待てなくて、ね。





空港へ迎えに来てくださったのは、John (64歳)
昨年3月、Johnと結婚したばかりの、Cheryl (58歳)

John の長女のJennifer (36歳)―銀行にお勤め。
その夫 Scott ―(製肉関係の仕事)
次女のJill (32歳)―高校の英語教師、そして大学院生
Jillの婚約者、David ―十分に英語を話せない人たち
に(つまり、アメリカに住んでいて)
英語を教えていて、彼も大学院生。

ふたりは大学院で出会った。
(Jill たちは'03年6月、結婚予定)


John の家族はさほど背の高くない人ばかりで
これも親しみ深い。


「おなか、すいてるでしょ?」


みんなでランチに行くことになって
それぞれの車に分乗。
前に座ったJill が振り向いて言う。
「どうやって英語、勉強したの?」
「う〜ん。英語好きだったから、ね」
「そう…上手よ」
「ありがとう。David、って、かっこいいわ」
彼女は助手席に座っている
David を振り向いて見てから答えた。
「ええ、私もそう思うわ」
と、ニッコリ。
ハイ、ごちそうさま。

Jillはとても魅力的な女性だ。







レストランに着く。

総勢10人。
丸いテーブルにテキトーに席につく。
右隣がJennifer。

Remi の右隣はJohn 。左隣はCheryl。
Remi はJohn の腕に手を回して
ときどき見つめあって
微笑みあい、うなづきあい。
JohnはRemiの手を軽く
ポンポン。
ふっと涙ぐんだり、
肩にそっともたれかかったり。


ああ、こういうことを
Remi、したかったんだよ、ねぇ。
“肉親に甘える”ってことを。

“父”を知らないRemiは
渡米まえにJohn の写真を見ては、
「10歳くらいしか違わないのに、
なんだか、おとうさんのような気がするの」
と、笑っていたもの。

Jennifer やJill は
She is beautiful(Remi、きれいね)
と、うなづきあっていた。


初対面で、すっぽりと受け止められて
すっと、もたれたくなるくらい
あったかな気持ちになれたんだ
Remiは。


濃いよね、血って。

ともに、ここにいられる充実感のようなものが
私の中にゆっくりと満ちていく。



ときどき、Tedが、彼らの通訳している。

“通訳さん”は少し緊張した固い表情。
つまり、シゴトの顔。

私の出る幕はないわ、と
ゆったりした気分になってScott とおしゃべり。
Scott は人懐っこいオヒゲの人。

見渡しながら、確信した。
思っていたとおりの人たちだった、と。

素敵な滞在になりそうだネ、Remi。







食事をしながら
私はJennifer にたずねたいことがあった。

「ね、インターネットであなたが
おじさんを探し当てた時のこと、聞きたいわ」

「ええ、いいわよ。あの日はね……」
と、ちょっと思い出すように遠い目。
口元をナプキンで拭いて
私の方に向き直る。

真っ白い肌のJennifer。


10月の何日だったかしら?
確か土曜日だったのよ。
私はScott と外で、何かやってたの。
それ、私たちの共通のお気に入りの趣味なんだけど、ね。
家のこと、やるのが。


ちなみにJenniferのうちは
コロンバスの郊外にあるが、
とてもひろ〜い。
庭もひろ〜い。
古い建物を気に入って購入して
自分たち流に改造するのが大好き。
後日寄らせてもらったが
とても素敵だった。


左隣に座っているScott は時々
私たちの話を聞いてうなづく。
目が合うと、笑顔。


何の話だったかしら? いつもはそんな話しないのに
私には日本に従姉妹がいるのよ、っていう話になったの。
生きてれば私よりも年上だけど、とか。
小さい頃に父やおじい様から
聞いたことがあったし、
写真見たの、覚えてるし。
「これだぁれ?」って。

Scott がたずねたわ。
「探したことあるの?」

ううん、だってずいぶん前にも
探したけど、ダメだったし。
おじいさまが残した封筒の住所へ
手紙も出したけど
音沙汰なしだったし。


「インターネットっていう手は? 試した?」

ああ、そうだったわね。
やってみる価値はあるかも、ね。
私、そのままうちに入って2階に行ったの。
もっとも
何も期待していなかったけど、ね。


そして……。

おじさまのサイトが出たので
カーソルをずらせていったら…
Ted の書き込みがあったのよ。


私は、今年の夏、日本で
Thomas の娘さんに会いました。
心当たりがある人は
私までメールをください」








想像してみて、そのときの私を。
びっくりして、もう鳥肌が立って。
叫んじゃったわ。

ここでつい私も
「ええ、私もRemiから聞いて、鳥肌でした」
二人でうなづき合う。
(鳥肌って、goose bumps, goose flesh
というんだけど、なんでgoose(アヒル)なのかしら?
日本ならさしずめ、鶏でしょうに)


この肝腎な場面で、興奮した私は
“チキンポップ”なんて、言い間違えた。
「Hisayo、それは伝染病
(天然痘)のことよ」



Scott はまだ外で仕事していて…。
大声で呼んだわ。

Ted にメール……? 
待っていられないわよ、そんなの。

電話しようって思った。
(その気持ち、私、よ〜くわかるわ、と言って二人で大笑い)
そうよね、あなたも私に電話くれたのよね。
こことコロラドの時差は、2時間。
午前10時過ぎだから、あっちは8時ごろね。

