなものをあれこれと。
立てて飾る扇を渡して
「I'm your fan.」
なんて、ふざけたら
Cheryl は
「まぁ、Hisayo ったら pun(ダジャレ)を言ったわ」









夕方近く。
Cheryl の兄が家を処分して、フロリダへ引っ越すので
そのお別れパーティがあるそうで、
私たちは、ホイホイとそこへ連れて行かれた。
リタイアしたので、老後はあったかいところに
住みたいのだそう。

そういう話よく聞くね。

兄のうちはもう引越しの荷物でいっぱいなので
近所の人の家に、手分けして持ち寄った
おいしい家庭料理をいただいた。


私たちは
東洋人だけど、だれも
ジロジロ見ない。
目が合うと会釈してくれて、
紹介されると
「ようこそ」
と、握手。

こういう雰囲気がRemiには
とても楽だったようだ。
いる間にアメリカの空気が
大好きになってしまったらしい。


たくさんの人の間をうろちょろする
人懐っこくて、かわいい少年がいて
話しかけたら
「ボクの部屋、2階なの。見たい?」
「うん、いいの?」
「こっちだよ」


子どもは大好き。
自然に話せる。

ふ〜ん、これが子ども部屋?と
Remi興味津々。

「これ、ボクの大事なものだよ」
と、宝ものの箱を開けて見せてくれたり
「ここはおにいちゃんのお部屋サ」

しばらくして
一階へ降りると、Jennifer が
「どこにいたの? さがしたわ」


「かわいいボーイフレンドと遊んでたの」