「なんだか不安で…」
![]()
その夜、私眠れなかった。
ほんとうかしらって。
だって、もう50数年も
音信不通だったのよ。
私があんなにさがしても
見つからなかったのに。
それがこんなに簡単に。
こんなに早く。
あの広〜いアメリカの中でよ、
いくらインターネットのおかげとは、いえ。
夫と二人、このことをどう受け止めていいのかって
混乱しているのがほんとうなの。
私、ちょっと不安定になったりもして。
だって、もし違っていたら……。
そこから
立ち直れる自信が、ないの。
![]()
不安っていうのはね。
私パソコンもやれないし、
英語も話せないでしょ?
ほんとにまちがいなく、私の叔父たちかどうか。
確かめようがないからなの。
「あなたはJohn さんですか」とか、
「お兄さんにThomas って人がいましたか?」とか。
「おいくつ違いのご兄弟でしたか?」とか、ね。
え?
確かめてくださるの?
そう、ありがとう。
明日、資料を持ってくるわね。
ここではそんなに詳しいこと話せないし。
Ted さんからはファクスもきててね。
これなんだけど……。
Ted さんの英語を、奥様が日本語にも
訳してくださってあるの。
あのね、ここを調べてほしいの。
父のことがわかるサイトだって
書いてあるでしょ。
さて
Remiのこういう話を
私は大阪の全国ボランティア大会へ
行く新幹線の中とか、
電話で、聞いた。
ボランティアをしながら、こんなややこしい話はできない。
二人が会えるボランティアの日には
ゆっくりと私語をする時間など、ない。
資料をあわただしく渡すくらいがやっとだった。
「あのね、奇跡が起きたの」
という、Remiの話を聞いたあの瞬間
私の腕に、ずわっと鳥肌が立った。
「わ、見てよ、感動して鳥肌が立っちゃった」
Remiはくすっと、笑った。
そのあとも、ことあるごとに
思い出しては
体中がぞくぞくっとした。
意外と私って
“感動屋さん”なんだわね。
再発見。
―いいなぁ、生きてるって。
なんて素敵なことなの。
そして
―すごいことが起こっちゃったんだわ、Remiに。
よかったねぇ、Remi。
あなたがこの世に存在する
大きな原因を作ってくれた人の消息、ルーツ。
![]()
Remiから
受け取った資料を持ち帰ると
家事はそっちのけで
自宅のパソコンで、インターネット検索。
「KOREAN WAR」のサイトが出た。
彼女の父の名前をさがす。
あった!
あったわよ、
Remi。
そこには、まぎれもなく
Ted さんの書き込みも。
その夜。
私は想像していた。
Remiの一抹の不安を。
「ご自分で確認するといいですよ」
という、Ted さんのファクスが目の前に。
Remi の叔母(John さんは02年3月に再婚された)に
あたるCheryle(シェリル) のメールアドレスと
従姉妹のJennifer の電話番号。
(Remiのおじさん、John は64歳。
かなり後になってわかったのだが、
彼は決してパソコンにさわらない人だった。)
私の話を聞いた夫が
「それこそ、メール出してみればいいじゃないか」
「そうよね、その手があったわよ、
あなた、たまにはいいこと言うじゃん」
「ありがとさん」
というわけで
Cheryle にメールを出すことにする。
「私はRemiの友人で……。
彼女の代わりにメールを出します…」と。
ところが二度トライして二度とも返ってくる。
例のuser unknownっていうあれ。
多分
メールアドレス、まちがってるのよ。
(事実まちがっていて、後日正確なアドレスがわかった)
いいわ。
こうなれば
Remiの従姉妹のJennifer (36歳)に
電話してみるわ。
Jennifer がTed さんに「私はThomas の姪です」と
電話してきた人だと聞いている。
ここまでくると「まぁ、今度にしよう」と
先へ延ばせない
のが、私の性格。
![]()
え〜と。
時差を考えると、オハイオは朝の8時ころね。
あら?
国際電話って、どうやってかけるんだっけ?
忘れちゃったヨ。
トゥルル〜、トゥルル〜。
うん、つながった。
ちょっとドキドキ。
落ち着け、落ち着け。
「ハロー」
と、男性の声。
え?
これは、誰?
Jennifer って、結婚してたの?
それとも……?
―あの、私、日本からかけています。
Jennifer のお住まいでしょうか?
―そうです。
あ、ちょっと待ってね。
しばらくして、電話口に出た女性は
勢い込んで開口一番
「Remi !?」
「いえ、あの私はRemiの友だちで……
Jennifer ですか?」
「ええ、そうよ。Remi がどうかした?
元気なの?」
「ええ、とても元気です。
私とRemiはボランティア仲間で。
彼女からこの話を聞いて……。
実は……
彼女はこのことがまだ信じられなくて
いえ、信じてはいるんだけど、
ちょっと、不安そうなんです。
それで私が確かめるために電話することにしたのです」
「そうなの、どうもありがとう。
で、Remiは、何パーセントくらい信じられないって?」
「う〜ん、そうね、1パーセントくらいかしら?」
ここで思わず、
二人で大笑い。
ちょっぴりせっかちそうな
明るい声に、私はJennifer に
親しみを感じ始めていた。
そして私がRemiの持っている何枚かの
写真をスキャナで取り込んで
メールに添付して送ることを提案する。
「OK。グッドアイデアだわ。
私のメールアドレスを言うから、メモしてね。
待ってるわ。
いろいろとありがとう。
Remiはいい友達を持ってるわ」
「ありがとう」
![]()
![]()