苦労して電話番号を調べて電話したってわけ。

「もしもし、オハイオのJennifer と言います。
Thomas の姪です。
今、インターネットであなたのコメントを見つけました」


Ted がこの呼びかけ文を書いて
3ヶ月もたって忘れかけたころの電話。
彼も驚き、喜び
彼も苦労してRemi の電話番号を調べて
かけてきたのだそうだ。

私は、翌日それをRemiから聞いたのだ。


Ted もテーブルの向こう側から
私たちの話の内容を察して
肩をすくめて、うなづいていた。
「そりゃあ、私も大興奮でしたよ」


聞いている私も、彼らのその瞬間を想像して
再び、あの“ぞくぞく”がきた。


Jennifer にその時のことを聞けただけでも
来た甲斐があったというものだ。


すごい事だったわよねぇ。
奇跡よねぇ。
まさに“Miracle” よねぇ。


でも、ね。
Jennifer が、続けた。

もしも
私がもっと早くに、つまり春ころに
インターネットでさがそうとしていたら
何も、なかったわけでしょう?
多分私、諦めてもうそれ以上
何かをしようとはしなかったと思うの。

だから、きっと何か、が私たちお互いを
呼びあったのよ。
そうとしか思えないわ。

もう数十年、何の手がかりもなかったわけだし、ね。
私だって、初めてインターネット検索したのだし。

私は思った。
“機が熟する”ということ、を。

そういうことは、この世に
ときおりだけれど、確実に起こりうるのだ、と。








Jennifer がこれを数人の友人に話したら
「そんな素敵なことは、ぜひとも新聞に
出さなくては」って言われた。

Remi にそうしていいか、たずねてほしい
と、渡米前にメールがきていた。
「Remiの気持ちが一番大切だから
いやだったら、全然かまわないのよって
伝えてね」

Remi は
「父のお墓まいりの日以外なら」という条件をつけて
そう乗り気でもなかったけれど、承諾した。


3日後にリポーターとカメラマンが
John のうちへ取材に来ることになっているそう。
これもJennifer が以前、
そこの新聞記者だった縁なのだそう。

なぜ辞めたの?

時間があまりに不規則で
まいっちゃって転職したの。


電話で話したJennifer
せっかちそうで明るくて、イメージそのままの人だった。
Remi に一番似ている感じの人だった。







それから少しショッピングモールを歩いた。
このレストランに隣接して
2年前にできたばかりのこのモールは
ハイセンスで充実、素敵だった。

(後日、ゆっくりRemiと二人で歩く時間をとった)

歩き始めてすぐに
Remi は見た瞬間、気に入った
白っぽいジャケットを買った。
それはRemi にとても似合っていて
彼女は何度もそれを着た。

John、Ted、Scott、David、そしてTaka の5人の男たち。
Cheryl、Jennifer、Jill、Remi、そして私の女性5人。
これからここ、コロンバスで
この10人が、遊ぶのだ。
なんて楽しそう。
洗練された感じの大人たちとの日々。


明日の予定を打ち合わせた後
Ted が私たちのホテル
Quolity・Inn」へ
送ってくれる。







Ted は219。
私が220、Remiたちは214だ。
カードを使って部屋に入ったら
そこは、リビング。
絵のかかった壁際のテーブルに
大きなバスケットが、デン。


―バスケットの中身は―
“John 食料品店”からの差し入れだ。


白ワインのボトル、栓抜き(大事にいただいてきた)
丸い形がかわいい、素敵なワイングラス
(割れてはいけないので、置いてきた)

チーズ、チョコレートの詰め合わせ
アールグレイ紅茶100袋の缶
これは筒の中に丸い紙の
ティーバッグが
たくさん。
デザインが
おもしろくてこれも
ぐー。リサイクルの紙パック
というのがいい。いろいろなナッツ類
の缶。そして、私の大好きなフルーツ。
たくさんのぶどう白と紫の2種類に数個のりんご
西洋ナシ。コロンバスの2003年の壁掛け型カレンダー。


なんて
気配りのあるプレゼント。
心づくしのモノたち。

モノたちは、時として雄弁に
思いを語り、つたえてくれることが、ある。


John がCheryl たちと
何がいいだろうと、選んでくれたのだろう。
Ted やRemi たち(二人分)にも
もちろん同じものを。







荷物をおいて部屋を見て回る。
大きなダブルベッド、整理ダンス、
テレビ
(特筆すべきはNHKが見られたこと)

洗面所は広くてゆったり。
バスルームも申し分ない。

空港でもらった花束を
ホテルの部屋にあった紙コップに生ける。
カーネーションと、マム(菊)を別々にして、
ベッドの横に置く。

この花たちは、ここに滞在した7日の間
ほとんど元気で私を出迎えてくれた。

花は、ほんとにいいものだ。
無機質なホテルの部屋を
ワインと花がほっとさせてくれた。

それにしても
疲れたぞよ、今日は。


旅に出たとき
ホテルの部屋にいる間
私はテレビをつけっぱなしている。
音もほしいが、ニュースを見たい。
わからないことばがあっても
文化が味わえる。

シャワーの後
みずみずしい
食べごろのナシを堪能して
ひろ〜いベッドに
もぐりこんだ



あ、そうそう
日記まがいのメモを手に
紅白歌合戦を、ちょこっと。


うん?

氷川きよしクンとかを、ね。